第十話:無知は罪ならば知れれば罪はない
「はーやっぱ牛肉はステーキに限るよなー!うっまー!付け合わせの人参ソテーもサイコー!」
「はむはむもぐもぐごきゅんはむはむ」
口いっぱいにほおばりながらも普通にしゃべる【あまの】さん器用すぎないだろうか。
声帯と食道が分離でもしてるのか。
【ひとみ】さんはもろきゅう食べたときと同じくらいの速さで、無言で素早く食べ続けている。
でも早食いという感じはしないのが不思議だ。
俺はと言えば・・・
「ふむ・・・」
元の世界との味の違いに困惑中だ。
なんだろう、なんというか・・・旨味が足りない?
たぶん、調味料が無ければ食べきるのは難しいかもしれない。
その調味料に関しても、強い刺激で誤魔化している感が強くて、美味しい、という感じではない。
でも【あまの】さんも【ひとみ】さんも美味しそうに食べているあたり、これが普通・・・いや【あまの】さんは安くてうまいと言っていた気がするから、これでも美味しい方なのかもしれない。
これは慣れるのに時間がかかりそうだなあ。
というか、お米、味噌汁、漬物、焼いた肉・・・すてーきだったか。
外装も内装も居酒屋っぽいのに提供されてるのは定食っぽいのが違和感ありすぎる。
・・・まあ食べられれば何でもいいか。
俺は疑問を飲み込んで食事に集中することにした。
―――――――――――――――――――――――
「「「ごちそうさまでした」」」
【ひとみ】さんは早々に食べ終えて、【あまの】さんもそれに続いて食べきっていたけど、俺が食べるのを待ってくれていて一緒にごちそうさまをしてくれた。
やっぱり二人とも良い人だ。
しかし、食事の際の挨拶も同じなんだな。
考えてみれば、異世界と言うには類似点が多すぎる気がする。
多少わからない単語もあるとはいえ、そもそも言葉が通じるというのも奇妙だ。
どちらかと言えば、「未来にいる」、そう表現した方がしっくりくる。
気になることはまだあるけど、とりあえず二人にこのことを話してみよう。
「【あまの】さん、【ひとみ】さん、待ってもらってありがとうございました。それで、さっそくなんですが、俺は異世界に来たと仮定していたのですが、あまりにも元の世界と似ている気がするんです。言葉が通じますし」
「あん?そういやそうだな?異世界転移ってそういうもんかと思ってたけどそもそも異世界じゃねえ可能性もあるな!」
「そうですね。【テル】さんの褌は、過去に存在した遺失技術で作られたもののようですし。私としては、異世界というより過去から来られたというほうが信じやすいです」
おおう、ここで再び褌の話題に。
俺は褌から逃れられないのか。
でも重要な手掛かりであることは確かだ。
全裸じゃなくてよかった。
・・・いや違う。
こっちに来る前に服脱がなかったらよかった。
そうすればもっと手掛かりが増えていただろうに。
「はい、【ひとみ】さんの解釈が一番近いと、俺も思います。でも、元の世界には月が一つですし、あんな大きな穴は聞いたことがない。そこがおかしなところですね」
「あーそうだよなー。・・・あ!こういうのはどーだ!?誰かが何かの『星力』使って星の地面 抉って空にブン投げて月増やしたとか!」
「【アマノ】さん、忘れたのですか?少なくとも穴ができる前から月は二つでしょう。・・・いえ、歴史が間違っている可能性もありますが」
【ひとみ】さんに訂正されて【あまの】さんがぶうぶう言っている。
とはいえ、絶対にありえないとも言い切れない仮説だ。
まあ歴史的には【あまの】さんの仮説は否定されるっぽいけど、【ひとみ】さんの言う通り歴史が改竄されている可能性もある。
しかし穴の成立過程。
それも、穴を埋めるという偉業に必要な情報だ。
「あの、【ひとみ】さん、その穴なのですが、いつからあって、どのように出来たのか教えていただけませんか?」
「オイ!なんであたしには聞かねーんだ!いや忘れちまったけどよお!」
