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義母が私を殺そうとします  作者: 樹


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第8話:お義母様の神事と、世界の終わり

 我が家が世界唯一の『聖公爵家』へと強制レベルアップし、私が全世界の守護聖女に就任してから数か月。

 王都の我が家はもはや聖地と化し、毎日世界中から巡礼者が押し寄せ、神殿のような輝きを放っていました。

 しかし、お義母様、ルクレツィア様の精神は、ついにこの世の限界を超えて神聖な虚無へと達しつつありました。

 あまりの胃の痛さに、もはや痛覚すら失った顔をしながら、それでも真っ赤なリボンだけは執念深く頭のてっぺんに結び直し、ガタガタと震えながら冷え切った聖水を胃薬代わりに煽っています。

(聖公爵家よ。世界で一番偉い貴族になっちゃったじゃないの。でも、私は絶対に諦めないわ。人間や国家の力が通じないなら、最後は『神』よ。我が領地の地下深くに眠る、世界を滅ぼしかけた古代軍事遺産。あの子をあの封印の祭壇の前に立たせて、遺産の防衛システムを暴走させれば、いかにあの子でも今度こそ木っ端微塵の消滅――つまり完璧な不可抗力の事故死を遂げるに決まっているわ。今度こそ、その命とともに領地スキルを奪い取るのよ)

 お義母様は、神をも恐れぬ不敵な笑顔を浮かべ、ある日の朝、私に一本の古ぼけた黄金の鍵を手渡してきました。

「シルフィアちゃん。あなたも世界の聖女様なのですもの。我がシルバ家の発祥の地である、地下の古い神殿をお掃除してきてくれないかしら? これは一族の誇りのための神聖な仕事よ、ふふふ……」

 出ました、お義母様の歴史をひっくり返すレベルの無茶振りです。

 地下神殿――それこそが、お義母様がずっと狙っていた、世界を一夜にして滅ぼせる古代軍事遺産が眠る封印の間。そこには、直系の血筋である私の領地スキルを感知すると暴走し、侵入者を跡形もなく消し去るという、最悪の古代防衛神獣が眠っている場所でした。

(ふふふ、ついにあの子が自ら封印の扉を開け、古代の防衛システムに触れて圧殺されるわ。他殺の証拠なんて残らない、これは古代の呪いによる事故死よ。せいぜい神の怒りに震えて、地の底で消え去りなさい)

 お義母様は、今度こそ神の領域による確実な消滅を確信し、狂気じみた高笑いを上げていました。

 けれど、前世で上履きの画鋲を足裏ツボ押しライフハックと喜んでいた私は、この危険な地下探索を、ただの楽しい大掃除イベントとして受け止めていました。

「わあ、お義母様。私にお家の歴史をお掃除する大役を任せてくださるなんて、私、お家の隅々までピカピカにして、お義母様をびっくりさせてあげますね」

「ええ、ええ。せいぜい世界の終わりとともに、綺麗になっておしまいなさい」

 私は黄金の鍵を大事に握りしめ、マイペースに屋敷の地下へと続く暗い階段を降りていきました。

 地下深くの巨大な扉を開け、封印の祭壇に足を運ぶと、そこには案の定、直系の私の血筋を感知して、数千年の眠りから目覚めた巨大な古代防衛神獣、グランド・ドラゴンが、部屋を揺るがすほどの咆哮を上げて起き上がりました。

「我が眠りを妨げる愚かな人間よ。我が身は世界を滅ぼす究極の破壊兵器。ここへ足を踏み入れた代償として、その魂ごと焼き尽くしてくれよう」

 部屋全体が真っ赤な劫火に包まれ、一瞬で消滅のカウントダウンが始まりました。

 普通なら魂が恐怖で凍りつくところですが、私の頭の中には、いつものポップなチャイムが鳴り響きました。

『おっ、大掃除だね。いいね。あの大きくて強そうなトカゲおじさん、実は数千年間も同じ場所に座りっぱなしだったから、背中やお腹にすっごく埃が溜まっていて、痒くてイライラしてるだけなんだよ。手に入れた人脈ネットワークのスキルを使って、エリザベスちゃんから貰った高級フェザーはたきで、笑顔でそのお腹を優しくフサフサって掃除してあげて。すごいことが起きるよ』

「なるほど、大掃除ですからね」

 私は脳内カンペのアドバイス通り、一切の恐怖を感じることなく満面の笑みを浮かべ、相手の世界滅亡級の劫火を完全に無視して、グランド・ドラゴンの懐へとマイペースに歩み寄りました。

「な、何だお前は。我が劫火を無傷で歩いてくるだと。近づくな」

「トカゲおじ様、数千年間もお留守番お疲れ様です。お義母様から、トカゲおじ様はお家をずっと守ってくれた、世界一綺麗好きで立派な神様だと伺いました。これ、私のお友達から貰ったすっごく気持ちいいはたきなんです。お掃除させてくださいね」

