102話・陰険うさぎ
食事を終えて皆で、食後のお茶を頂いている時だった。
「たのも──」と、声がかかり、門番と押し問答の末、「あんたじゃ話にならない。当主に合わせろ」と、若者が怒鳴っているような声が聞こえてくる。なんだか騒がしい。
「何事だ?」
と、アーサーが反応し、屋敷の執事に様子を見に行かせる。すると今度は執事と押し問答するような感じで声の主が上がりこんできた。
「いや、そんなはずはない」
「そのようなお方は当屋敷には……」
「ラメルさま。止めましょう。失礼ですよ」
押し問答する脇で誰か止めているような声もしてくるけれど、どうも押しが弱いように感じられる。
「姉上は大人しいお方だからな。監禁なんかしているんじゃなかろうな?」
「お訊ね先をお間違えでは無いでしょうか?」
「ラメルさま。不躾に何を言い出すのですか? 申し訳ありません」
さあ、帰りましょう。と、連れの者が止めようとしているのを俺には分かる。と、その若者は拒んでいた。
「姉上は絶対、ここにいる。この俺が嗅ぎ間違えるはずがないんだ。この匂いは絶対姉上さまのものだ。隠しても無駄だぞ」
かなりしつこい相手だ。執事さえ言いこめている感じがする。
「そこの部屋にいるだろう? 上がらせてもらうぞ」
「それは困ります。どうぞお待ちを──」
がちゃりとノブが回されて一人の貴公子が入ってきた。一目でロリアンの弟だと分かった。二人は異母姉弟なのに端整な顔立ちといい、品の良さがよく似ていた。
「ラメル」
「やっぱりここにいたじゃないか? ジャン」
「はい。そのようですね。殿下」
ロリアンが思わずといった風に立ち上がる。ラメル殿下は喜び勇んで近付き、ジャンと呼ばれたラメル殿下の侍従らしき男は、疲れきった顔で肯定した。
「姉上。お会いしたかった」
「ラメル。宮殿の方はどうした? 父上のお手伝いをしなくていいのか?」
ラメル殿下はロリアンに抱き付いた。ロリアンは驚きつつも弟の背に腕を回していた。
「あのような作業は俺には向きません。俺は剣をふるっている方がいい」
「それではいけない。セージ。そなたは王太子になるのだぞ」
「王太子は姉上ですよ。あのババアが言い出したことなど認めているのはババア一派だけ。他の者は誰も本気で受け取ってませんよ。父上も初めはババアに言い含められて一度は俺に姉上のように学ばせようとしたけど、俺が書類を見るだけですぐ寝てしまうから呆れ果てて、おまえは向かないと認めましたよ」
「ラメル」
「だから父上は皆に姉上は王太子として見解を広める為に遊学に出たと説明していたしね」
弟をたしなめようとするロリアンだったが、目を丸くしていた。ババアとは王妃さまのことだろうか? 自分の母親に対しラメル殿下は辛辣だった。意外と毒舌タイプのようだ。
「それ、初めて聞いたぞ。ラメル」
「そこの陰険うさぎがワザと教えなかったのでしょう」
陰険うさぎと言う言葉に、アーサと五つ子達が哀れむような目をセージに向けていた。その通りだから仕方ないよね。ロリアンの前では暴露されたくなかったのかな? セージは誰のことですかね? と、あさっての方向を見ていた。




