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義母が私を殺そうとします  作者: 樹


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第9話:お義母様の終活と、時空大逆流

我が家が世界最高峰の『神聖皇族』へと強制レベルアップし、私が全宇宙の新たな『唯一神』に就任してから数か月。

 我が家はもはや、宇宙のあらゆる因果が交差する全知全能の神殿と化し、毎日のように異次元の神々や精霊王たちが、お供え物を持って挨拶にやってきていました。

 しかし、お義母様、ルクレツィア様の精神は、ついに全宇宙のキャパシティすら超え、神々しいまでの諦念へと達していました。

 もはや魂が半分口から飛び出たような顔をしながら、それでも真っ赤なリボンだけは、宇宙の物理法則を無視した完璧な角度で頭に結び直し、ガタガタと震えながら冷え切った神酒を胃薬代わりに煽っています。

(唯一神よ。ついに宇宙で一番偉い存在になっちゃったじゃないの。でも、私は絶対に諦めないわ。この世界のすべての理があの子の味方をするのなら、最後は『異世界』よ。あの子が前世で生きていたとかいう、魔法も神の加護も一切存在しないという未開の物質世界――現代日本。神の権能をすべて封印する時空の歪みにあの子を突き落とせば、いかに唯一神となったあの子でも今度こそただの無力な少女に戻り、不慮の交通事故――つまり完璧な異世界での突然死を遂げるに決まっているわ。今度こそ、その命とともに領地スキルを奪い取るのよ)

 お義母様は、時空をも歪める執念の笑顔を浮かべ、ある日の朝、私に不思議な形をしたパステルカラーの四角い機械を手渡してきました。

「シルフィアちゃん。あなたも宇宙の神様なのですもの。我が家の倉庫の奥で見つけた、この奇妙な『魔法の板』の裏側に書かれている、うーばーいーつ、という謎の呪文を唱えてみてくれないかしら? これは宇宙の真理を解き明かすための、聖なる神事よ、ふふふ……」

 出ました、お義母様の時空を大逆流させるレベルの無茶振りです。

 その魔法の板――それこそが、かつて私が現代日本で落としたスマートフォンであり、お義母様の凄まじい「殺意の執念」が、ありえない確率の時空の歪みを引き起こし、現代のデリバリーアプリと天界の通信回線を奇跡的に繋いでしまった瞬間でした。直系の血筋である私の指紋を感知した瞬間、部屋の真ん中に巨大な時空のブラックホールが出現しました。

(ふふふ、ついにあの子が異世界の門を開け、魔力ゼロの物質世界へ吸い込まれて消滅するわ。他殺の証拠なんて残らない、これは時空の迷子による事故死よ。せいぜい異世界のコンクリートのジャングルで、孤独に朽ち果てなさい)

 お義母様は、今度こそ時空の彼方への確実な追放を確信し、狂気じみた高笑いを上げていました。

 けれど、前世で学校の落書きをストリートアートと喜んでいた私は、この危険な時空のブラックホールを、ただの楽しい里帰りイベントとして受け止めていました。

「わあ、お義母様。私に前世の懐かしい世界を覗かせてくれるなんて、私、お義母様のために、あっちの世界のすっごく美味しい名物料理をたくさんテイクアウトして、お義母様をびっくりさせてあげますね」

「ええ、ええ。せいぜいあっちの世界のトラックに撥ねられて、綺麗に消えておしまいなさい」

 私はスマートフォンを大事に握りしめ、マイペースに激しく渦巻く時空のブラックホールへと足を踏み入れました。

 時空を越え、一瞬にして現代日本の大都会の真ん中へとワープした私。

 周囲には高いビルが立ち並び、アスファルトの道路をたくさんの車が行き交っています。すると案の定、お義母様の凄まじい呪いが因果を歪め、猛スピードで走ってきた一台の巨大なトラックが、私を跡形もなく撥ね飛ばそうと突っ込んできました。

「ガハハハ。ここは魔法もスキルも存在しない物質世界。神様だろうが何だろうが、肉体の強度はただの人間だ。大人しく轢かれて、二度目の異世界転生でもするんだな」

 トラックの運転手の顔が、お義母様の怨念を宿してらんらんと輝き、一瞬で衝突のカウントダウンが始まりました。

 普通なら恐怖で身がすくむところですが、私の頭の中には、いつものポップなチャイムが鳴り響きました。

『おっ、懐かしいね。現代日本だね。あの突っ込んでくる大きなトラック、実はブレーキが故障して止まれなくなって、運転手のおじさんがパニックになって泣きそうなだけなんだよ。今までに手に入れたすべての耐性と世界創造のスキルは、この世界の「スマホの電波」に変換されてるから、画面の「注文を確定する」のボタンを笑顔でポチッと押してみて。すごいことが起きるよ』

「なるほど、注文確定ですね」

 私は脳内カンペのアドバイス通り、一切の恐怖を感じることなく満面の笑みを浮かべ、時速百キロで迫り来るトラックを完全に無視して、画面に表示されたデリバリー注文のボタンをマイペースにタップしました。

