第四話:認識は個人によって違うもの
現在俺たちは最寄りの町へ移動している。
今のところ見渡す限り荒野で、背後の穴がだんだんと離れていることだけが、先へ進んでいるということを実感させてくれる。
本当に町があるのか少し不安になっているところだけど、ここは【あまの】さんを信じるしかない。
二つの月は、片方が既に沈みきって、もう片方の月が地平・・・というか穴の上に乗っかっているような感じだ。
もう少しすれば太陽が顔を出す・・・・・・太陽、あるよな?
異世界だからわからないぞ。
疑問を解消すべく、まるで弾むように歩き、俺を先導する【あまの】さんへ声をかける。
「あの、【あまの】さん。もう少しで月が沈んでしまいますが、その、代わりに太陽が昇ってきますよね?」
「お?おー!あるある!はは!まー【テル】にとっちゃ異世界だし不安だよな!心配すんな!昼間はちゃんと明るいぜ!」
こちらを振り向き、両手を広げながら後ろ歩きで教えてくれる【あまの】さん。
割と長めの衣装だし、裾を踏んで躓いてしまうのではないかと一瞬心配したけど、まあ【あまの】さんだし大丈夫だろう。
とりあえず明るくなることはわかったので一安心。
ただ、未だ褌一枚なのがちょっと気にかかる。
町へ着いたとして、褌一枚のおっさんがどう思われるのか・・・まあ、普通に変態だろうな。
一緒にいるのが天使のような女性だというのも変態さを際立たせる要因になるだろう。
とはいえ【あまの】さんに服を借りるなんて、もっての他。
女性用の衣装を身にまとったおっさんと下着の女性というのは、それこそ盛大に誤解を招くだろう。
そもそも女性を下着姿で歩かせる時点で問題だし。
とりあえず、町に着いたら服がほしい・・・お金ないけど・・・。
「さーて!そろそろ見えてきたぜ!今1番穴に近い町!荒野に生きる牛飯推だ!」
「ほんとうだ。かすかに見えますね。うしめしおし?が名前でいいんでしょうか?」
「そうそう!牛に飯に推し!めっちゃ牛がいてよ!すんげーうまい肉が食えるんだぜ!あー腹減ってきた!急ごうぜ!」
弾んでいた足取りは、もはや駆け足になっている。
俺は置いて行かれないよう同じく駆け足で追いかけた。
「【あまの】さん以外でこの世界の人に会うのは初めてになりますね。どんな『星力』があるのか楽しみです」
「あー。【テル】が元々複製して持ってた『星力』微妙だったしな。合成できたけどそれも微妙だったしよぉ」
「いえ、ですからあれらもすごく便利で・・・」
「あーはいはい便利便利!でも穴塞げるようなもんじゃねーだろ!?」
それはその通り。
そう、俺たちは既に『星力』の合成を試した後だ。
結果的に現状を打破できるような一発逆転の『星力』は合成できなかったが、個人的には結果は悪くなかったと思っている。
俺は走りながら、『星力』合成に挑んだ時のことを、頭の中で振り返った。
――――三十分ほど前――――
「いやーすまんすまん!ついはしゃいじまったぜ!ただ予想外の変化だったけどよ!何か起こるってのが証明されたよな!」
ひとしきり動き回った・・・というか暴れまわった【あまの】さんは多少は落ち着いてくれたらしい。
俺も目を開くことができて何よりだ。
「そうですね。でも現状、もう一度削ったところでまたさっきの謎の黒い球体が現れる予感しかしません」
「あーたしかにな。意味はわかんねーけどまた元通りにされちまいそーだ」
穴の縁を削ってできた部分に、黒い球体が突っ込んできて、修復されてしまう現象。
修復部分を見てみても、削れた痕跡など存在せず、まるで最初の状態に戻ったとしか思えない。
現時点ではちょっと情報不足すぎる。
わかっていることは、削ると修復されてしまう可能性があるということだけ。
とりあえず、穴の縁を削る作業は一旦終了でもいいだろう。
「ここで話していても埒があきませんし・・・一旦町へ・・・あ、」
「だな!さっそく行こうぜ!なんか希望が湧いてきてよ!あたしはやる気満々だぜ!」
そう言って勢いよく駆け出す【あまの】さん。
いやだから早い早い。
もう少し話を聞いてほしい。
「いえ待ってください」
「って何だよ!あたしの炎を消すつもりか!」
【あまの】さんは勢いのまま急停止して文句を吐き出す。
うん、その炎はそのまま持っていてほしいけど、試してみたいことがある。
「先程【あまの】さんの『星力』を見せてもらった時思ったんです。『星力』同士を合成するのもできるのではないかと」
「・・・あー。なるほどな。あたしの『ラブ・ハート・フュージョン』で誰かと誰かの『星力』を1つにして新しい『星力』を作るってわけか」
