第八話:ふんどしを卒業したら花嫁に
褌。
一口に言ってもいろいろ種類がある。
六尺褌、越中褌、黒猫褌など。
俺が現在着用しているのは、六尺褌。
その名の通り、約六尺の長さの布を使用している。
この布は、一枚の布だけで構成されていて、広げれば俺の身長と同じくらいの長さだ。
ということはである。
褌として使用しているものの、元は一枚の布。
例えば頭に巻いて帽子の代わりにするとか。
口元に巻き付けて防塵用に使うとか。
緊急時には包帯として使うとか。
そんな多用途に使える万能衣類が褌なのである!
・・・ということを【ひとみ】さんに力説してみた。
そう、きっと褌を脱ぐという方向で説得したのが駄目だったのではないかという発想だ。
褌のままこのお店を出て飯屋に行くことを拒否したい俺の、最後の抵抗・・・どうか上手くいってほしい。
「なるほど・・・一理ありますね。褌ではなく、他用途として着用すると」
「【テル】オメェまだ諦めてなかったのかよ!いいじゃねーか変態でも!【テル】は【テル】だろ!」
確かに俺は俺だけど、その言葉はもっと別のところで聞きたかった。
というか服を売る方へ誘導してほしい。
ずっと飯飯言ってるし、たぶんもう頭の中がご飯で占められているんだろう。
でも、諦めない。
【ひとみ】さんからは「だめです」もなかったし、ちょっと感触良さそうだから期待大だ。
俺は、人としての尊厳を、取り戻す・・・!
「いいでしょう。股間に着用していたものをターバンにしたりマスクにしたりと変態が極まってきていますが、褌が見えるのならば問題ありません。そうですね・・・差し当たり、ターバンにしましょう。白のターバンに合いそうな服を選んで差し上げます」
か、勝った・・・!
なんだかより変態として見られているようだけど、褌一枚から逃れられるなら何でもいい。
たばん?とかますく?もわからないけど文脈的に帽子とかその辺りだろう。
でも・・・
「ありがとうございます、【ひとみ】さん。服を選んでくれるのも助かります。でもその、肝心の服はどこに・・・?」
「あぁ・・・【テル】さんは本当に何も知らないのですね。とりあえず、そのパネル、ええと、透明な壁で分かりますか?その前に立ってください」
ぱねる。
なるほど、この硝子板のようなものが、ぱねるか。
言われるがままぱねるの前に立つと、付いてきたらしい【ひとみ】さんが何か喋り始めた。
「インストラクション。クローゼット、オープン」
呪文かな?
いや、恐らく暗号化した命令文なのだろう。
【ひとみ】さんが唱えた瞬間、ぱねるは透明ではなくなり、いろんな服が映し出されている。
すまほを大きくしたようなものかな。
なるほど、これなら実物の服を置いて場所をとる必要はない。
でも、実際に着てみたい人はどうするんだろう。
その答えは、すぐにわかった。
「ターゲット、キャプチャ」
【ひとみ】さんが命令すると、ぱねるの中に俺が映し出される。
褌のおっさんだ。
「そうですね・・・とりあえず仮としてシャツにジーンズ、ターバンを着てみましょうか」
【ひとみ】さんがきびきびとした動作で腕を振ったり細かく指を動かす度に、ぱねるの中の俺に衣類が装着されていく。
うん、これなら実際に着るより早い。
「おー!こうして見っと【テル】が変態じゃねぇみたいだな!なあなあ!あたしも選んでいいか!?」
うん、元々変態ではないんだけども。
仕方なくこうなっていただけで・・・まあいいか。
「はい。俺はあまり服を選ぶのが得意ではないので。【あまの】さんもどうぞ。お金を出してもらうことになりますし」
「よっしゃー!ターバンはもう決まりだろ?てことはシャツとパンツかー!あ!これとかどうよ!」
「いえいえ【アマノ】さん。白いターバンだとこちらの方が―――」
「お!さすがだな【ヒトミ】!じゃぁこれは―――」
ぱねるの中の俺の服装が目まぐるしく変わっていくのを見ながら思うことは一つ。
狭く四角い空間の中、盛り上がる女性二人に挟まれる褌一枚のおっさんは、どういう顔をしていればいいのだろう。
二人についていけず、無言になった俺には、服が決まるまでの時間がやけに長く感じた。
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そして服が決まったわけだけど。
どうしてこうなった、というのが俺の感想だ。
無言になったのが悪かったのだろうか・・・。
俺は今、なぜか純白の花嫁衣裳のようなものを着ている。
頭には元・褌である布を巻いているので、花嫁の被布という着想を得たらしい。
そんなもの得ないでほしい。
でも、とりあえず褌一枚よりは許容できると思って、【ひとみ】さんが壁の向こうから持ってきた衣装をとりあえず着てみたわけだ。
結果、なんだかより変態になった気分だ。
「おー!可愛いぜ【テル】!これなら街歩いても普通だな!」
【あまの】さんが両手を組んで祈るような感じで感嘆している。
いや、可愛いのは服だけだと思う。
「自画自賛になりますが、我ながら良い仕事をしました。完璧です。真っ白なターバンとウェディングドレスの相性に気付いた私を褒めてあげたいですね」
【ひとみ】さんは眼鏡の位置を直しながら直立して満足気だ。
本当に良い仕事なのだろうか。
異世界では普通なのか・・・?
「・・・ありがとうございます」
良くも悪くも悪気のなさそうな2人を見て、俺は感謝を告げることしかできなかった。
どうか街中で目立つことがありませんように・・・。
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で、街に繰り出したわけだけど・・・見られている。
物凄く視線が刺さっている。
絶対変なんだろうこの衣装・・・ではなくこの衣装に身を包む俺は。
でももう仕方がない。
先導する二人の女性が綺麗だから見られているということにしよう。
できれば景色をよく見ながら歩きたいところだけど、今はまだ慣れない花嫁衣装で歩くことで精一杯だ。
とにかく早く飯屋に着きたい。
そんな気持ちで俺は服の裾を持ち上げながら必死に歩く。
「それで【アマノ】さん。行くのはいつものところでいいのですか?」
「あぁそうだぜ!あそこなら安いしウメェ!しかも客少ねぇから【テル】も安心だろ!」
おや、俺のことも考えてくれてたみたいだ。
【あまの】さんのこういうところ、素晴らしいと思う。
でもその素晴らしさは服選びのときにも発揮してほしかった。
今の俺は褌を頭に巻いて花嫁衣装を着ている変態だ。
「まあ近いですし、妥当ですね。【テル】さんの褌とウェディングドレスのコラボレーションをあまり見てもらえないのは残念ですが」
こらぼ・・・?いやとりあえずそんなものは見せなくていいと思う。
花嫁衣裳のおっさんを見て喜ぶ特殊性癖の人は少数派だろう、たぶん。
早く着かないかな・・・。
履きなれない、踵の高い靴のせいで足が痛い。
「よっしゃ着いたぜ!ここがいつもの店!ぎゅーショクだ!」
「あぁ、いいですね、この匂い。私もお腹が空いてきました。さあ入りましょう」
足を止めた二人に追いつき、顔を上げると、そこには。
「・・・居酒屋?」
元の世界で見た、居酒屋とそっくりな暖簾に赤提灯。
これだと、褌一枚の方が合っていたんじゃなかろうか。
花嫁衣裳と居酒屋の、異色の共演が、今始まる・・・。




