第七話:戦いは先手を取れば終わりです
そういえば、黒い靄の存在が現れる瞬間を目にするのは初めてだな。
俺の死因である・・・いや今生きているから死因じゃないのか?
えーと、異世界に来る原因となった虎っぽいやつは、気付いたら女の子二人を襲っていた。
異世界に来て遭遇した球体っぽいやつは、暗闇の向こうから現れた。
そして今回。
何もなかったはずの空間に突然黒い靄が現れ、集まり、形を成していっている。
本当に、なんなんだこの現象は。
【あまの】さんも【ひとみ】さんも知らない様子だったし・・・。
いや、まだ黒い靄の存在が現れると確定したわけではないけども、楽観はよくない。
何かあってからでは、遅い。
「なぁ!外に出た方がいいんじゃねーか!ここじゃー逃げ場がねーぜ!?」
「よくわかりませんが何か危ないのですか!?【あまの】さんが言う通り逃げませんか!?」
あぁ、普通なら逃げるべきだ。
でも、もし黒い靄の球体と同じように、修復をしようとしているのなら。
対象は恐らく、すまほになるのではないだろうか。
そうだとしたら、逃げても追い掛け回されるだけだ。
すまほが大事なものじゃなければ投げて逃げる手もあるけど、あれは【ひとみ】さんのお母さんの遺品。
そんなこと、できるものか。
・・・なんてことを長々と二人に説明する暇なんてない。
故に一言。
「いえ。迎え撃ちます」
「マジかよ!?あーもう!あとで理由教えろよな!!」
「でも【テル】さんは褌一枚の無手でしょう!?あまりに無謀なのでは!?危険なものなんでしょう!?」
いや褌一枚なのは【ひとみ】さんの功績なんだけど。
まあいいか。
いやよくないけど。
どちらにしろ、服を着てようが着てなかろうがやることは変わらない。
絶対に二人を守る。
それだけだ。
黒い靄は一旦小さな・・・拳大程度の大きさに収束した。
形は球体。
このまま突っ込んでくるのかと身構えたけど、さらに変化していく。
あれは・・・薄い直方体・・・?
すまほと同じくらいの大きさ。
やはり狙いはすまほ、なのかもしれない。
「【ひとみ】さん!あれの狙いはすまほかもしれません!どうにか守ってください!」
「な、なんでスマホを!?いえわかりました!」
「【あまの】さん!俺が迎撃できなかったら次お願いします!」
「よっしゃー任せろ!こっちきたらブン殴る!」
さあ来い。
前回、前々回とわけがわからないままの遭遇で心の準備も出来なかったけど、今回は万全だ。
服以外。
―――ふよふよ―――
「「「???」」」
虎っぽいやつみたいに圧倒的な暴力で襲ってくるわけでもなく、球体っぽいやつみたいに物凄い速さで迫ってくるわけでもなく。
若干上下に揺れながらゆっくりとこちらに向かってくる黒い靄の直方体。
・・・えーと。
「ほい」
「あ」
「あ」
とりあえず蠅叩きの要領でひっぱたいてみた。
べちっ!と音がして地面に叩きつけられた直方体・・・ええと仮称黒すまほは、そのまま動きが停止した。
「「「・・・・・・」」」
俺は無言でそれを見つめる。
【あまの】さんも【ひとみ】さんも同じなのか無言だ。
えぇ・・・。
ものすごく臨戦態勢をとった俺たちの戦闘意欲の行き場がない・・・。
いやまぁまだ大丈夫だと決まったわけではないから油断はしないけども。
・・・うーん、動かない。
「なぁ。なんか可哀想な事した気持ちになってんだけど」
「そ、そうですね。私もなんだか申し訳ない感情が溢れています」
うーん、もしかしたら好意的な存在であった可能性も・・・。
でも今までのことを考えるとなぁ。
あ、そうだ。
「とりあえず、『星力』を使ってみようと思うんですが、どうでしょう?」
「は?追い打ちか?中々ヘビーなこと考えるじゃねーか!でも嫌いじゃねーぜ!」
「いえ、【アマノ】さん。【テル】さんは恐らく、情報を集めるつもりなのでしょう。例えばソレの元となる存在があれば、泡として浮かび上がるかもしれません」
【ひとみ】さん、正解。
【あまの】さん、俺は蛇のことは考えてない。
【ひとみ】さんの言う通り、この直方体の先祖・・・いやこの場合、材料とか製作者になるだろうか。
それがわかる可能性がある。
試す価値はあると思う。
失敗したところで身体がてかてかになるくらいの代償しかないし。
「あー!なるほどな!よっしゃ【テル】!やっちまおうぜ!そいつが動き出したらあたしがブン殴ってやんよ!」
「私は一応、スマホを守っていますね」
空中に何度も拳を突き出しながら気合いを入れる【あまの】さんと、すまほを抱き締めて様子をうかがう【ひとみ】さん。
準備はできているようなので、いざ。
「ではいきます。『ぼくのせんぞたち』」
足を大きく広げ、頭の上に掌を載せる動作をしながら『星力』の名前を言い、発動。
・・・発動のためには必要だとはいえ、この姿勢に慣れてきてるのがちょっと嫌だなあ。
なんていう俺の想いなど無視して、俺の身体から淡い緑の光が沸き上がり、例の直方体に向かい、ぶつかった。
そうして現れた泡には・・・
00001110101110001110101000111010011111010110011010001111100001010110001000011101110001000111・・・・・・・・
無数の丸記号と縦棒記号の羅列・・・?
