アリバイ
「お姉様、この写真に心あたりはありませんよね?」
ももかにそう言われ渡された写真を手に取る。
「当然ないわ。だって着物なんか1着も持っていないし、この場所もこの男性のことも知らないわ。」
「じゃあ、君のそのクローゼットの中見せてもらってもいいか?」
「ええ、かまいませんわ。わたくしの服は皆そのクローゼットの中に入っているから。」
えりはゆきとももかと共にクローゼットに入る。
ハンガーにかかっているのは全て西洋風のドレスやワンピースばかりだ。
写真のまりは赤地に白い花模様の着物を着ている。しかしそれらしきものは見つからない。それに着物は1着もクローゼットには入っていなかった。
「お嬢さん、君の言う通りこの着物は見つからなかったよ。」
「当然ですわ。ついでにこのタンスにも入ってませんわ。」
まりは白いタンスの引き出しを全て開けるがそれらしきものはない。
「えりさんとおっしゃいましたね。」
まりはえりに1枚の写真を見せる。それはまりが男の腕を組んで歩いてる写真だ。写真に駅舎が写し出され時計が時刻を指している。
「3:10」
また全ての写真には右下に撮影された日時が入っている。
「大正十一年三月二日」
その日まりは声楽の講師が来ることになっていたから外出はしていない。
「それを証明できるものはありますか?」
「使用人達に聞けば分かりますわ。宜しければ先生にお尋ねしてみるといいですわ。」
まりは紙にメモを書きえりに渡す。
そこには声楽の講師の名前と住所が書かれていた。
「ありがとう。ゆきちゃん、ももかちゃん、その声楽の講師を尋ねてみよう。お嬢さん、君の無実は必ず晴らすからね。」
帰り際にメイドに聞いてみたがレッスンが始まる10分前の14:50に声楽の講師が訪れるのを見たというメイドがいた。
その後都内の表参道に住む声楽講師の元を訪れた。彼女も写真が撮られた同日、まりの歌のレッスンのためまりの邸宅のピアノがある広間にいたという。講師はその日使った歌の楽譜やすけじゅーる帳を見せてくれた。3月2日には「まり様レッスン」と書かれていたけど
まりのアリバイは証明された。
しかしえりには疑問が残った。
喫茶店に入りコーヒーを注文したが気がかりで喉を通らない。
「えりちゃん、コーヒー飲まないの?」
「冷めてしまいますよ。」
「なあ、この写真の娘、誰なんだ?」
まりは写真が撮られた日はずっと家にいた。それはメイドや声楽講師が証明してくれた。
着物も部屋からは見つからなかった。
つまり写真のあの娘はまりではなく別の誰かだとえりは思い始めた。
「いらっしゃいませ。」
女給の声を聞き、えりはふと入り口の方を見る。袴姿の女学生が2人で来店してきた。
1人の少女は赤い珠の簪をつけている。
えりは少女の赤い簪と写真のまりにそっくりな誰かを見比べる。
「えりちゃん?」
「えりさん?」
ゆきとももかは不思議そうにえりを見ているがえりはそんなことはお構い無しに簪の少女の元へと向かっていく。




