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在らぬ者は名を持たない  作者: 紋 余白


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幕間、4

「いやぁ、すまんすまん!まさかこんな坊主が命の恩人だとは思わなくてな!」


床に胡座をかいて座る男は、何が面白いのか大笑いしてそう言った。その顔をまじまじと見つめながら──あの後のことを、ふと思い返す。


―――


突然口を塞がれ、驚きと恐怖から身動き出来なくなった俺に気付いた男は、口元の手をゆっくりと下へずらし、そのままふたつだけ質問してきた。


「……お前、ひとりか?」


「うん…」


「親は?」


「母さんは、……死んじゃったから」


答える時に、声が震えたのが自分でも分かった。言葉にすると悲しくなって、心細くなってしまう。そんな俺の頭を、男は突然くしゃくしゃと撫で回して──元居た場所。さっきまで寝ていた床に腰を降ろした。そして、こうして笑いながら謝ってきたのだった。


「這う這うの体で川から上がったものの、力尽きちまってなぁ…流石に死ぬかと思ったわ!ガハハハ!!」


それは笑うことなんだろうか、と男をじっと見ている途中で、大変なことを思い出してしまった。


「あ、背中…!おっきな石?が刺さったままなんだ。抜くと死んじゃうかも、って…思って、」


そこまで言葉にして、不意に目元が熱くなる。助かったんだ、この人は。よかった、と。急にそんな気持ちが込み上げてきて、慌てて手の甲で目を擦る。


「デカい石?…あー、コレか!よっ、と」


男は手を後ろに回して、背中の上の方に刺さったままの破片に触れた。そして掛け声と同時に…どうやったのか分からないが、破片が勝手に抜けて落ちたのだ。血が噴き出すかと思いきや、傷口が淡い光に包まれて塞がっていく。


「……いまの、なに?」


目を白黒させている俺に、男は改めて背中を見せてくる。


「これは“魔術”っつー…言ってみりゃ便利な力、ってとこだな。まだ魔力があんまり戻ってなかったから、デカい石のとこ以外を処置してくれて助かった!」


改めて見てみると、確かに大きな傷が塞がっただけで他の部分はそのままだった。


「それなら、傷口を洗って薬を塗り直してもいい?多分、何度かやった方がいいんだと思う」


母さんがやっていたことを思い出しながら伝える。男は大きく頷いた。


「もちろん、よろしく頼む!今は手持ちが無いが、ちゃんと治療代は払わせてもらうからよ」


治療代。そう聞いて視線が泳いだ。母さんがどの薬でどれくらい貰っていたかなんて、俺は知らない。だから今回のことでいくら貰っていいか分からないし…と、考えて頭を緩く左右に振った。


「治療代は…いい。おじさんが生きてただけでいいよ」


男は驚いた顔をしていて、そんな様子を見て俺まで困惑した。だって、他にどう言えばいいのか分からない。


「う〜ん、そう言われてもなぁ…坊主には命を助けて貰った恩がある。礼が出来ねぇとなると、俺はおちおち生きていけねぇってもんだ」


「え!?生きていけないって……し、死ぬの…?」


せっかく助けたのに、と心配から身を乗り出した俺を見て、男はニヤリと笑った。


「…よし。お前の願い事をひとつ、叶えてやろう」

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