 ポチッ。

 私が迷いなく画面をタップした瞬間、現代日本の大都会に激しい奇跡が流れました。

 次の瞬間、スマホの電波を通じて私の神級魔力が現代日本のネットワーク全体に大逆流。トラックのカーナビや自動ブレーキシステムが一瞬で神の領域へとハッキングされ、車両全体が黄金の結界に包まれました。

 突っ込んできたトラックは、私の数センチ手前で、まるで重力を無視したかのようにフワリと優しく停止したのです。

「お、おお……。止まった……我がトラックが、神の如き力で自動停止したぞ。……いや、それだけではない。このスマホアプリ、私の一番食べたかった最高級の特製カツ丼を、一瞬で助手席に転送しやがった。なんという圧倒的な通信速度、そしてお腹を空かせた私を癒やす、神の如きデリバリーの慈悲……」

 トラックの運転手は、感動のあまりハンドルに突っ伏して大粒の涙を流しました。

「シルフィア様。我が現代日本の運送業界は、あなたのその底知れぬ電波力と、すべてを包み込むデリバリーの慈愛に完全に敗北いたしました。本日をもって、我々はあなたを我が業界の終身名誉最高顧問として称えます」

「わあ、ありがとうございます。運転手おじ様」

 こうして、魔法の存在しない現代日本のインフラが、一つのデリバリーアプリによって一瞬で我が家の熱狂的な友好組織になってしまいました。

 その日の夕方。

 お義母様が、そろそろ時空の彼方であの子がトラックに轢かれて消滅したという悲報が届くかしら、と、ガタガタ震えながらお茶を飲んでいると、我が家のリビングの時空が再び裂けました。

 そして、私が両手に出来立てのホカホカのカツ丼とピザを大量に抱え、楽しそうに笑いながらブラックホールから戻ってきたのです。

「お義母様、ただいま戻りました。お義母様のおもてなしのアドバイスのおかげで、あっちの世界の運送業界の皆さんと大親友になれました。このカツ丼って食べ物、すっごく美味しいですよ」

「……あ、あぱぱぱぱぱぱ」

 お義母様は、驚きのあまり脳のネジが完全に消し飛び、口を開けたままソファーから床へと滑り落ちました。

(な、なぜ生きているのよ。あの魔法の通じない物質世界よ。なんで我が家のリビングに、現代日本のホカホカの出前が大量に並んでいるのよ)

 現代日本のネットワークの意志が、スマートフォンのスピーカーから鳴り響きました。

「ルクレツィア神聖皇族夫人。シルフィア様という、時空を統べる若き至高のデリバリーの神子を育て上げ、我が世界と回線を繋いでくれたこと、心より感謝する。あなたのその世界線を跨ぐ大いなる知略、全宇宙のネットワークの歴史に永劫に刻み込もう」

「あ、あ、ありがたき……幸せに……あばばば……」

 お義母様は、スマホの画面から「もしこの偉大な神子を少しでも悲しませる者がいたら、この世界の全回線を遮断して社会を滅ぼす」という本物の現代社会の脅威を感じ、白目を剥いて震え出しました。

 危機回避に成功しました。経験値を獲得します。

 スキル、時空デリバリーを獲得しました。

 異世界の好感度、マックスに到達しました。

 その頃、世界の根源・次元の境界。

「全次元の意志に告ぐ。シルフィア令嬢が時空を跨いでわずか数時間、現代日本と異世界を完全にデリバリーで統一。次元の壁を取り払い、宇宙のすべての世界線に永遠の物流の平和をもたらしました」

「何だということだ。あの若さで、次元のシステムを無血で繋げたというのか」

「しかも、全次元の裏システムによれば、すべては彼女の計算通りのカツ丼の注文による完全なる精神的救済とのことです」

「恐るべき全次元の統治者だ。あの娘はもう、唯一神の枠すら超えている。すぐにシルバ神聖皇族を、次元を超えた『超時空神聖一族』へと昇格させ、彼女を全次元の『総総支配者』として全宇宙に宣言せよ」

 数日後。

 我が家に全ての次元からの光がバタバタと舞い降り、我が家はついにこの世に存在する全ての次元の頂点、超時空神聖一族へと強制レベルアップ。さらに私は全次元の総支配者になることが決定しました。

「わあ、お義母様が魔法の板をくれたおかげで、お家が超時空神聖一族になって、私、全次元のボスになっちゃいました。やっぱりお義母様は、私を世界で一番偉くしてくれる、宇宙一、いや、全次元一の女神様です」

 私が満面の笑みでギュッと抱きつくと、お義母様は涙すら出ない完全な半透明の霊体のようになり、真っ赤なリボンを頭にのせたまま、そのままゆっくりと床に吸い込まれていきました。

「あ……あばばばばば……殺そうとしたのに……なんで……なんで私が全次元で一番偉いボスの母になってるのよぉぉぉぉ」

 お義母様の命がけの暗殺計画が、ついに次元の壁すら破壊する奇跡となり、この世に存在する全ての理の頂点まで上り詰めてしまった、究極のすれ違いコメディのグランドフィナーレでした。


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