毒メシの刑
「おいコレット、食事の用意をしろ!」
「はあ?」
「コックがいなくなったからお前が食事を作れ!」
口と顎に髭のある、少し古びたモーニング姿の男爵様、もしかしたらクズ父――が屋根裏部屋にやって来て、ベッドでごろ寝しながらお腹を空かせているわたしを怒鳴った。
「……わたしは何もしてはいけないと言われています」
「あの二人の言葉なぞどうでもいい、聞かなくていい。使用人がいないんだ、だからお前が料理をするんだ!」
「……使用人がいない?」
「そうだ、お前のせいでな! 責任は取ってもらう!」
しかしわたしは『お嬢様』である。
なぜ『お嬢様』のわたしがコックの真似をしなければならないのでしょうか。
理由は分からない。
そもそもコックがいなくなったって、どういうこと?
解雇したの? 自分から辞めたの?
何を言っても無駄なので、地下の調理場へ行く。
誰もいないんですけど。
料理の材料は?
ガスコンロは?
お米は?
お味噌は?
ない。
そもそもわたし、料理なんてマトモに作ったことがないのです。
家庭科の調理実習は料理好きの人が率先してやりました。わたしは皿洗いをしただけ。
カレーをレンチンとか、ミックスチーズを載せたパンをトースターでチンとか、カップ麺にお湯を注いで三分くらいならできるけど。
そもそもガスコンロも電化製品もないんですけど。
※
「何だこれは」
「食事です」
わたしが作ったのは、小麦を水で溶いて練ったものに塩と砂糖を加え、葉物を千切って入れ、お湯で煮たもの。
ドロドロな何か。
ホットケーキだって作ったことがないのに、わたしにどうしろと?
そばがきというのを作った記憶があったので、試してみました。
そばがきは、そば粉にお湯を入れて混ぜ混ぜするだけの、簡単な料理です。ただし、ダマにならないように少しずつ練らなければなりません。
大きな鍋に水を入れて暖炉のようなオーブンのような場所の上に置き、たくさんお湯を沸かしました。
今回はそば粉がないので小麦粉を使いました。
給食で出た『すいとん』っぽいかな?
二品目は、暖炉にジャガイモをそのまま入れて焼いたもの。焼きジャガイモ。
皮をむいて半分に切ったから大丈夫だと思うけど、生焼けだったらごめんなさい。パンなんて焼いた事ないし、カレーなら作れるかもしれないけれど、お肉と玉ねぎとにんじんが見当たらない。
そもそもカレー粉がない。
三品目は、野菜をちぎって塩をかけたものを各人のお皿に盛りつけた――適当に。ドレッシングなんてどこにあるのか知らないし、自分で作れるわけがない。
お茶なら入れられると思うけれど、どれが何の茶葉なのか分からない。
香りは緑茶っぽい。少なくとも紅茶ではないような。
コーヒー豆があったけれど、豆からコーヒーを入れたことがありません。
じゃじゃ~ん、晩餐用お料理の出来上がりです!
すいとん風小麦がき。(作者注:十分火を通してくださいm(_ _;)m)
生野菜のサラダ。
焼きジャガイモ。
緑茶もしくは紅茶。
お肉と魚はないけれど完璧!
わたしの夕食よりも豪華じゃない!
※
「ま、マズイ! 何だこの料理は!」
「こんな家畜のエサのようなもの、食べられるわけないでしょう!」
「最低! どこの残飯!?」
ガっちゃーンと、お皿を払って割れる音がした。
テーブルを見ると、収入の一部を失ったひげ面のオジサン(男爵様、まさかとは思うけれどコレットのクズ父?)と、階段落ちして足を引きずっているオバサン(まさかのクズ母? クズ継母?)と、ドレスがほつれて恥をかいたお嬢様(まさかのクズ姉? クズ異母姉? クズ連れ子?)が、しかめ面をしてわたしを睨んでいる。
「コレット、今すぐパンを買ってこい!」
「こんなゴミはさっさと片付けなさい!」
「お菓子も買って来て!」
ナ、ナンダッテー!? オマエラハナニヲイッテイルノダ!?
もう夜なんですけど。
※
わたしは仕方なくお金と、麦わらで編まれたカゴをもらって屋敷の外に出た。
こんな夜更けにお店なんて開いているのかなぁ……コンビニなんてないだろうし。営業してたとしても、この世界でお買い物をしたことがない。
お金の価値も物価も知らない。
第一、ここ、どこですか?
ウッ、寒い! 初冬ですよ!
わたし、古ぼけた長袖ワンピースしか着ていないですよ!
フリースコートプリーズ!!!
何だか哀れなコゼットになった気分です。
そうか、わたしはコゼットなのか。
箒を持って玄関の掃除をすれば、完璧にコゼット。
コゼットというか、コレットですけど。
歌っちゃおうかな?
けれど……。
そもそもわたし、この世界に転生してから屋敷の外へ出たことがない。
お店がどこにあるのか知らない。
町の名前も、国名さえ知らない。
男爵家の苗字も知らない。
文字は仏語っぽいです。
たぶん発音も仏語っぽいです。
仏語を学習したことがないわたしが、なぜ言葉を理解できるのか不思議です。
「はぁ……お腹空いたよぉ」
もしもわたしがコゼットなら、夜の森に行けば見知らぬオジサマに助けてもらえるはずじゃない?
大きくて強くて頼もしいオジサマはいずこ?
☞次回は『告げ口の刑』です。とうとうお約束の頼もしい救世主が!




