取引
「ゆきさん?!どうしてここに?」
牢獄の先客はももかであった。
「貴女を助けたくて忍び込んだのよ。私も捕まっちゃったけど。」
「ゆきさん1人で?」
「いえ、えりちゃんも仲間よ。それから貴女のお姉様もね。」
ももかの救出はまりの依頼なのだ。ゆきは諜報員として敵の素性を探るために送り込まれたのだ。
「お姉様が。嬉しい。」
しかしももかの表情が暗くなる。
「だけどもう会えないのよね。」
「まだ諦めちゃ駄目よ。きっとメイドの仲間が私がいないと分かると探してくれるわ。」
ゆきは立ち上がると扉を強く叩く。
「お願い!!開けて!!私はここよ!!旦那様のお客は人買いよ!!」
「無駄ですよ。」
ももかが止める。
ここで働いているメイドは皆高宮公爵の悪事を知っていて黙認している。いわば仲間のようなものだ。
翌日扉が開く。そこには昨日ゆきの意識を失わせた黒服の男達がいた。傍らには公爵もいる。
「さあ行きましょう。お嬢様方。」
ゆきとももかは男達に連れ出され車へと乗せられる。
到着したのは人通りのない港であった。船が一台停泊している。
「さあ、来い。」
ゆきとももかは黒服の男に拳銃を突き付けられ車から降りる。
「公爵様」
公爵の部下が倉庫から20人の少女達を連れて合流してきた。彼女達は皆郭にいるような着物を着ている。遊郭から買い占めたのだろう。
船の甲板には男が立っていた。スーツにトレンチコート、帽子を被っている。彼が取引相手だろう。男は後ろに部下を引き連れて降りてくる。
「How do you do?Mr.Wo.」
高宮公爵が英語で挨拶する。ウォン?中国人なのか?
「Thank you for your time today Mr.Takamiya.Are these girls brought to me?」
「Certainly sir. 」
「Wonderful!! Japanese girls are so modest that European people in Tenshin will love them.」
天津にあるヨーロッパ人の祖界に売られるのか?
ウォンの部下がスーツケースから大金を取り出す。
「さあ行け!!」
ももかとゆきは拳銃を突き付けられ他の少女達と共に船に乗せられる。
もう駄目だ。そう思ったとき
「Mr.Takamiya, I appreciate you because you tried to sell my wife.」
ウォンと呼ばれた男は帽子を脱ぐ。
「えりちゃん?!」
男の正体は変装したえりであった。
「誰だお前は?!ウォンはどこにやった?」
えりは公爵に拳銃を突き付ける。
「今頃ホテル、いや警察署だろう。僕の仲間が通報してくれたからな。」
「黙れ、どうせもう少女達は船の中だ。船が出ればもう逃げ場はない。今すぐに船を出せ。」
「だってよ。船長さん。」
えりは甲板にいる船長に大声で呼び掛ける。
「そうですか。ではお断りします。」
船長はそう言い放つと帽子を脱ぐ。
「みづきさん?」
そこにいたのは船長ではなくまりのダンス講師で少女歌劇団の元男役みづきだった。




