第二話:世界には役に立たないものはない
話し始めて少し時間が経ったのだと、二つの月の位置が変わっているのを見て実感する。
段々と穴に吸い込まれているようにも見えて、少し恐ろしい。
この世界の人は地面が穴に移動しているという事実をどう思っているんだろうか。
俺なら、いろいろと食い止める方法を考えると思うんだけどな。
まぁ、これが元居た世界だったら、の話だけど。
今は【あまの】さんの手伝いのため、恩返しのために付き合ってるというのが本音だ。
とはいえ、穴の縁を削って手動で埋めるよりも、まずは俺の『星力』を開示して、何かできることがないか探った方が建設的だと思うから、まだ少し【あまの】さんと話をしよう。
【あまの】さんの『星力』も気になるし。
まずは俺の『星力』の開示からかな。
相手の名前だって、知りたいなら自分から名乗るのが礼儀ってやつだし、『星力』にだってそれを適用すべきだろう。
「あの、【あまの】さん。お互いの『星力』を教え合いませんか?」
「あん?あーそーだな!っつってもさっき言った通りくだらねーぜ?」
「それでも大丈夫です。まず俺からいきますね」
「おう。どんなくだらねー『星力』か見極めてやんよ」
期待値が低すぎないだろうか。
まぁその方が開示しやすいけども。
「俺の『星力』―『おれもそれつかいたい』は、他人の『星力』を複製して自分のものにできる、という効果があるんです。なので俺は今、元も含めて四つの『星力』を使えるんですよ」
「は?・・・はあああぁぁ!?おま!それめちゃくちゃチートじゃねぇか!・・いやでもこの世界じゃくだらねー『星力』しか無ぇし微妙な気がすんなぁ・・・」
ちいと??
【あまの】さんの言葉がたまにわからないのは、異世界だからだろうか。
というか【あまの】さん、びっくりからの落胆への温度差が激しいな。
風に揺れる【あまの】さんの真っ白なひらひらの袖が哀愁を漂わせている。
うーん、そんなにくだらない『星力』ばかりなのか・・・いや、これは実際にこの世界の人に会って、どんな『星力』があるか確かめるべきかな。
どんなにくだらなく見えても、どこかで役に立つと、俺はそう思ってる。
例えば折り紙の技術だって、宇宙開発に応用されたって聞いたことがある。
それに、ひとつひとつは微妙でも、複数あればとんでもない相互作用を引き起こすかもしれない。
その可能性に、賭けてみたい・・・というか賭けるしかないのが本音だけど。
「そうですか・・・でも、実際にこの世界の人の『星力』を見て判断しようと思います。異世界人ならではの見方なら違って見えるかもですし」
「あーそうかもな!まーくだんねーと思うけどよ!そんじゃさっそく町までいこーぜ!つっても見てのとーり岩と砂だらけの場所だからしばらく・・・そーだな、10キロ以上は歩くけど覚悟しとしてくれよな!」
・・・重機路??
いや話の流れ的に距離の単位?
うーん、確か元居た世界だと、地平までの距離は二里くらいだった気がするから・・・十きろはたぶん、それよりも長そうかな。
ふむ・・・元居た世界とやっぱ違うっぽいなぁ。
って俺の返答を待たずにすたすた歩いていく【あまの】さん。
行動が早いけどちょっと待ってほしい。
そもそも【あまの】さんの『星力』を教えてもらってないし、試してみたいことがある。
「ちょ、ちょっと待ってください【あまの】さん!」
「あん?行くなら早い方がいーだろ!ほれ行くぜ!」
振り返ってそう言うとまたくるりと反転して歩き出す。
勢いでひらひらの着物がふわりと舞って、円を描く。
一瞬だけ、隠れていた脚が月明かりに照らされたのが美しかった。
ってそうじゃなく。
「いやいや【あまの】さん、まず、穴の縁を削る方法、試してみませんか?」
「!?」
【あまの】さんはさらに反転してこちらを振り向く・・・まるで独楽みたいだな。
「は!?あたしの方法じゃ難しいっつったじゃねーか!あれか!やってみて「はいできなかったでしょ」ってドヤるつもりか!?」
うん、そんなつもりは毛頭ない。
そもそも俺は、【あまの】さんの方法にも一理あると思っている。
誰もやったことがない方法。
それは誰もやった結果を知らない方法ということだ。
なら、試してみてもいいと思う。
「いえ、そんなつもりはないです。でも、【あまの】さんが言った通り、何か変わる可能性も捨てきれないでしょう?」
「む。そっか。すまん!いやありがとうだな!じゃあ穴削りながら外周1周くらいしよーぜ!1年ぐらいやりゃーできるだろ!」
いやいや長い長い。
今度は何だか気合いが入った様子で大股で穴に近付いていく【あまの】さん。
さっきよりも弾むような足取りだ。
よっぽど嬉しかったんだろうな。
それだけに梯子を外すのはちょっと気が引くけど、言うべきことは言わないと。
「いえ、試すのは一時間程度にしましょう」
「はぁっ!?」
今度は顔だけ振り返った【あまの】さん。
変わらない微笑が逆に怒りを表しているように感じる。
「正直、時間がかかりすぎます。もしかしたら一周分やって、初めて変化が起きる可能性もありますが、そこまで時間をかけるのであれば、最終手段にした方がいいと思います」
「・・・・・・そうだな。最近地面の移動が加速してて10年くれーでもう限界らしいってんでちょい焦ってんだすまねぇ」
十年・・・!
