第4話 獣人の子グラネイトと幼きダンピールのフェンネル~死を認める~
カレンデュラがグラネイト、フェンネルと言う残りの子どもたちを呼びに行く。
すると、物陰から小さな影が姿を現した。
金髪に金色の瞳、白皙の肌をした男の子は言う。
「おかえり?」
と──
「とねりこさま、わたし、グラネイトとフェンネル、よんできます」
「お腹空いてるでしょうね」
「うん」
カレンデュラはそう言って崩れた民家の方へ走っていった。
すると、物陰から小さな影が姿を現した。
「おかえり?」
「来たばかりよ」
「かえらない?」
「帰らない」
金髪に金色の瞳、白皙の肌をした男の子は、すんと鼻を鳴らして私の匂いを確かめた。
「かあさまも、とうさまも、まだかえらない」
「なら、待ってていい」
「うん、まってる」
男の子は距離を保っている。
ベラドンナが口を開いた。
「このかた、とねりこさま、めがみさまの、つかいのかた、わたしたちを、たすけてくれるかた」
「めがみさまの、つかい?」
まだ意味がよく分からないらしい。
それでも、お腹の鳴る音は聞こえた。
ベラドンナは、私が持ってきた水で、白くて薄い実から採れた液体を薄めた。
「フェンネル、ごはんだよ」
「おかえり、まだだから」
「おかえりはご飯の後、その後待っていればいいの」
私がそう言うと、フェンネルはベラドンナに近づき、椀をちびちびと飲んでいた。
それでも、お腹がきゅうと鳴った。
「これもたべて」
赤い実を差し出すと、フェンネルは切り分けておいたそれを、しゃくしゃくと食べ始めた。
「……あかいみ、もっと」
「一気に食べたら、胃がびっくりしちゃうから、ゆっくり食べるのよ」
「うん」
たぶん分かっていないのだろう。
それでもフェンネルは、ゆっくりと食べ始めた。
少しお腹が満たされたのか、フェンネルは隅っこにちょこんと座り込んだ。
「おかえり」
フェンネルは、そう言葉を繰り返していた。
それに「ただいま」と返す相手は、もういない。
それでも、フェンネルは繰り返している。
まだ、分かっていないから。
でも、私は言わない。
帰ってくるとは言わない。
カレンデュラが戻ってきたが、首を横に振った。
グラネイトは、まだ両親のそばを離れようとしないらしい。
私はカレンデュラに案内してもらうことにした。
赤子を抱きかかえてついていこうとすると、ベラドンナとフェンネルが衣の裾を掴んだ。
「おいて、いかないで」
「置いていかないわ、一緒に行きましょう」
「おかえり、まだ、ひとりいや」
「分かったわ、おいで」
そう言って赤子を抱え、小さな子二人を伴って、カレンデュラの後をついていく。
たどり着いた場所には、布で覆われた二人の遺体があった。
そこから甘い匂いが漂っている。
その布に向かって声をかけていたのは、赤毛に赤い目、私よりも色の薄い褐色の肌をした男の子だった。
頭には獣の耳があり、腰からは尻尾が伸びている。
風が告げたグラネイトとは、彼のことだろう。
「おっとう、おっかぁ、おきて」
布の上から揺さぶると、指が沈み込んだ。
グラネイトは慌てて指を離した。
「カレンデュラ、そのおとな、だれ? ぶき、もってない?」
「とねりこさま、めがみさまのつかい。ぶきはもってない」
「ほんとう?」
「本当よ」
私は両掌を見せる。
彼は距離を保ちながら、私を見つめていた。
「……たしかに、おっとうと、おっかぁがいってた、めがみさまのいろだ、それにぶき、もってない」
彼は口を開いた。
「おれ、グラネイト。いつつ。おっとうと、おっかあが、おきるの、まってる。つかいさまはおこす?」
「起こさないわ。起こすのは、あなたの役目よ」
「……わかった」
安心したような声だった。
それでいいと私も思った。
両親の死を受け入れるには、彼自身の時間が必要だ。
今は、そのままにしておくのがいい。
「グラネイト、おなか、へってない?」
「へってない」
フェンネルが尋ね、グラネイトが答えた。
けれど、そのお腹は正直だった。
「……」
「ご飯にしましょう?」
「でも、とねりこさま、おにく、ないよ」
「ちょっと考えがあるの」
「「?」」
ベラドンナとカレンデュラが首を傾げる。
私たちは先ほどの場所に戻り、再び土に手を当てた。
小さな木が生え、その枝には干し肉と二種類の白い結晶、そして黒胡椒の実がなっていた。
肉が実る木なんて、どこの漫画だと思わなくもない。
白い結晶は袋ごと収穫し、少し舐めてみる。
片方は塩で、もう片方は砂糖だった。
黒胡椒の実も収穫した。
一粒かじると、あの独特の辛みと香りが口に広がった。
思いつきにしては、うまくいったのではないかと思う。
火を起こして肉を焼くと、脂が滴り始めた。
私は軽く塩を振る。
ほんの少し焦げたが、まあ良い方だろう。
「熱いから、気をつけて」
そう言うより先に、グラネイトは肉の切れ端にかぶりついた。
「あふい、とねりこ、さまして」
「仕方ないわね」
肉の切れ端に息を吹きかけて冷まし、もう一度渡した。
今度は熱がることなく、夢中で食べていた。
「とねりこ、にく、おっとうと、おっかあにもっていっていい?」
「いいわ、包んであげる」
「ありがと」
グラネイトが両親に持っていけるよう、私は何も言わずに肉をいくつか包んで渡した。
「とねりこ、いっしょ、きて」
「分かったわ」
カレンデュラにシオンたちを任せ、私はグラネイトと共に、先ほどの布で覆われた遺体のもとへ向かった。
先ほどまで漂っていた甘い匂いは、鼻を刺すような異臭に変わっていた。
私が初めてここを訪れたときが、あの甘い匂いを感じられる最後の時間だったのだと知った。
「おっとう、おっかぁ、めし、だからおきて」
肩を揺すろうとした手が、布の下に沈み込んだ。
動きもおかしい。
眠っている人の動きではない。
「とねりこ」
「何?」
「おっとうと、おっかあ、おきない」
「……ええ」
「……しんでる」
ようやく、現実を受け入れる言葉を口にした。
その言葉が彼にとってどれほど重いものだったか、私には分かった──。
残りの子どもたちフェンネルとグラネイトの登場です。
フェンネルはまだ両親の死を受け入れられず「おかえり」を繰り返してましたが、空腹には耐えられなかった様子。
まだ、こどもですものね。
そしてグラネイト。
彼が両親を起こすシーン、一度目はまだ受け入れず。
そして二度目、トネリコと一緒に飯を持ってきたときにようやく「死」を受け入れます。
受け入れた彼はどんな感情を抱いているのでしょうか?
ここまで読んでくださりありがとうございました。
感想有り難うございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