そう、もしできるのなら、もしかしたら、それが突破口になる可能性がある。
「・・・一回だけやったことがあんだけどよ。あれはやべぇんだわ」
ふむ。
言い方的には合成自体はできるっぽいけど・・・問題がありそうな感じだ。
「それは、何が起こったのか聞いてもいいでしょうか」
「・・・人を2人並べてよ。そいつらに『星力』発動待機したまま『ラブ・ハート・フュージョン』してみたんだわ。でも考えてみりゃあたしの『ラブ・ハート・フュージョン』は2つのものの真ん中に合成したもんが現れる。・・・何が起こったかわかるか?」
それは・・・。
「その二人の真ん中に、合成された『星力』が現れた、とか?」
「そうだ!結果出てきた『星力』っぽいやつはなんか一瞬で消えてよ!残されたのは『星力』を失くした二人の人間だ!砂山合成したときも見ただろ!?合成素材は消える!つーことは合成素材だった『星力』も消えたってわけだ!どーだこれでもくだらなくないって言えんのかよ!」
・・・なるほど。
【あまの】さんは叫んでいるけど、これは怒りじゃない、悲鳴だ。
二人の人間を巻き込んで、『星力』を持たない人間を生み出してしまったという、悲痛な叫び。
「そう、ですか。辛かったですね・・・」
「は!辛かっただぁ!?辛ぇのは『星力』失くしちまったアイツらだ!人間なら誰でも持ってるモンが無くなったんだぜ!?」
・・・だからこそ、【あまの】さんも辛いはずだ。
誰かの痛みを感じ取れる【あまの】さんだから、余計に。
だから、できるだけ軽く話すことにしよう。
「ですが、ここで朗報です。俺の『星力』は何だったでしょう?」
「あ?あーたしか『おれもそれつかいたい』だったか?たしか『星力』を・・・複製―――!!!!!」
「そうです。俺は他人の『星力』を複製し、保持できる。複数の『星力』を、です。つまり、例えば右手と左手で『星力』を発動待機状態にすれば」
「はは!真ん中にいるのは【テル】だな!」
「はい、そうなります。もしかしたら失敗する可能性もありますが、元々複製した『星力』。俺の元々の『星力』は失くなりません」
「オイオイ面白くなってきたぜ!はは!試してみるだろ!?試すよな!?」
【あまの】さんは調子を取り戻したのか俺の肩を掴んで前後に揺らす。
「もち、ろん、です。その、おち、つい、て。」
「お!おうすまねえ!いやでもいいな!面白くなってきやがった!」
【あまの】さんはしゃがんだり跳ねたり回転したり忙しい。
表情が微笑のまま変わらないのにはもう慣れてしまった。
「それでですね、俺が現在保持している『星力』を、実演しつつ開示しようと思うのですが、よろしいですか?」
「おう!頼むぜ!バッチコーイ!」
ばっちこい?
まあやってもいいということだろう。
「では、いきます。まず一つ目。『あわあわふわふわ』」
発動条件の「腕を前に挙げて背伸びの運動」をしながら『星力』を発動すると、両手から淡く緑に輝く泡が出現した。
「へー・・・それで?」
【あまの】さんが特に驚く雰囲気もなく淡々と聞いてくる。
「これだけですが?」
「・・・・・・くだらねぇ・・・」
いやいやいや。
石鹸とか必要なくいつでも泡を出せて洗顔手洗い皿洗いと色々こなせる便利『星力』だけど。
代償として、口の中が砂を噛んでいるようなじゃりじゃりとした感覚に襲われるけど、些細な問題だ。
「次いきます。これは他人に対して発動する必要がありますので・・・【あまの】さん、よろしいですか?」
「あー。どーせまたくだらねーんだろ?いいぜ?こいよ」
ものすごく投げやりな返事だけど、まあいいか。
「では失礼して。『せんぞのしんぱい』」
発動条件の「片目を瞑りながら接吻の動き」をして、【あまの】さんを指差しながら『星力』を発動すると、指先から淡い緑の光が出現し、【あまの】さんの鼻の中に吸い込まれた。
「・・・・・・それで?・・・ックション!・・・なんか一瞬見知らぬじじいが見えたんだが」
「はい、くしゃみをすると、一瞬だけ先祖と思われる人物の幻影が見えます」
「なあこれ何か役に立つ!?なあ!?」
当然だ。
一人で心寂しい時、くしゃみをするだけで一人じゃないと実感できる。
代償として、目にごみが入った時みたいに目がかゆくなるけど。
俺は目を擦りながら最後の複製した『星力』の発動に移る。
「次で最後です。これは・・・そうですね、そこの岩に試してみましょう」
「はいはい。もうあたしは何も期待しねぇ」
【あまの】さんは腕組みしつつとんとんと足音を立てている。
