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8月4日に出会った彼女ー彼女の一人称 4ー


 大学の入学で上京する日が近づいてくると、これまで正月と盆にしか手を合わせたことのない仏壇の前に座るようになっていた。生活態度への小言を対価に、何もせずとも暖かな日向で暮らせる親元を離れ、自己の行いいかんでは散々の雨に濡れることもあろう、一から百まで勝手気ままな都会の一人暮らしをする興奮と大変な喜びは、いつしか表裏を返していたからだ。何が切っ掛けとなったのかは不明だが、お腹をくだし易いとか、起きると寝癖が酷いとか、私の日常では「安定」していた出来ごとをも内包する、総体的な不安へと、あれほどの楽しみは全く逆転していた。我ながら現金なモノだと思いつつ、毎朝毎晩仏間に顔を出す親兄弟を倣い始めていた。


 毎朝「一番茶」を供える最上段中央には一本彫りされたビャクダンの御本像さん。奥まった左右には漆の位牌が大小並び、父親でさえ顔も名前も知らないご先祖さんを祀っている。中段の中心に「水」を供え、一番飯を盛る仏器膳、金色の造花と細い脚の背の高い高月。提灯型の電気灯篭も左右に吊り下がる。それらはシンメトリックだったが、右側の「上がり」には大小の位牌に書かれる金泥を、墨字で記す過去帳が朱色の見台に乗っていた。没した年月日と享年、生前時の下の名が記され、一族の誰と相関であるかを示す情報も有した。「誰某の妻」「誰某の姉」等々・・・・・・下段には二つの燭台と花立。左右に活けられる花を母は常に留意していて、それは母に対して諸々の感謝を滅多に口にしない父が、枯れる前に活け変えられるごと「感謝」を口にする例外的な事例だった。下段の抽斗を前へ出すとえんじ色の膳引きが敷かれている。統一されたデザインの香炉と線香差し。そして色のくすんだお鈴が乗る。裸の炬燵を台にした観音開きは程よく古びている。それが我が家のお仏壇さんである・・・・・・


 高校を卒業していた私はいつものように昼過ぎまで寝ていて、顔を洗ってからすぐに仏間へ行った。家には誰もいなかった。先述した通り、上京する不安から掌を返した私はここ最近のように線香を立ててじっとしていた。お鈴の響きがいつもより長く続いた気がした。勘違いしたのか、それとも今朝は開かれている「過去帳」に気を取られていたからだったのかもしれない。今日が命日だった父方の祖母の「姉」の享年に想いを寄せていた。仏壇の上に掛かる遺影は祖父母のものしかない。いずれにしろ私は正座したままじっとしていた。




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