いやこれは、見たことがある。
・・・機械語だ。
機械に直接命令を送るための、最小の言語。
「オイオイこりゃあなんつーかやべぇもん見ちまった気がすんぞ!?プログラムされたモンなのかよコレ!」
「・・・つまり、その黒いスマホのようなものは、機械なのですか・・・?」
ぷろぐら・・・?
いやあとで聞いてみよう。
とにかく、こんな機械なんて聞いたことも見たこともない。
この世界の技術ではできるという可能性も、二人の反応を見ると否定できそうだ。
あとは『星力』が正常に働かなかった可能性もある。
うーん、もう一つやってみるか。
「別の『星力』も使ってみます。お二人はそのまま、気を緩めないで下さい」
「は?ってそうか!なんだっけ忘れちまったけどまだあったな!」
「え?『星力』は1人1つしか・・・。【テル】さん、あなたはいったいどういう変態なのですか・・・?」
変態だと思うなら服を売ってほしい。
いや今はそれはいい。
俺が保持していて、【あまの】さんの『らぶ・はーと・ふゆーじょん』で合成しなかったもう一つの『星力』。
『みらいはきっとかわるはず』。
これを使ってみて、正常に働くか試してみようと思う。
【ひとみ】さんへの説明は、その後で。
「ではいきます。『みらいはきっとかわるはず』」
「両手を頬に当てて首を傾げる」動作をしながら『星力』を発動すると、俺の目から淡い緑の光が伸びていき、黒すまほ(仮称)にぶつかった。
そして、黒すまほ(仮称)に淡い緑の光で数字が描かれる。
・・・桁が少ない?
というかどんどん減ってる。
「あーん?百二十一、百二十・・・これ秒数か?寿命だよなこれ?」
「そのはずです。・・・蝉より短命ですね?」
「いや蝉すら比較になんねーよ!つか寿命あんだな!?」
まあ正常に発動していれば、だけれど。
「とりあえず警戒したまま数字が零になるまで待ってみましょう。それでその黒すまほが死ねば、少なくとも『みらいはきっとかわるはず』は正常に働いている可能性が高いです」
「あん?黒スマホってコイツか?ははは!確かに黒スマホだな!よっしゃ!油断せず待ってようぜ!」
「聞きたいことは山ほどありますが、了解しました。母のスマホには手出しさせません。警戒致します」
一応俺が先頭、【あまの】さんがその後ろ、さらに背後に【ひとみ】さんという配置で警戒して待っていたけど。
何事もなく時間は過ぎ、数字が零になると、黒すまほ(仮称)は蒸発するように消えていった。
・・・とりあえず、危機は去ったということでいいのだろうか。
『みらいはきっとかわるはず』が正常に働いていたなら、黒すまほ(仮称)は死んだということになるけれど。
「おー!消えた!死んだってことだよな!?ははー!ざまみろっつーんだ!」
「ということは、母のスマホは大丈夫ということですよね?・・・はああぁ」
【あまの】さんは腰に手を当てて微笑のまま高笑い。
【ひとみ】さんは気が抜けたのかその場にへたりこんだ。
正直、気になることがたくさんできて、謎が増えたけど、とりあえず今回は勝利と言っていいだろう。
なんか弱い者いじめな気持ちもあるけど・・・。
「それで、【テル】さん。いろいろと、説明をお願いしたいのですが」
【ひとみ】さんがいつの間にか正座でこちらを睨んでいる。
まぁ巻き込むからには話さないとだよな。
「あー!あたしもいろいろ聞きてー!ってか飯食いながらにしよーぜ!腹減った肉肉ー!」
あぁそういえばご飯に行く予定だったか。
それじゃあ、街に繰り出すとしよう。
食事しながら、説明の時間だ。
・・・ところでほんとに褌のままじゃないとだめだろうか・・・。
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*注:数字の羅列は作者が適当に打ったもので、暗号とかはないです。
*お読み頂きありがとうございました。
二章もこれで終了です。
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