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義母が私を殺そうとします  作者: 樹


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第10話:お義母様の告白と、世界で一番幸せな家族

我が家が全次元の頂点である『超時空神聖一族』へと強制レベルアップし、私が全次元の『総総支配者』に就任してから数か月。

 我が家のリビングは、王族、公爵、異国の将軍、古代の神獣、さらには現代日本のトラック運転手までが一同に会し、次元を超えて出来立てのカツ丼やピザを囲む、宇宙で最も賑やかな場所になっていました。

 しかし、お義母様、ルクレツィア様の精神は、ついにすべてのドタバタを経て、見たこともないほどピカピカに澄み渡った『完全なる悟り』の境地に達していました。

 もう胃痛の限界すら通り越し、逆に若返ったかのような美しい顔で、お気に入りの真っ赤なリボンを綺麗に結び直し、穏やかな微笑みを浮かべて私を見つめています。

(ああ……終わったわ。すべてが終わったのよ。私はあの最弱の小娘を、毒スープで病死させようとし、暗殺者で事故死させようとし、魔の森や極寒の絶壁で突然死させようとした。王都の権力者に潰させようとして、異国の軍隊に蹂躙させようとして、古代の破壊兵器に消滅させようとして、最後は時空の彼方へ追放しようとしたわ。……なのに、どうしてかしら)

 お義母様は、ずらりと並んだ世界最高峰の権力者たちと、彼らに犬のようになつかれている私を見渡しました。

(あの子を殺そうと私が必死になればなるほど、我が家は男爵から子爵、伯爵、侯爵、公爵、聖公爵、神聖皇族、そして超時空神聖一族へとのし上がった。今や私は、実子の将来どころか、全次元で一番偉くて安全な『神の母』として、世界中の誰からも命を狙われない絶対的な幸福を手に入れているわ。……もしかして、私がお馬鹿だったのかしら。いいえ、お馬鹿なのは世界のほうよ。でも、もうどうでもいいわ)

 お義母様は、そっと自分の手元にある、かつて亡国のプライドとともに握りしめていた「陰謀のノート」を、リビングの暖炉の炎へと優しく投げ入れました。ノートは静かにパチパチと音を立てて灰になっていきます。

 ルクレツィアは深く息を吐き、これまでのすべての「殺意」という名の、世界を救い続けたおかしな嫌がらせの歴史に、ついに終止符を打つ決意を固めました。

 そして、おもむろに立ち上がり、私の前に歩み寄ってきたのです。

「シルフィアちゃん。ちょっと、お義母様のお話を聞いてくれるかしら?」

 出ました、お義母様の、これが本当の最後となる呼び出しです。

 リビングにいた第二王子やエリザベス様、グランド・ドラゴンたちがいっせいに静まり返り、ゴクリと唾を呑んでお義母様の言葉を待ち受けます。

(ふふふ、最後に本当のことを言って、あの子に嫌われて、このおかしな神の座から引きずり下ろされてやるわ。私はあなたをずっと愛していなかった。ずっと殺そうとしていた悪女なのよってね。さあ、私の本当の姿を知って、絶望しなさい)

 お義母様は、かつてのプライドを取り戻したかのような、公爵夫人としての気品溢れる寂しげな微笑みを浮かべました。

 けれど、前世からあらゆる悪意をハッピーな勘違いに変換してきた私は、お義母様のその晴れやかな表情を、最高の愛の形として受け止めていました。

「お義母様、なんですか? 改まって」

「シルフィア。私ね、あなたをこの家に迎えてから今日まで……ずっと、あなたのことを、合法的にあの世へ送ってあげようと、そればかり考えて夜も眠れなかったのよ。スープに何かを仕込んだのも、家庭教師を呼んだのも、全部あなたを処理するため。私は、とんでもない悪妻で、お馬鹿な義母だったのよ」

