↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第4話 獣人の子グラネイトと幼きダンピールのフェンネル~死を認める~

カレンデュラがグラネイト、フェンネルと言う残りの子どもたちを呼びに行く。

すると、物陰から小さな影が姿を現した。

金髪に金色の瞳、白皙の肌をした男の子は言う。

「おかえり?」

と──



「とねりこさま、わたし、グラネイトとフェンネル、よんできます」

「お腹空いてるでしょうね」

「うん」


 カレンデュラはそう言って崩れた民家の方へ走っていった。


 すると、物陰から小さな影が姿を現した。


「おかえり?」

「来たばかりよ」

「かえらない?」

「帰らない」


 金髪に金色の瞳、白皙の肌をした男の子は、すんと鼻を鳴らして私の匂いを確かめた。


「かあさまも、とうさまも、まだかえらない」

「なら、待ってていい」

「うん、まってる」


 男の子は距離を保っている。

 ベラドンナが口を開いた。


「このかた、とねりこさま、めがみさまの、つかいのかた、わたしたちを、たすけてくれるかた」

「めがみさまの、つかい?」


 まだ意味がよく分からないらしい。

 それでも、お腹の鳴る音は聞こえた。


 ベラドンナは、私が持ってきた水で、白くて薄い実から採れた液体を薄めた。


「フェンネル、ごはんだよ」

「おかえり、まだだから」

「おかえりはご飯の後、その後待っていればいいの」


 私がそう言うと、フェンネルはベラドンナに近づき、椀をちびちびと飲んでいた。


 それでも、お腹がきゅうと鳴った。


「これもたべて」


 赤い実を差し出すと、フェンネルは切り分けておいたそれを、しゃくしゃくと食べ始めた。


「……あかいみ、もっと」

「一気に食べたら、胃がびっくりしちゃうから、ゆっくり食べるのよ」

「うん」


 たぶん分かっていないのだろう。

 それでもフェンネルは、ゆっくりと食べ始めた。

 少しお腹が満たされたのか、フェンネルは隅っこにちょこんと座り込んだ。


「おかえり」


 フェンネルは、そう言葉を繰り返していた。

 それに「ただいま」と返す相手は、もういない。

 それでも、フェンネルは繰り返している。


 まだ、分かっていないから。

 でも、私は言わない。

 帰ってくるとは言わない。





 カレンデュラが戻ってきたが、首を横に振った。

 グラネイトは、まだ両親のそばを離れようとしないらしい。

 私はカレンデュラに案内してもらうことにした。

 赤子を抱きかかえてついていこうとすると、ベラドンナとフェンネルが衣の裾を掴んだ。


「おいて、いかないで」

「置いていかないわ、一緒に行きましょう」

「おかえり、まだ、ひとりいや」

「分かったわ、おいで」


 そう言って赤子を抱え、小さな子二人を伴って、カレンデュラの後をついていく。



 たどり着いた場所には、布で覆われた二人の遺体があった。

 そこから甘い匂いが漂っている。

 その布に向かって声をかけていたのは、赤毛に赤い目、私よりも色の薄い褐色の肌をした男の子だった。

 頭には獣の耳があり、腰からは尻尾が伸びている。

 風が告げたグラネイトとは、彼のことだろう。


「おっとう、おっかぁ、おきて」


 布の上から揺さぶると、指が沈み込んだ。

 グラネイトは慌てて指を離した。


「カレンデュラ、そのおとな、だれ? ぶき、もってない?」

「とねりこさま、めがみさまのつかい。ぶきはもってない」

「ほんとう?」

「本当よ」


 私は両掌を見せる。


 彼は距離を保ちながら、私を見つめていた。


「……たしかに、おっとうと、おっかぁがいってた、めがみさまのいろだ、それにぶき、もってない」


 彼は口を開いた。


「おれ、グラネイト。いつつ。おっとうと、おっかあが、おきるの、まってる。つかいさまはおこす?」

「起こさないわ。起こすのは、あなたの役目よ」

「……わかった」


 安心したような声だった。

 それでいいと私も思った。

 両親の死を受け入れるには、彼自身の時間が必要だ。

 今は、そのままにしておくのがいい。



「グラネイト、おなか、へってない?」

「へってない」


 フェンネルが尋ね、グラネイトが答えた。

 けれど、そのお腹は正直だった。


「……」

「ご飯にしましょう?」

「でも、とねりこさま、おにく、ないよ」

「ちょっと考えがあるの」

「「?」」


 ベラドンナとカレンデュラが首を傾げる。

 私たちは先ほどの場所に戻り、再び土に手を当てた。


 小さな木が生え、その枝には干し肉と二種類の白い結晶、そして黒胡椒の実がなっていた。


 肉が実る木なんて、どこの漫画だと思わなくもない。

 白い結晶は袋ごと収穫し、少し舐めてみる。

 片方は塩で、もう片方は砂糖だった。

 黒胡椒の実も収穫した。

 一粒かじると、あの独特の辛みと香りが口に広がった。


 思いつきにしては、うまくいったのではないかと思う。


 火を起こして肉を焼くと、脂が滴り始めた。

 私は軽く塩を振る。

 ほんの少し焦げたが、まあ良い方だろう。


「熱いから、気をつけて」


 そう言うより先に、グラネイトは肉の切れ端にかぶりついた。


「あふい、とねりこ、さまして」

「仕方ないわね」


 肉の切れ端に息を吹きかけて冷まし、もう一度渡した。

 今度は熱がることなく、夢中で食べていた。


「とねりこ、にく、おっとうと、おっかあにもっていっていい?」

「いいわ、包んであげる」

「ありがと」


 グラネイトが両親に持っていけるよう、私は何も言わずに肉をいくつか包んで渡した。


「とねりこ、いっしょ、きて」

「分かったわ」


 カレンデュラにシオンたちを任せ、私はグラネイトと共に、先ほどの布で覆われた遺体のもとへ向かった。


 先ほどまで漂っていた甘い匂いは、鼻を刺すような異臭に変わっていた。

 私が初めてここを訪れたときが、あの甘い匂いを感じられる最後の時間だったのだと知った。



「おっとう、おっかぁ、めし、だからおきて」


 肩を揺すろうとした手が、布の下に沈み込んだ。

 動きもおかしい。

 眠っている人の動きではない。


「とねりこ」

「何?」

「おっとうと、おっかあ、おきない」

「……ええ」

「……しんでる」


 ようやく、現実を受け入れる言葉を口にした。

 その言葉が彼にとってどれほど重いものだったか、私には分かった──。








残りの子どもたちフェンネルとグラネイトの登場です。

フェンネルはまだ両親の死を受け入れられず「おかえり」を繰り返してましたが、空腹には耐えられなかった様子。

まだ、こどもですものね。

そしてグラネイト。

彼が両親を起こすシーン、一度目はまだ受け入れず。

そして二度目、トネリコと一緒に飯を持ってきたときにようやく「死」を受け入れます。

受け入れた彼はどんな感情を抱いているのでしょうか?


ここまで読んでくださりありがとうございました。

感想有り難うございます。

次回も読んでくださるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
さすがトネリコさん、寄り添ってるぅ♪と打とうとして続き読んでたら少し重かった…両親がタヒんでるのを自覚したのは素晴らしいが、そのたった4文字がつらたん…(′・ω・`) 両親のタヒをようやく受け入れはし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。