「はいはい【アマノ】さんはお静かに。・・・これは歴史的事実として教えられることなのですが、あの穴は『星力』の暴走によってできた、と言われています」
あぁ、【あまの】さんの仮説は完全に間違いというわけでもないのか。
伝わっている歴史が正しいとすれば、『星力』によって穴を開けられたというところは正解になる。
「ですが、穴ができた年代については詳しくわかっていないのです。少なくとも人類が誕生した後であろうと言われているだけで・・・そうですね、数百年、数千年、数万年前の記録を見ても穴の存在が確認できていますし、近い過去のことではないのは確かです」
え、でもそんなに過去のことなのになぜ『星力』の暴走が原因だとわかったんだろう。
それに、これが正しいとするなら俺が過去から来た可能性も否定される。
穴なんてなかったしなあ。
「ええと、そんなに昔のことなのになぜ『星力』が原因だと?」
「はん!思い出したぜ!そんだけ過去っつーこたー技術も未熟!だから『星力』くれーしか原因として考えらんねーってこった!」
「そうですね。なので私は穴の歴史については懐疑的なのです。一応知識として記憶していますが、あやふやな部分が多すぎます」
ふむ。
これはもしかしたら、この世界の人も穴についてよくわかっていないのでは。
「あの、元居た世界よりもこの世界の方が技術が進んでいると感じているのですが、それでもわからないのですか?そもそも穴を塞ごうとしないのが不自然に感じます」
「だよな!あと10年でこの星は穴と溶岩だけになっちまうっつーのに動かねーのはおかしいだろ!」
「・・・その通りです。その通りなのですが、過去の人類も何もしなかったわけではないのです。・・・色々とやった結果、どうしようもないと結論が出てしまった、ということになります」
あぁ・・・そうか。
何もしていないのではなく、何かやってみた後だったのか。
そして【あまの】さんだけは納得できずに世界を救おうとしている。
「どうしようもねーからって止まったら終わりだろ!最後まであがけよ!黙って受け入れんじゃねーっつの!」
「・・・きっと【アマノ】さんの方が正しいのでしょうね。でも私たちは、結論付けてしまったのです。あの穴は人類の罪であり、受け入れるべきだと」
「それがおかしいっつーんだよ!」
なるほど・・・。
万事を尽くして、それでもどうしようもないから、受け入れる選択をしたのか。
でも。
俺は【あまの】さんの考えの方が好きだ。
みっともなくても、最後まであがく方が、美しいと思う。
「あの、【ひとみ】さん。そうは言っても、【ひとみ】さんは、俺たちに付いてきてくれると言いましたよね?それは、受け入れるという選択と反するのでは?」
「私が付いていくのは【テル】さんの褌の素晴らしさを広めるためですが?」
そうだった。
褌仕事しすぎでは?
「いえ、でも、考えてみれば穴が『星力』によるものだと妄信していたのも変ですね・・・。すぐに考えを変えるのは難しいですが、共に歩む中で少しずつ変わっていくかもしれませんね」
「おおー!【ヒトミ】ー!!さっすがあたしの親友だぜ!」
感極まって【ひとみ】さんに抱き付く【あまの】さん。
【ひとみ】さんはやっぱり顔を背けているけど、嬉しそうだ。
しかし、なんというか、話し合ってみてもわからないということがわかった、みたいな感じだな。
とりあえずこれからの行動方針も決めないといけないけど・・・。
「お二人とも、これからのことなのですが、何をすべきか案はありますか?」
「お?そうだなー。仲間を増やす!とかどうだ?」
「そうですね。正直私たちだけでは手が足りない気がします」
それは確かにそうだ。
それじゃあまずは―
「話は聞かせて頂きましたわー!」
・・・後ろからなんか濃そうな口調の声が聞こえてきた。
振り返るのが怖いなあ。
でも言い方的に仲間になってくれそうかもだし。
勇気を出して振り返ってみよう―




