番外 bye-bye エトゥーリア
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
順調に視察を終え、ビルさん、アーニーを交え、カロリング大聖堂への魔石設置計画に関して打ち合わせを終えるとそろそろウルグレイスに向けて出発する時間だ。
が、ここで問題発生!ビルさんがまだ帰らないと言い出したのだ!
「帰らないって…何かあった?魔石に不備でもあったの?」
「ちがう、そうではない。ただその…」
「レジナルド様、ビルさんは私のためにそう申し出てくれたのです。申し訳ございません…」
おずおずと口を挟んだのは、何人かいる臨時雇いの中でもひときわ小柄な一人の女性。ほんの一週間程度の滞在だけど実に気持ちよくお世話をしてくれたメイドさんだ。
「あなたのためって…?」
「私の住居が隙間風の入り込むボロ屋で…、それを話したらビルさんは冬がくる前に直してくださると仰って…」
な、なにぃ!こ、これはまさか…。もしやビルさんにロマンスの入り口が…?
小柄なメイドのクララさんは飾り気のない素朴な人だ。
父親も立派なあごひげを自慢にしていたというクララさんは、対面時からとてもビルさんに友好的だった。祖母がかなり厄介な人だと言っていたから慣れているのだろう、頑固者の扱いには。
ビルさんもビルさんで、背の高いその他のメイドさんたちに比べ小柄なクララさんは気安かったのだろう。用があれば彼女を探し出して頼んでいたには気付いていた。
それにしてもいつの間に…
「そういうことなら別に良いけど…、で、でもあっちに居るビフさんはそんなに不在が延びて大丈夫なの?」
身の回りのことをビルさんに丸投げしているあのビフさんに生活能力があるとはとても思えない。
「ビフは工房に入り浸っておるから部屋は大して汚れん。そして工房にはもとより人は入れん」
ここで何かに気付いた勘の良いアーニーが口を挟んでくる。
「ビフはあそこに住み始めてから獣人のダチが出来てんだよ。飯ならそいつらと酒場で食ってんじゃねぇか?風呂はカピパラ湯だろうし」
「獣人の友だち…」
「うちで働いてるウォンバット獣人だよ。集合住宅作りの責任者だ」
「あああの。なるほど」
…小柄でずんぐりむっくりした体型に親近感でも感じてるんだろうか…。彼らも仕事以外は引きこもりがちだし。
「あいつら温厚で呑気だからな。偏屈なビフでもケンカにならねぇ。チビチビ飲みながら黙ってブツブツうるさいビフの話聞いてるぜ」
意外と充実した毎日を送ってるビフさんにちょっとビックリ…。けどそれは歓迎すべき事実だ。
「じゃあそういう事だからあと10日ほど一人で頑張れってビフさんに伝えてくれる?」
「ああ。必要なら我が家からも手伝いを出そう」
僕はシュバルツに電波塔に関する2~3の修正点とビルさんの滞在延期を伝言するようお願いすると、グリージオの待つクーデンホーフ領へとパパを送った。
そして場面はウルグレイスへと移る…
「さて、着いたけど…やることは同じだよ。電波塔設置場所、それから資材の確認と下準備、人夫たちとの打ち合わせと…、あと観光ね」
「レジーは以前観光しただろう。シャリムくんたちを連れていくのかい?それなら別の場所がいいかな。美術館はつまらないだろう?」
気を利かせたのは迎えに来たセザールだ。
「どこかいい場所ある?」
「うーん、ウルグレイスの象徴となるアイフォール塔は魔石を設置するために訪れるのだったね?」
「そう、明後日には行く予定」
今回の電波塔設置に関し、これには高い位置で電波…というか、ビフさんの魔道具で波長を整えた魔力を交信する必要がある。
かと言ってその高さの建物を一から人力で作り上げるのには時間がかかる。もちろん僕の狂魔力を駆使すれば手っ取り早いが…、僕は便利なドラ〇もんではないのだ。そこまでしてやる義理は無い。
