3話
名前も知らない彼女の死は、日を追うごとに消化されていき、やがて誰も口にすることはなくなった。
最初の数日は、噂が流れた。
「自殺だったらしいよ」
「いじめが原因で」
「複雑な家庭だったんだって」
でも、それもすぐに消えた。
彼女の死から3週間が経ち、いつものつまらない日々が戻ってきた。
席がひとつ空いたままでも、誰も気にしなくなる。
笑い声は変わらない。授業も変わらない。
全部、元通りになった。
まるで最初から何事もなかったようだ。
僕だけが時々、思い出す。
花に囲まれた彼女。
全てが奪われていく、全てから解放されていくあの瞬間。
色が抜けていく様子。
あれから、何も起きていない。
少しだけ退屈だった。
もう一度「見たい」と思った。
あの時の気持ちをもう一度味わいたくなった。
学校の帰り道、夕陽が眩しい日だった。
僕は導かれるように、普段は利用しない歩道橋へと向かっていた。
前に女の子が歩いていた。
隣の高校の制服を着た赤毛の小柄な子だった。
周りには誰もいない。歩道橋の階段を登っていく。
鼓動が速くなる。
階段も中盤の終わり頃、僕は歩く速度を上げる。
急いでいるフリをする。
鼓動が速くなる。
彼女との距離が縮まる。
あと、数段。
鼓動が速くなる。
肩に触れた。偶然を装った。
彼女の身体は、少し揺れた。
「えっ…」
か細く、短い声。
そのまま足を踏み外した。




