第2話「十四年前の影」
◇ シーン1 彼方家・リビング(土曜・朝)
カーテンから朝日。布団から跳ね起きる遥。
遥「(寝ぐせ全開)ゆ、夢……だよな?」
拓真「(天井から逆さまにぬっと)おはよ」
遥「うわあああ!! いる!! 朝でもいる!!」
朝食の卵かけごはんを一人でかき込む遥。向かいで頬杖をつく拓真、恨めしそう。
拓真「いいなあ……俺も食いてえなあ……最後の晩餐が焼き鳥とハイボールって、なんか、こう、もっとあったろ俺」
遥「(口いっぱいで)人の朝メシ見つめんな。成仏しかけろ」
拓真「する理由がねえんだよなあ!」
◇ シーン2 高城市・繁華街の路地(昼)
人通りの少ない裏路地。ビルの隙間。regulation テープはもう外されているが、地面の隅に献花と缶コーヒーが供えられている。
遥、手を合わせる。その隣で、拓真が自分への供え物を見下ろしている。
拓真「……変な気分だな。自分の墓参りって」
遥「(小声で)何か思い出せそうか? ここがお前の――」
拓真「(路地の奥を見つめて)……店を出て、ここを通って、駅に向かってた。ほろ酔いで、いい気分でさ。そんで……」
拓真の視界がノイズのように乱れる演出。記憶が、黒く塗り潰される。
拓真「……ダメだ。やっぱりここから先が、ねえ」
遥「じゃあ順番にいくぞ。刑事ドラマの基本だ。――お前、なんで高城に帰ってきてたんだ? 東京で働いてたんだろ」
拓真「有休消化。会社に取れ取れ言われてさ。で、ふと思ったんだ。……ガキの頃住んでた町、見に行くかって」
◇ シーン3 高城市の町並み(移動しながら/回想を挟む)
二人、事件前日の拓真の足取りを辿って歩く。シャッターの増えた商店街。よく買い食いした駄菓子屋は駐車場になっている。
拓真「うわー、ここ駐車場かよ! ババアの店! 十円ガム三個くれるババアの!」
遥「四年前にな。……で? 次はどこ行った」
拓真「小学校の前。中には入れなかったけど、フェンス越しに校庭見てさ。それから……」
拓真の足が止まる。表情から軽口が消える。
拓真「……それから、気づいたら、足が勝手に向かってたんだ」
遥「どこに」
拓真「――裏山の、雑木林」
遥の目が見開かれる。ざわ、と風が鳴る。
◇ シーン4 裏山・雑木林の入り口(夕方近く)
町外れ。うっそうとした雑木林。立ち入りを禁じる古びたロープ。その脇に、風雨に晒された小さな献花台。真新しい花が一輪、供えられている。
遥「(献花台を見て)……誰かが、今も花を」
遥(M)「思い出した。この林……ここは――」
回想フラッシュ。十四年前。ヘリコプターの音。「ゆうくーん!」と叫びながら林を捜索する大人たちの列。泣き崩れる母親。電柱に貼られた【この子を捜しています 田久保ゆうくん(9さい)】のポスター。
遥「田久保ゆう、失踪事件……」
遥(M)「俺たちが小5の夏。二コ下の田久保ゆうが、この林の近くで消えた。町中で捜して、テレビも来て――結局、見つからないまま。今も」
遥「なあ拓真、なんでお前、よりによってこんな……」
振り返った遥、言葉を失う。拓真が、献花台の前で、幽霊のくせに真っ青な顔をして立ち尽くしている。
拓真「……遥。俺、お前にも言ってないことがある」
間。拓真、意を決して。
拓真「十四年前――消える直前のゆうを最後に見たのは、俺なんだ」
遥「……!!」
◇ シーン5 同・雑木林(回想を交えて)
回想。十四年前の夏の夕方。セミの声。林の入り口。
虫かごを持った小5の拓真。林の方から歩いてくる小3の田久保ゆう。日焼けした顔、うれしそうな笑顔。
少年ゆう「あ! たくまにいちゃん!」
少年拓真「ゆう? こんなとこで何してんだよ、もう暗くなるぞ」
少年ゆう「ひみつきちにさ、たからものをかくすんだ! だれにもいえないんだけど……にいちゃんだけ、とくべつな!」
ゆう、口の前で「しーっ」と指を立てて、林の奥へ駆けていく。振り返って手を振る、小さな背中。
少年拓真「(手を振り返しながら)気をつけろよー」
回想ここまで。
拓真「……それが最後だ。次の日、ゆうは学校に来なかった。俺は警察に何回も話を聞かれた。何を見たか、誰かいなかったか、って」
遥「そんなの、初耳だぞ……」
拓真「言えるかよ。『俺が引き留めてれば』って、ずっと……ずっと思ってた」
拓真、献花台の前にしゃがむ。供えられた花に、透けた手が触れられずにすり抜ける。
拓真「そんで、その翌月だ。親父の転勤が急に決まって、俺は東京に引っ越した。……逃げるみたいにさ」
遥、はっとする。
遥「――待てよ、拓真」
遥「お前、十四年ぶりに高城に帰ってきて、昼間にこの『現場』を訪れて……その日の夜に、殺されたのか?」
拓真「…………」
遥「偶然……だよな?」
拓真「……俺も、ゆうべからずっと、それを考えてる」
遥(M)「通り魔なんかじゃ、ないのかもしれない」
遥(M)「二つの事件は――繋がってる?」
◇ シーン6 彼方家・リビング(夜)
広げられたノートに相関図を書き殴る遥。「大倉拓真殺害」「田久保ゆう失踪(14年前)」を線で結び、「?」マーク。
遥「十四年前のことを調べ直すしかねえ。当時の記録……新聞、それから」
拓真「学校だ」
遥「え?」
拓真「小学校には残ってる。当時の文集、卒業アルバム、学校に来てた不審者情報のプリント――俺ら、集団下校させられたろ。ああいう記録は年度ごとに資料室に保管されてんだよ。会社の総務で備品管理やってたから分かる。ああいうのは捨てねえ」
遥「なるほど……って、部外者が見せてもらえるわけないだろ。『幽霊の依頼で調べてます』って言うのか?」
拓真「だから、こうする」
拓真、にっと笑って、壁を指す。それから、自分の体を指す。
拓真「俺は壁をすり抜けられる。お前は塀を乗り越えられる。――夜の学校、久しぶりに探検しようぜ、相棒」
遥「(頭を抱えて)いい大人が不法侵入とか終わってんだろ……」
◇ シーン7 夜の母校・小学校
月明かりの校舎。塀をよじ登り、無様に落下する遥。先にすり抜けて中で待っていた拓真が指をさして笑う。
拓真「(声を出さずに爆笑)」
遥「(小声)笑うな!! お前は楽でいいよな!?」
昇降口の鍵はダミーの隙間から。きしむ廊下。理科室の人体模型に悲鳴を上げかける遥、拓真に(透ける)手で口をふさがれかける。
拓真「(先の廊下を透けて偵察してきて)資料室、三階の奥だ。行けるぞ」
三階・資料室前。遥、埃っぽい引き戸にそっと手をかける。
遥「(ごくり)開いた……」
その瞬間――廊下の奥から、カッ、と懐中電灯の光が二人(の片方)を照らす。
光の中に浮かび上がる遥の間抜けな顔。
声「――誰!? そこにいるのは、誰ですか!!」
遥&拓真「「!!!」」
【第2話・了】