と言う事で、既存の高い建物が存在したエトゥーリアとウルグレイスは、そのまま少しばかり塔頂部分を加工して電波塔として利用することが決定している。
エトゥーリアでは、建物が大聖堂と言いうこともあって大反対を受けたが、折しも建物の老朽化が心配されていたこともあって、その修繕込みでなら、…とようやく許可を得たのだ。
そしてウルグレイスからも、完成された芸術であるアイフォール塔の意匠を損なうなど言語道断!とこれまた猛反対を受けたが、絶対外から分からないよう巧妙に設置することを条件にようやく許可が下りたのだ。おかげでどれほど作業が複雑化したか。
これから足場を作って…作業は困難を極めるだろう…が、アーニーには頑張ってもらうしかない。監督として。
「取り敢えずユージーン様のいらっしゃるウルグレイス大聖堂をはじめとした聖堂巡りはどうかな?シャリムくんも厳かな場所が好きなようだし。ここには王都を囲むように4カ所の聖堂があるんだよ。それに…」
それに聖堂で声を荒げる馬鹿者はいない。これはセザールからシャリムへの配慮だ。それにしても…
「結界みたい…」
「その通り。その意味合いも兼ねてるんだ。形だけだが対悪魔のね」
「魔王はいいのか」
「うるさいアーニー」
魔王って言うな。
「それよりウィルやシャリムも楽しめるような演目のオペラは無いかな?」
「では文化庁まで相談に行こうか?」
ウルグレイスでの文化芸術は国を挙げての事業でもある。全ては文化庁の采配のもと執り行われるのだ。
僕とセザールは付いて早々昼寝を決め込む面々を置いて、二人王宮まで足を運んだ。
「ふむ…、そういうことであるなら庶民向けの歌劇『魔鼓』をおすすめしよう」
「魔鼓…」
王宮内の一室、文化庁ではおっとりした官吏の長が快く相談に乗って下さった。ありがたい。
なんでも『魔鼓』とは王子様が攫われたお姫さまを助けるために様々な試練を乗り越えるという、いかにもオペラ初心者が喜びそうな演目なんだとか。
「それは公演中ですか?」
「いいや。だが用意は容易い。これはつい先週まで上演中だったからして劇場さえ用意すれば問題なかろう」
「え…それなら費用はこちらで持ちますね。それからせっかくなので平民街の皆様を招待して差上げて下さい。劇団員も満員御礼の方が演じ甲斐があるでしょうし」
「いや、費用は当方が」
「いえ私が」
「いやいや」
「いやいやいや」
と言うやりとりを何度か繰り返した後、折衷案としてここはデュトワ家が持つことになった。仕方ない。感謝の印としてあとでエルウィン君を拉致ってこよう。
話を終え帰路に付く僕の目に留まったのはいつかのフラワーガーデン。
「あ、ここ…。セザール、少し寄ってかない?」
「いいよ。ラシエールたちも寝ているだろうし」
公園内を散策しながら僕はセザールにエトゥーリアでの出来事を聞かせた。
セザールは良い友人で、と何度も言ってくれたが、こうして対外的には夫夫である以上、なにがしかのセレモニーはすべきだったと反省したからだ。
「僕のデリカシーが無かったから…ごめんね。でもセザールにだって体面ってものがあるよね。シュバルツだってクラレンスに侮られているとか言われていたし…。だから何か…」
「…僕は気にしないけど…、でもそうだな。君がそう言ってくれるなら…、うんと着飾った君とウルグレイス大聖堂の身廊を歩きたい。この国は美を愛する。それだけで僕を侮るものなど消え失せるよ、きっと」
「それだけでいいの…?」
「いいんだ。君に何も望まない。それこそが僕にとって愛の形なんだから」
屋敷に戻りその話をするとデュトワの両親はどこかホッとした顔になり、そして二人の兄は大変喜んでいた。
ああ…もっと早くに気付けばよかった。僕ってばノンデリ…
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この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)




