幕間、3
どれくらい時間が経っただろうか。手当した傷口の状態をよく観察してみると、なんとか出血は止まってきたようだった。呼吸も、少しずつ落ち着いてきているみたいだ。しかし、このまま此処に置いておくと悪化してしまうかもしれない。この辺りには雨風を避けられそうな洞窟は無いし…暖を取るのなら家に連れ帰るしかなさそうだと判断して、手に取ったマントを男の背中に掛ける。その際、大きな破片に当たると痛いかもしれないと、布の裂け目から破片が出るようにしておいた。そして男に背を向けて屈み、両腕をそれぞれ肩に引っ掛けて──背負う形で持ち上げようとしてみた。しかし、当然持ち上げられない。
「ふ…っ、ぐぐ……!」
ありったけの力を込めて立ち上がる。それでやっと上半身だけは浮かせることが出来たから、男の足を引き摺る形で家までの道を連れ帰った。
───ずずっ。ずずずっ…。
歩を進める度に、男の足が土を擦る音が響く。逸る気持ちとは裏腹に思うようには歩けなくて、帰り着く頃にはすっかりと日が暮れてしまっていた。
体力を使い切ってしまったために男をベッドの上に寝かせることが出来ず、床に布を敷いて横たわらせる。うつぶせの顔の下にクッションを挟み…そこで俺は力尽きて、男の隣で倒れ込んでしまった。ふと見えた男の足は、靴が無くなっていて。ああ、明日拾いにいかなければな、などと考えながら意識を手放したのだった。
―――
ふと、目が覚める。
部屋の中は薄暗くて、ぼんやりとした視界を見回すと自分以外の人間の体が目に入った。驚いて飛び起き、状況を把握する。ああ、そういえば──俺が連れて帰ってきたんだった。近くへ寄り、男の呼吸を確かめる。ちゃんと息をしているようだ。傷の具合も確認しようとマントを捲り取った。
血が止まり、少しずつ固まり始めているようだ。一番酷いところに母さんの薬を使ったのが良かったらしい。と、安心したのも束の間。こんな怪我をした人間を、ここからどう看病すればいいのか分からない。母さんのように意識があるならまだしも、この男が目を覚ます様子は無い。となると、何か食べさせることも出来ない。
散々悩んだ末に、起きた時すぐ食べられるようにと野菜のスープを作っておいた。それから男の靴や、罠に掛かった獲物を取りに行く。長いこと家から離れるのは怖かったので、必要なものだけ集めてすぐに戻った。
そんな生活を何日過ごしただろう。ある日、薪を集めて家に戻ると、まだ寝ているはずの男の姿がなくなっていた。どうなっている?目を瞬かせるばかりの俺の口元を、背後からぬっと伸びてきた手が塞いだ。
「……騒ぐなよ、坊主」