 私が迷いなく神獣の足元に駆け寄り、その巨大なお腹をフェザーはたきでフサフサ、ゴシゴシとお掃除し始めた瞬間、地下神殿に激しい沈黙が流れました。

 次の瞬間、神獣の目が驚愕で見開かれました。長年の頑固な埃が綺麗に落とされ、絶妙な力加減のはたきが、彼の数千年来の痒みを一瞬にして完全に解消したのです。

「く、くうぅ……。そこだ……そこが痒かったのだ。……いや、それだけではない。この娘、我が世界滅亡級の結界を完全に無効化し、我が懐に不敵な笑みで入り込んだだと。なんという圧倒的な神威、そして破壊兵器である私を憐れみ、綺麗にしてくれる優しき神の心……」

 グランド・ドラゴンは、感動のあまりその巨体を丸めてゴロゴロと喉を鳴らし、私の前に平伏しました。

「シルフィア様。我が古代の破壊兵器は、あなたのその底知れぬ神力と、すべてを癒やす慈愛に完全に屈服いたしました。本日をもって、私はあなたのペットとなり、この地下の軍事遺産はすべて、あなたへの献上品といたします」

「わあ、ありがとうございます。トカゲおじ様」

 こうして、世界を一夜にして滅ぼせる古代の軍事遺産が、一本のはたきによって一瞬で我が家の可愛いペットとお宝の山になってしまいました。

 夕方。

 お義母様が、そろそろ地下の防衛システムが暴走して、世界が滅亡するか、あの小娘が跡形もなく消滅したという悲報が届くかしら、と、ガタガタ震えながらお茶を飲んでいると、我が家の庭に、家よりも巨大な古代の神獣がズラリと並びました。

 そして、私がグランド・ドラゴンの頭に乗って、楽しそうに笑いながらリビングの窓から入ってきたのです。

「お義母様、ただいま戻りました。お義母様の大掃除のアドバイスのおかげで、地下のトカゲおじ様と大親友になれました。このおじ様、背中に乗せてくれてすっごく楽しいですよ」

「……あ、あぱぱぱぱ」

 お義母様は、驚きのあまり脳の処理が完全に追いつかなくなり、座っていた豪華な椅子から床へと崩れ落ちました。

(な、なぜ生きているのよ。あの世界を滅ぼす破壊兵器よ。なんで我が家の庭で、古代の神獣が犬みたいに尻尾を振って寛いでいるのよ)

 グランド・ドラゴンがお義母様の前に大きな頭を下げました。

「ルクレツィア聖公爵夫人。シルフィア様という、この宇宙を統べる若き至高の神子を育て上げ、我が封印を解いてくれたこと、心より感謝する。あなたのその世界創造レベルの大いなる知略、神々の歴史に永劫に刻み込もう」

「あ、あ、ありがたき……幸せに……あばばば……」

 お義母様は、神獣の目が「もしこの偉大な神子を少しでも悲しませる者がいたら、この世界の存在そのものを消し去る」という本物の神の威圧を放っていることに気づき、白目を剥いて震え出しました。

 危機回避に成功しました。経験値を獲得します。

 スキル、世界創造を獲得しました。

 神々の好感度、マックスに到達しました。

 その頃、世界の天上界・神々の最高評議会。

「神々に告ぐ。シルフィア令嬢が地下に赴いてわずか数時間、世界を滅ぼす古代遺産を完全に手懐け、神々の時代の因縁を終わらせて宇宙に永遠の平和をもたらしました」

「何だということだ。あの若さで、世界のシステムを無血で書き換えたというのか」

「しかも、王宮と天界の裏システムによれば、すべては彼女の計算通りの大掃除による完全なる精神的救済とのことです」

「恐るべき世界の創造主だ。あの娘はもう、人類の聖女の枠すら超えている。すぐにシルバ聖公爵家を、王家を超えた『神聖皇族』へと昇格させ、彼女をこの世界の新たな『唯一神』として全宇宙に宣言せよ」

 数日後。

 我が家に天界からの光と王宮の使者が同時にバタバタと舞い降り、我が家はついに世界の頂点、神聖皇族へと強制レベルアップ。さらに私は世界の新たな神様になることが決定しました。

「わあ、お義母様が地下のお掃除を勧めてくれたおかげで、お家が神聖皇族になって、私、世界の神様になっちゃいました。やっぱりお義母様は、私を世界で一番偉くしてくれる、宇宙一の女神様です」

 私が満面の笑みでギュッと抱きつくと、お義母様は涙すら出ない完全な抜け殻のようになり、真っ赤なリボンを頭にのせたまま、そのままゆっくりと床に倒れ込みました。

「あ……あばばばばば……殺そうとしたのに……なんで……なんで私が宇宙で一番偉い神の母になってるのよぉぉぉぉ」

 お義母様の命がけの暗殺計画が、ついに世界を完全に救う奇跡となり、全宇宙の頂点まで上り詰めてしまった、すれ違いコメディの最強ハッピーエンドでした。


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