パリの貴婦人のブティック
「サリーさん、ごきげんよう。ねえマダムリーズいらっしゃいます?」
「はい、今呼んで参ります。」
サリーは奥にリーズを呼びに行く。
ここはマダムリーズのブティック。リーズは元はパリの社交界の花形貴婦人であったが夫が他界し6年前の大正5年に帝都にやってきてブティックを始めた。リーズは同じくフランスから来たサリーと日本人の少女お咲と一緒にお店をやっている。
「梅子様、マダムを連れて参りました。」
「ごきげんよう、梅子様」
「ごきげんよう、マダム」
目の前に現れたのは金髪を縦ロールにして水色のドレスをを着た貴婦人である。
「えっとぼんじゅーる、マダム、えっと」
えりかは片言のフランス語で挨拶する。挨拶はしたいがなかなか単語が出てこない。
「Bonjour mademoiselle.日本語で構わないわ」
「はい、マダム。」
「あら、貴女そのカチューシャ?」
リーズはえりかがつけている赤いカチューシャに気付く。
「これ、当店のじゃないかしら?」
「はい、私がえりかお姉様の誕生日にプレゼントしたんです。」
以前梅子がえりかと一緒にデパートの前を通ったときにしょーうぃんどうに飾られてる洋装のマヌカンをえりかがずっと眺めていたときがあった。
(お姉様、洋装に憧れてるのかしら?)
そう思ってリーズのお店のカチューシャを誕生日にプレゼントした。
そして今日はリーズにえりかのことを紹介しようと思い店に連れてきたのだ。
「マダム、華やかな洋装ばかりですね。」
普段は和装が多いえりかには洋装は新鮮に感じたのだろう。
「どうぞ、手に取ってごらん下さい。」
えりかは緑色の丸襟のワンピースを手に取る。丈は踝ぐらいまであり、白いフリルがついている。
「宜しければご試着なされます?」
「宜しいのですか?マダム」
「ええ、お咲、手伝ってあげて。」
「ウィ、マダム。」
お咲きはえりかを試着室へと案内する。和装でいらっしゃるお客様にはお咲が試着を手伝うことにしている。
「さあ、どうぞ。」
着替えが終わるとお咲に連れられ試着室から現れた。
一見街を行くモダンガールのようにも見えるが薄緑のワンピースとえりかの白い肌からは深窓の令嬢と呼ぶ方が相応しいと梅子は思った。
「お姉様、お買い上げされますか?」
えりかの表情が一瞬暗くなる。買いたい気持ちは山々だ。しかしえりかの家族は洋装は肌を見せるという理由であまり好んではいない。
「素敵だけど遠慮しておくわ。だってお父様になんて言われるか分かりませんもの。」
「でしたら、私の家で着ればよいのよ。家で預かっておくわ。」
えりかは梅子の言葉に甘えることにした。
「ありがとう。梅子。マダムリーズのお店素敵ね。」
「また一緒に行きましょうね、あら、そういえばお姉様」
梅子はえりかの頭上に目をやる。先ほどまでしていたカチューシャがないのだ。
「あら、本当ね。」
えりかは鞄の中を探してみるが見当たらない。
「きっとマダムの店に忘れてきたのだわ。わたくし取りに行ってくるわ。」
「お姉様、私も着いていきたいけどこの後バレエのお稽古が。」
「構わないわ。わたくし1人で取ってくるから。」
えりかは1人来た道を戻って行った。




