第5話 帰ってこないを認める~屋根の下で~
ようやく自分の両親の死を受け止め抱きついてきたグラネイトの背中をさするトネリコ。
グラネイトはトネリコに自分の両親が死んでいるのを知っていたとこぼす。
そしてフェンネルの両親が死んでるのも知っていて、フェンネルが待ってるから喋ってないと。
伝えるべきか問われ、トネリコは、それはダメといい、フェンネルが自ら受け入れることが重要だと言う──
「とねりこ」
「何?」
「しってた」
「何を?」
「おれ、おっとうと、おっかぁ、しんでるのしってた」
「……そう」
「でもみとめたくなかった」
「それでいいの、今認められた」
グラネイトは私に抱きつき、泣き出した。
「フェンネルのおっとうと、おっかぁしんでるのも、しってた」
「フェンネルが帰りを待ってるから言わないのね」
「うん」
頭は撫でない。
涙も拭わない。
そんなことをすれば、彼に罪悪感を抱かせてしまいそうだから。
ただ、背中をさするだけにした。
「フェンネルにつたえる?」
「それはだめ。あの子自身が受け止めなくちゃいけない。辛いことだけど、あなたが受け止めたように」
「……うん」
風が吹いた。
腐敗した死体が露わになる。
私は布を手に取り、死体を覆う。
「……うめる」
グラネイトは言った。
「どこへ?」
「いえの、あさひが、のぼるのが、みえるばしょ」
「みんなに手伝ってもらう?」
「うん」
グラネイトと共に、皆のいる場所に戻った。
シオンを抱きかかえ、ベラドンナたちが私の衣の裾や袖を引っ張りながらついてくる。
それを確認してから、グラネイトの指定した場所に手を当てた。
土が自動で掘られていき、浅い穴ができた。
大人二人が入れるくらいの穴だ。
私は腐敗臭と恐怖を飲み込みながら、シオンをベラドンナとカレンデュラに任せた。
そして、グラネイトと一緒に彼の両親を穴に埋め、土で覆っていった。
布が土で覆われ、小さな山ができた。
墓だ。
墓石のない、墓。
「ここに、にく、おく。むこうでもこまらないように」
風が、獣人の風習を伝えてくれる。
獣人は死した同胞の墓に食べ物を供えるのだと。
死後の世界で飢えることがないようにと。
「つぎは、にくじゃなく、はなを、おく」
「それでいいと思う」
「まいにちじゃなくても、はなを、おく」
「ええ、それでいいの」
そう言ってグラネイトは私に抱きついてきた。
「とねりこわかってた」
「ええ、分かってた」
「でも、いわなかった」
「そう、言わなかったの」
「……ありがとう」
小さな感謝の言葉。
一歩踏み出せた証でもあった。
「おかえり」
フェンネルが声をかける。
「フェンネル」
グラネイトが近づいていく。
「おかえりグラネイト」
「ただいまフェンネル」
「とうさまもかあさまもまだかえらない、おかえり」
グラネイトは私の約束を守り、死んだと言わない。
フェンネルは「おかえり、おかえり」と繰り返している。
まだ、両親が帰ってくることを信じている。
それでも、この子が死を受け入れるのは、この子自身でなくてはならない。
死を受け入れるには、時間が必要だ。
胸が張ってきた頃、シオンが泣き出した。
仮の母としての役目だ。
赤子に乳を与える。
やはり、まだこの小さな命を抱くのは怖い。
今にも壊れてしまいそうで。
私がシオンに乳を与えるのを、フェンネルは見つめて言った。
「とねりこ」
「何?」
「……とうさまも、かあさまも、かえってこない」
小さくか細い声だった。
「うそつき、かえってくるっていった」
「帰ってくるとは言っていないわ。待っていていいとは言ったけれど」
よたよたと歩いてくるフェンネル。
私は、げっぷをさせたシオンをベラドンナとカレンデュラに預け、フェンネルのために膝を空けた。
フェンネルは膝の上に乗り、襟を掴んでぐずり始めた。
「とうさま、かあさま、かえってこない、やだ、やだ」
