乙女達の憂鬱
「もう、どうしてかしら?わたくし寂しいわ。」
ここは浅草のとある喫茶店。江戸時代から賑わう純日本風の下町。着物姿の芸者衆や法被姿の男衆が行き交い毎日が夏祭りのようだ。しかし最近は少女歌劇団ができたおかげで古風とモダンが混ざり合っていた。
そんな街の喫茶店に黄緑色の丸襟のドレスの令嬢がいた。紅茶を飲みながらため息をついている。
「気持ちは分かるけど仕方がないわ。だから今日は私が付き合っているんじゃない。まりさん。」
まり。それが彼女の名前だ。ウィーンから帰国したことで注目を浴びた華族令嬢である。
「美伶さん、だってももかがわたくし以外の女の子と一緒なんて。それもここ数日。絶対何かあるわ。」
まりは向かいに座ってる学友美伶に話しかける。
学友は袴姿だ。上衣は紫に白百合の花が描かれ下衣は水色の無地の女袴である。すとれーとに伸ばした黒髪にカチューシャをつけている。
「まりさん、ももかちゃんだって心変わりはするわ。」
ももかというのはまりの妹。といっても本当の妹ではない。女学生達は「エス」と言って上級生と下級生が友人達以上に親しい関係になることをそう呼んだ。
ももかは孤児で以前は女学校の寄宿舎で暮らしていたが本当の母は華族であった。今は本当の家族と暮らしている。ももかがまりとの付き合いが少なくなったのもその頃からだ。
「だってあの娘。ももかをお姉様って呼んでたもの。」
ももかは他の少女と親しくしているようだ。
「ああ、えりちゃんが他の女の人と一緒だなんて。心配だわ。」
まりと美伶が近くのテーブルに目をやると女性が1人ため息をついている。丸襟のワンピースのモダンガールだ。
「ゆきさん?!」
まりはモダンガールに見覚えがあった。
「まりちゃん?!それから美伶ちゃん?!」
彼女はゆき。男装の探偵えりの秘書をしておりかつてまりが関わった事件を解決したことがある。
まりとも学友の美伶とも面識がある。
「ゆきさん、どうしました?またえりさんが浮気したんですか?」
「そうなのよ。えりちゃんが女の人と二人で少女歌劇なんて行くのよ。」
「あのゆきさん」
美伶が入る。
その方って事件の依頼人とじゃないんですか?」
えりはかつてまりの事件の調査のために女学生に頼んで呉服屋に連れて行ってもらったことがある。今回もそれと同様のものである。
「そうなのよ。依頼人よ。」
「だったらいいじゃないですか。」
「それが良くないのよ。」
その依頼人というのがえりが女学生の頃エスだった相手。ただの顧客で片付けられる事柄ではない。だから心配になって後をつけてきたのだ。
「分かるわ。ゆきさん。」
まりが手を握る。
「わたくしもももかが他の少女と一緒に歌劇を見に行ってるの。」
「まりちゃん、私達お互い苦労してるのね。」
「もう!!」
美伶が立ち上がる。
「2人ともそんなに心配なら劇場に様子を見に行ってみればいいじゃない。」
「そうね。ももかの妹とやらどこのどなたなのかしっかり突き止めましょう。」
「ええ、あとえりちゃんのお相手も。」
美伶に促され3人は喫茶店を後にする。




