衣装崩壊の刑
シュッシュッ……。
早朝からお約束のエントランス前の掃き掃除。
何だかな~、こんな感じの古い挿絵があったような気がするな~。
昨日、屋根裏部屋での監禁が解けたばかり。
「人手不足だから仕事をしなさい!」と、髭の生えた執事みたいな人に叱られて、部屋を出されたの。
この屋敷の人たちって怒りっぽいの? カルシウムが足りないんじゃない? 鳥の骨でもしゃぶればいいんじゃない?
ウ〜ン、エントランスの葉っぱは相変わらずですけど。
全然やる気ないんですけど。
というか、庭のお掃除なんてする意味があるの?
そういえば、親切な庭師のおじさんはどこへ行ったんだろう?
一体いつまでこんなことをしなければならないんですかね。
元祖コレットは今頃どうしているんでしょう。
「ハァ〜……ダル〜……お腹空いた〜……」
十分な食事を与えられていないので力が出ない。
最近、ロッテンマイヤーさんみたいな怖いオバサンを見かけない。
いなくなったのかな?
※
「お帰りなさい、オドレイ。寄宿学校の休暇はいつまでなのかしら?」
エントランスでそんな会話を耳にした。
『オドレイ』とは?
「来週までよ、お母様」
あっ、この屋敷のリアル『お嬢様』でしたか。どれどれ、どんな人か見てみよう。
波打った茶髪と茶色い瞳。わたしとは全然似ていない。どちらかというと階段落ちしたオバサン――たぶんお嬢様の母親に似ているかも。オバサン、まだちょっと歩きにくいみたいだな。
でも……少し……というか、ぽっちゃりしてない?
まさかと思うけど、あのオバサン、コレットの母親じゃないよね?
あのお嬢様はわたしの姉じゃないよね?
「あら、コレットじゃない。超久しぶりね」
ゲッ、見つかった。
「相変わらずみっともない姿。ドブネズミみたい、キャハハ!」
誰のせいだと思っているのか。
思い切り殴りたいわ、ここの住人全員を。
※
「コレット、このドレスの裾が少しほつれてしまったわ、直してくれる?」
は?
「あさって伯爵家でパーティーがあるの。それに間に合わせてちょうだい」
は?
「いいからさっさとやって!」
監禁の刑が解け、二階の窓拭きをしていたら、オドレイとかいうお嬢様に縫い物を指図された。
自慢じゃないけど、わたし、縫い物なんてできません。小学校の家庭科でティッシュケースを縫ったことがあるくらい。縫い目が不揃いで不格好だったけど、何とかイニシャルも入れたよ。
『何だよコレ、KM? 琴美のイニシャル? 読めね〜ワッハハハ!』と、同級生からバカにされたっけ。
お嬢様から裁縫道具を渡されたけど、難しすぎる。
琴美だったら、ここまでほつれた服は捨てていたんだけど。
どうすればいいの?
※
ほつれていたのはクリーム色のドレスのボトム、裾から縫い目に沿って五センチくらい縦に裂けている。何かで引っかけたみたいな感じ。ドレスは絹で作られた高級品のようだけど、何だろう……裾に何ヵ所か直した形跡がある。
もしかしてここのお嬢様はそそっかしいのでは。
新しく買えばいいんじゃないの? だってここ男爵家なんでしょう? お貴族様なんでしょう? お金持ちなんでしょう?
使用人がだんだん減っている気はするけどね!
※
裂け目を合わせてピンで止め、最後にグイッと生地のシワを伸ばそうとした。
ビリリッ!
裂け目が広がってしまった。
あちゃ〜。
と、とにかく、裂けた箇所を縫い合わせればいいんだよね。というか、ミシンはないの?
なさそうなので手縫いです。
白い絹糸を針に通してほつれた所を合わせて縫っていく。
チクチクチクチク……。
ええ~、つるつるしてやりにくいよぉ。時間がかかるよぉ……。
「できました!」
翌日の昼下がり、わたしは居間にいたオドレイお嬢様にドレスを渡した。お嬢様は母らしき例のオバサンとティータイム中だった。
(わぁ~、おいしそうな……何かな? ジャムを挟んだパンケーキ?)
「遅かったわね! まったくアンタは鈍くさいんだから! まぁいいわ、あさってのパーティーには間に合ったから」
「コレット、お裁縫ができるのならわたくしのドレスも直しなさい」
「……」
もう嫌です。
誰かに仕事を言いつけられる前に、屋根裏部屋に避難しよう、そうしよう。その前に、厨房からパンを拝借しよう。
そういえば、最後の糸止めやったっけ?
まぁいいか。
※
翌日の深夜、満足な食事を与えられずお腹が空いていたので、浅い眠りでうとうとしていたとき、いきなり屋根裏部屋の扉が開いて蹴飛ばされ、ベッドから落とされた。
「痛い~!」
「どうしてくれるのよ、コレット! あんたの縫い方がダメダメだったから、わたしのドレスが破れてしまったじゃない!」
「痛い……眠い……」
「すっとぼけてるんじゃないわよ、伯爵家のパーティーだったのよ、皆から笑われたじゃないの、どう責任を取ってくれるの!?」
そんなこと言われましても……。
「もうコレットは生涯監禁しましょう、これ以上何かされたら屋敷が無くなってしまいますわ」
「そうね、お母様。今後食事は一切与えないことにしましょう!」
「ここで反省して朽ち果てなさい!」
母子揃って酷い。
わたしの餓死フラグが立ったのです。
☞次回は『毒メシの刑』です。住人全滅の予感が……。