「……嫌だね」
「かえってこないの、こわい」
「怖いね」
「とねりこそばにいて」
「側にいるわ」
「かえらないで」
「帰らないわ」
帰らないと言ったけれど、一度死んだ私に帰る場所はない。
帰ったところで、もう死んでいる。
とっくに焼かれて骨になっているだろう。
だから、帰る場所はここしかない。
「めがみさまのところに、かえらないで」
「……」
『側にいてあげて』
女神様の声が聞こえた。
「うん。帰らない。側にいるわ」
胸元でぐずり続けるフェンネルを抱きしめる。
そのうち、誰かがくしゃみをした。
よく考えたら、お風呂もない。
服を洗濯する場所もないし、着替えがあるかどうかも分からない。
「みんな、服の替えはある?」
沈黙が落ちた。
家が焼かれたと同時に、着替えも失ってしまったのだろう。
みんな、着の身着のまま逃げてきたのだ。
これでは不衛生になる。
なにより、寒さをしのぐための家も必要だ。
『ごめんなさい、そうだったわ。家も衣服も、お風呂も必要だったわね。食べ物を用意するだけでは、暮らしていけないものね』
女神様の言葉が耳に届く。
同時に胸元が熱くなり、掌に熱が移動する。
先ほどの場所に移動し、飯の木と呼んだ木から少し離れた所の土に掌を置く。
木が生え、絡み合い、重なり合い、葉の屋根を持つ家ができた。
「いえ、はえてきたの……めがみさまの、ちから?」
「……そうかもしれないわね」
子どもたちはぽかんとしていた。
年長のカレンデュラだけが、ようやく言葉を口にした。
私もどうにか返事をする。
私は家の中を探索することにした。
子どもたちも後からついてきた。
テーブルや椅子も生えていた。
台所もあり、そこには緑色の不思議な火が灯っていた。
いつでもこれでご飯を作れということなのだろうか。
少し奥に行くと、飯の木と墓を見渡せる寝室があった。
そこも木でできていた。
毛布は葉を織り合わせたもので、青すぎず白すぎない落ち着いた色をしている。
枕は、不思議な木の実の皮を重ねたもので、柔らかい。
寝台には、枕に使われているものとは別の木の実の皮が重ねられていた。少し硬めの感触だった。
『今夜を越させてあげてください。体を清めてあげてください。不完全でもいいのです。まずは、朝を迎えられればいいのです』
まだ、子どもたちはぐずっているし、怖がっている。
女神様に訴えかけるように、心の中でそう伝えた。
『それでよいのです。ぐずっていいのです。不安がってもいいのです。あなたが側にいて、子どもたちを支えてあげてください』
女神様の言葉はそこで途切れた。
子どもたちは興味津々で、おっかなびっくり家の中を探索し始めた。
私はふぅと息を吐き、これからどうしようかと考えた──
トネリコとグラネイトの間に絆らしきものができた話ですね、そして腐敗した遺体の埋葬。
トネリコもかなり怖かったでしょうね。死んだばかりの人間ならともかく腐敗してしまっているんですから。
フェンネルも帰ってこないことにうすうす気づき始め、トネリコに帰らないでとぐずりだします。
まだ幼い子どもですから。
そして女神様、割と抜けてますね、ですがトネリコの気付きのおかげで、女神様はトネリコに家をつくらせるようにできましたから。
生えてきた家に、こどもたちもあっけにとられるでしょう、トネリコもあっけに取られてますし。
カレンデュラだけが何とか喋ったのでトネリコも喋れたのです。
この家で、子どもたちと暮らすことになったであろうトネリコと子どもたち、どう暮らしていくのでしょうか?
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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次回も読んでくださるとうれしいです。