早く終わらせろという雰囲気が伝わってくるけど、どれも役に立つのになぁ。
「いきます。『みらいはきっとかわるはず』」
発動条件である「両手を頬に当てて首を傾げる」動作をしながら『星力』を発動すると、俺の目から淡い緑の光が伸びていき、岩にぶつかる。
淡い緑の光は数字になって岩の表面で輝いている。
「・・・あー?五百万・・・?と・・・読みにくいななんだこれ?」
「寿命ですね。だいたいそれくらいでその岩は壊れてしまうらしいです」
「こいつはさっきの2つよかマシっぽいな!・・・いや寿命わかったから何だっつーんだよ!」
寿命がわかれば機械の買い替え時期とかわかって便利だと思うんだけどなぁ。
代償としてしばらく髪の毛が真っ直ぐ、放射状に固定されてしまうけど、そのうち解除されるし気にすることもない。
「以上です。役に立つでしょう?」
「どこがだよ!めちゃくちゃくだらねーし役に立つかそんなもん!」
えぇー・・・。
やはり、異世界。
役に立つ『星力』への認識に違いがあるようだ。
これはこの世界の人の持つ『星力』にも期待ができる気がしてきた。
「まあ、認識は人それぞれ、ということで。とりあえず、『あわあわふわふわ』と『せんぞのしんぱい』を合成してみませんか?」
「あー。まあいいか。つーかその『星力』失くなっても大して変わんねーだろうし。いくぜ。待機状態にしといてくれ」
「了解です」
俺は「腕を前に挙げて背伸びの運動」をして、『星力』発動の準備をし、『あわあわふわふわ』という『星力』の名前を言わずに待機させる。
両手は淡い緑の光に包まれるが、『星力』発動までには至らない。
そのままさらに「片目を瞑りながら接吻の動き」をすると指先にまた別の淡い緑の光が出現。
『せんぞのしんぱい』も無事待機状態になったようだ。
思えば同時に発動待機状態なんてやったことなかったけど、できてよかった。
そのまま腕を横に広げる。
これでたぶん待機状態の『あわあわふわふわ』と『せんぞのしんぱい』の中心は俺になるはずだ。
「じゃあいくぜ!『ラブ・ハート・フュージョン』!」
【あまの】さんが両手で愛の記号を形取って俺へと向ける。
【あまの】さんの愛の形になった両手から、淡い緑の光が溢れ、愛の形を保ったまま俺に到達し、弾けた。
・・・ほう。
これは・・・。
「どうだ!?あんまし期待してねーけど成功したかは気になる!」
なんという率直なお言葉。
まあでも。
「成功したようです。『星力』の名前は『ぼくのせんぞたち』。試してみましょう」
「・・・・・・既に名前から嫌な予感しかしねーが頼むわ」
【あまの】さんは代償で泣きそうな感じに固定された顔で促してくる。
なんか悪いことをした気分になるなぁ。
でもとりあえず実行。
『ぼくのせんぞたち』は「足を大きく広げ、頭の上で掌を載せる動作」が必要なようだ。
その動作をしつつ、
「『ぼくのせんぞたち』」
『星力』を発動。
すると、俺の身体のあちこちから人間の顔のように見える泡が出現した。
「・・・・・・」
「へぇ、こうなるんですね」
泡はしばらく滞空すると、ふっと消えていく。
なんだかたくさんの人たちに優しく見守られている気持ちになって安心できる。
ちなみに代償としては、身体が油を塗ったかのようにてかてかになるみたいだ。
「・・・・・・」
【あまの】さんはなぜか無言のまますたすたと歩きだした。
「【あまの】さん?なぜ無言なのですか?【あまの】さーん?」
【あまの】さんは応えず歩いていく。
なんだか泣きそうな感じの顔が哀愁を誘う。
ところで俺は今、褌一枚で、髪の毛がつんつんで、身体がてかてかになっているんだけど、こんなおっさんだから耐えきれなくなったのかもしれない。
俺たちはしばらく、無言のまま歩き続けることになるのだった。
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脳内で回想を終えて目の前を見るとだんだん町の輪郭が見えてきているのがわかる。
思ったより大きい気がするなあ。
なんとなく、村っぽい感じを想像していたけど、もっと発展しているのかもしれない。
このまま進んでいけば、町、そして【あまの】さん以外の異世界人との初遭遇になるわけだけど。
荒野にある町、うしめしおし。
果たしてそこで褌のおっさんは受け入れられるのだろうか・・・。
*お読み頂きありがとうございました。
これにて第一章完となります。
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