地面の移動速度も聞きたいと思ってたけど想定以上に時間がない。
これは素早い判断と行動が必要だ。
【あまの】さんが焦るのも無理はない。
「いえ、俺が認識が甘かったです。ただ、やはり一年もかけるのは長すぎると思います。それだけあれば他にたくさんの方法を試すことができるはずです。とりあえず、さっそく穴の縁を削ってみましょう」
「おうよ!おっしゃあ!やるぜやるぜー!」
くるくると感情が切り替わる【あまの】さんは見てて小気味良い。
良くも悪くも率直で素直な性格なんだろうな。
純白の服も【あまの】さんの感情に合わせてゆらゆら揺れてる感じがして綺麗だ。
「で、俺は現状褌一枚で、穴の縁を削ろうにも素手か・・・そこらに転がってる岩でどうにかという感じなのですが、【あまの】さんは何か道具を持って・・・なさそうですね・・・」
少なくとも見える範囲に穴の縁を削れそうな道具はない。
【あまの】さんの手にも何もないし、何かを背負っている風でもなさそうだ。
「あ。あー・・・。岩でいいだろ岩で!手頃な岩でどうにかすんだよ!」
どすどすと足音を立てながら岩探しへ向かっていく【あまの】さん。
おおう・・・本当に勢いのままここに来たんだろうなぁ・・・。
というか道具もなしに俺を治療したんだろうか。
【あまの】さんの『星力』だろうか・・・でも、「くだらない『星力』しかない」と言うにはそれだと強力すぎる『星力』な気がするけど・・・。
俺は【あまの】さんと同じく手頃な岩を探すため【あまの】さんを追いかけた。
「【あまの】さん、さっき聞きそびれた【あまの】さんの『星力』を聞いてもいいですか?」
歩きながら質問してみる。
今のところ手に握れそうなちょうどいい大きさの岩は見つからない。
「うん?あぁそーだったな。くだらねー『星力』だけどまぁ説明するより見た方がはえーだろ。見てな」
そう言うと【あまの】さんは地面の砂を集めて、二つの小さな砂山を作った。
『星力』発動に必要なのだろうか?
くだらないと言っていたし、『砂山を崩す』とかだろうか。
「じゃあいくぜ!『ラブ・ハート・フュージョン』!」
【あまの】さんは両手で、愛の記号・・・元々は心臓を表す記号だったかと思うけど、それを作って砂山へ向け、『星力』の名前を叫んだ。
・・・元居た世界の喫茶店で、今の【あまの】さんと同じ姿勢で接客する人を見たことあるなぁ。
というか元居た世界では『星力』発動時の姿勢には突っ込まないのが暗黙の了解なのだけど、こちらの世界でも同じなんだろうか。
地雷を踏むといけないし、反応するのはやめておこう・・・。
愛の形になった【あまの】さんの手は淡い緑の光に包まれた。
『星力』発動の兆候だ。
緑の光は愛の形をかたどって、ゆっくりと二つの砂山の真ん中に到達し、弾けた。
「ふぅ!こんなもんだ!見てみな!」
そう言って【あまの】さんは二つ砂山があった場所を指差す。
んー、ずっと見ていたけど、なんだろう・・・二つの砂山は消えて、代わりに緑の光が弾けた場所に、赤黒い液体が。
これは、砂山が合体した・・・?
いやでも、砂が合体して石になるとかだったらわかるけど、あの液体は正体不明すぎる。
「あの、よくわからないのですが、砂山が合体した、ということで合ってますか?」
そう聞きながら【あまの】さんの方を向くと、そこには微笑が消えてなんだか困り顔の【あまの】さんがいた。
おお、初めての微笑以外の表情だ・・・。
でも今困り顔になる必要ある?
「あぁそうだ。あたしの『星力』の『ラブ・ハート・フュージョン』は2つのものを合成して1つのものを生み出せんだよ・・・あとあたしの顔気になってんだろうけど代償だ気にすんな」
あぁ・・・そういうことか。
突然困り顔になるものだから凝視してしまっていた。
元居た世界では代償について触れないのも暗黙の了解だったし、これ以上は触れないことにする。
たぶんこちらの世界でも『星力』に関する暗黙の了解は共通なんだろう。
違ってたとしても、まあ触れない方が身のためだ。
「でも、すごいじゃないですか。二つのものから別のものを生み出せるなんて」
「そう思うか?本当にそう思うか!?見ろあのよくわかんねー液体をよ!結果が毎回ランダムなんだよ!選べねーんだよ!意味あるかこんなもん!」
あ、あー・・・。
あれ、狙ったわけではなかったのか。
らんだむ?、というのがわからないけど、言い方的に、無作為に抽選されてしまうってことかな。
それは、うん、ちょっと使いづらいかもしれない・・・。
・・・でもこれってもしかして。
『星力』同士を合成することもできるんじゃないだろうか。




