第三話:意味がないそう決めつけた人は誰
「ぬおりゃあああああ!!!!」
「ふっ!・・・ふっ!・・・」
俺は気合いの入った【あまの】さんのかけ声の横で、黙々と穴の縁を削る。
うつ伏せの状態で、両手に握った拳大の石で地面を叩く二人組の姿は、傍から見たらかなり異様なんじゃないだろうか。
片方は褌一枚のおっさんで、片方は綺麗な衣装の天使みたいな女性という統一感の無さも、異様さに一役買っている気がする。
見方によっては、うつ伏せで駄々をこねる変な大人二人ととられるかもしれない。
とはいえ座位や立位だと体勢を崩して穴に落ちていく可能性もあるし、周りに服が落ちているわけでもないし、穴の縁を削らないといけないし、仕方ないのだけれど。
「ふっ・・・!ふっ・・・!」
「はああああああああ!!!!」
一定の間隔で同じ動作を行う俺とは対照的に、【あまの】さんは一撃の威力を重視しているようで、地面を叩く・・・というか殴る間隔は、まちまちだ。
限界まで力を溜めて、それから殴りつけているっぽい。
やっていることは豪快だけど・・・ちらりと【あまの】さんの姿を見ると、動くたびに舞うひらひらの衣装が華やかだ。
表情もいつの間にか微笑に戻っていて、動作との乖離が激しい。
・・・困り顔のままになるのかと思っていたけど、どうやら『らぶ・はーと・ふゆーじょん』の代償は時間経過で解除されるものだったのだろう。
ということは、【あまの】さんの表情は『星力』の代償によるものではなく、表情筋で固定しているだけ・・・?
すごく力強い表情筋だ・・・!!
・・・そういえば、『星力』同士を【あまの】さんの『らぶ・はーと・ふゆーじょん』で合成できないか考えたけど、んー、今は削ることに集中してる【あまの】さんを邪魔しないようにしよう。
ていうか元居た世界はどうなっているんだろう。
あの二人が無事ならいいんだけど・・・。
などと脈絡なく思考しながら削り、体感だと一時間程度経過したところで、
「くらええええぇぇぇぇ!!!!あっ」
【あまの】さんがいた場所が崩れ、身体の半分、腰から上が穴に落ちていきそうな状態に。
「ああああぁぁぁ!!たすっ!たすけっ!!」
「当然!」
持っていた石を投げ捨て、すぐさま【あまの】さんの脚を掴む。
「うおおおお・・・焦ったぜ・・・すまねーが引き上げよろー」
「了解です。服が破れたりするかもですが、そこは諦めて下さい」
「そんなん気にしねーよ・・・生きてたらオールオケ」
また桶が出てきた。
しかも、おおる?付きだ。
まあ了承の意でいいのだろう。
できるだけ傷付かないように、慎重に引き上げる。
「はあー・・・ビビったけどまぁ思った以上に削れたし結果良ければ全て良しだ!」
「そうですね。これで何か変化があれば良いのですが」
【あまの】さんは大きく腕を回したり飛び跳ねたりして身体をほぐしている様子。
動作全部が大げさだから、服もつられて舞い踊り、まるで妖精の舞踏のようだと思う。
対して俺は褌一枚で小さく首を回したりして緊張を和らげるおっさん。
ひどい落差だなと思う。
足して二で割ったらちょうどいいかもしれない。
そんな感じでしばらく待っていたけれど、崩れた地面が落ちる音もしないし、世界は何事も無かったかのようにあるがままだ。
正直、二つの月の片方が、穴に落ちていくかのように半分沈んでいるくらいしか違いが見つからない。
「・・・なんも起きねぇみてーだな・・・・わりぃ!やっぱ焦るとダメだわ!」
そう言って【あまの】さんは勢いよく頭を下げた。
・・・こういうところ、【あまの】さんの美徳だと思う。
失敗したら、きちんと謝罪する。
それだけのことだけど、非を認めるというのは自分の失敗を受け入れるわけで、心に負担のかかることだ。
それを当然のようにこなす【あまの】さんは見た目よりも心が美しいと思う。
風が吹き、流される髪をなんとなく目で追うと・・・ふむ、異変が起きたみたいだ。
「顔を上げてください【あまの】さん。そして右側を見てみてください。・・・何か、来ます」
「は?・・・って何だありゃ!?」
暗闇でよくわからなかったけど、よく見れば荒野から今までなかった黒い球体がこちらに向かってきているのがわかる。
ちょうど今削れて落ちていった地面と同じくらいの大きさだ。
この一致と唐突さ、きっと穴の縁を削ったことと何か関係があるんじゃないだろうか。
「って加速しやがった!やべー避けるぞ!!」
「了解!」
黒い球体はこちらに近付く程に速度を増しているようで、このままでは俺たちは直撃して穴へ墜落してしまうだろう。
【あまの】さんと逆方向へ散開して黒い球体の進路から外れる。
黒い球体は俺たちのどちらかに進路を変える様子もなく、そのまま直進して横を通り過ぎていく。
思ったより余裕で避けることができたあたり、目的は俺たちではないようだ。
近くまできてわかったけど、どうもこの球体、俺の死因である黒い獣と同じような靄をまとっているようだ。
きっと、何か関係がある。
この世界と、元居た世界には繋がりがある。
そう直感した。
のも一瞬。
「あ。」
「あ。」
黒い球体は、吸い込まれるように俺たちが削った穴に到達すると、緑の光を放ち、消えた。
そして、削ったはずの地面は、元通りに修復されてしまっている。
「オイオイ・・・なんだよこれ!何か変わったことは起きたけどよぉ!これじゃねー感強すぎ!」
「・・・ですね。なんだろう。放っておけば落ちていく地面を元通りにする意図がわからないです」
そう。
放っておけば、そのうち削った地面も穴に落ちていくんだ。
地面が穴に向かって移動している以上、いつかは落ちる。
それを今修復する意図・・・。
「でもよ!やってよかったよな!何かわかんねぇけどやっぱ変わったことが起きたじゃねぇか!ほら見ろ証拠はねぇけどよ!」
「えぇ。【あまの】さんの行動は、無駄ではなかった」
【あまの】さんは飛び跳ねながらくるくる回っている。
新体操のようだ。
今ばかりは固定された微笑も、喜びを表しているように思える。
しかし、なぜ修復したのだろうか。
・・・穴が削れていると、都合が悪い存在がいる?
どうせ落ちるのに?
・・・たまたま地面を修復する存在がいて、奇跡的に削れた部分を修復した?
ありえなくはないけど、そんなの考えだしたら何でもありだ。
・・・世界が変化を嫌っている?
いや、それだとあと十年で滅びそうな状況を世界が受容しているということになる。
でも・・・。
世界がそれを通常状態だと認識しているのだとしたら。
俺の中に嫌な予感が蓄積していくのを感じる。
「ヒャッハー!楽しくなってきたぜ!うひょー!」
うん、とりあえず今やることは調子に乗ってどんどん動きが激しくなっていく【あまの】さんを止めることかな。
そろそろ服がはだけて、下着が見えてしまいそうだ。
「【あまの】さん、【あまの】さん、落ち着いてください。見えちゃいそうです。色々と」
「あん!?パンツか!?やーらしー!でも残念だったな!こういうこともあろうかとあたしは常に見せパンだ!ほれ!」
服を捲し上げる仕草を見て、咄嗟に目を瞑った俺を褒めてあげたい。
ぱんつとは、下着のことだろう。
みせぱんがよくわからないが、そういう問題じゃないと思う。
俺はとりあえず、目を瞑ったまま【あまの】さんが落ち着くのを待つことにした。