 ついに語られた、十年の暗殺計画の真実。

 リビングの誰もが「なんだって!?」と色めき立ち、武器を構えようとした、その瞬間でした。

 キーン、と頭の中で、これまでで最も大きく、最も美しい黄金のチャイムが鳴り響きました。

 私の脳内に、涙ぐんだような、それでいて最高に誇らしげなカンペの声が流れてきたのです。

『うわぁぁん、ついにここまで来たね。おめでとう。お義母さん、本当は最初から、貧乏なシルバ家が他国や悪い貴族に潰されないように、必死で裏金を使って君に強力な耐性(毒スープ)をつけさせ、最強の戦闘技術(暗殺特訓)を学ばせ、国家の財産(魔鉱脈や温泉)を君に見つけさせるために、あえて悪役を演じて君を導いてくれていたんだよ。君を世界で一番安全な頂点に立たせるための、究極のツンデレ教育ママだったんだね。さあ、これまでの感謝を込めて、世界で一番大きな笑顔で、お義母さんに抱きついてみて。全次元のシステムが完成するよ』

「……やっぱり、そうだったんですね」

 私は深く深く納得し、涙を溜めて呆然と立ち尽くしているお義母様に向かって、両手を大きく広げました。

「シルフィア……? なぜ泣き出さないの……? 私はあなたを殺そうと……」

「お義母様。私、最初から全部わかっていましたよ」

「……は、はい?」

 私はマイペースに歩み寄り、お義母様の細い腰に、今までのどの回よりも力いっぱい、ぎゅーっと抱きつきました。

「お義母様は、貧乏で最弱だった私を心配して、他のみんなに舐められないように、毎日体を張って私を鍛えてくれていたんですよね。お義母様が私を追い詰めてくれたおかげで、お家はこんなに大きくなって、領民のみんなも、帝国の皆さんも、現代日本のご近所さんも、みんながこんなに幸せになれました。自分のプライドを捨ててまで、あえて悪者を演じて私を守ってくれたお義母様は、世界一、いえ、宇宙一格好いい、私の一番大好きなお母様です」

「な……ななな……なななな……」

 お義母様は、あまりの『超絶ポジティブ勘違い』の破壊力に、完全に言葉を失いました。

 しかし、周囲の反応は違いました。私の言葉を聞いた第二王子やエリザベス様、ガスタフ将軍、さらにはグランド・ドラゴンまでが、一斉にハンカチを握りしめて大号泣し始めたのです。

「おおお……なんと涙ぐましい母の愛だ。あえて悪名を背負い、娘を世界の頂点へと導くための過酷なスパルタ教育だったとは」

「ルクレツィア夫人。あなたこそ、真の聖母よ。私たち、あなたを誤解していたわ。ごめんなさい、お義母様」

「帝国の男として、これほど高潔な母親の覚悟を見たのは初めてだ。素晴らしい、素晴らしいぞルクレツィア公爵夫人」

 グルルル、とグランド・ドラゴンも優しく尻尾を振り、お義母様を労うようにその巨体でリビングを包み込みました。

 危機回避に成功しました。すべての因果が解決しました。

 スキル、全次元統括が神の愛へと昇華しました。

 お義母様の好感度が、測定不能の永久マックスに到達しました。

 私の頭の中の裏ステータスは、ついにすべての危険が消え去り、完全なる平和のログで満たされました。

「あ……あばばばばば……もう、本当にどうにでもなれだわ……」

 お義母様は、全次元の権力者たちから『宇宙一高潔な聖母』として拝まれ、私から溢れんばかりの愛のハグを受けながら、ついに諦めて、私の頭を優しく、本当に優しく撫でてくれました。

 その顔には、十年の苦労がすべて報われたかのような、本当に幸せそうな苦笑いが浮かんでいました。

「はい、お義母様。これ、私からのプレゼントです」

 私が手渡したのは、お義母様の髪にそっくりな、新しく世界創造のスキルで作った、絶対に解けない永遠の『黄金のリボン』でした。

「ありがとう、シルフィア。私の、世界で一番可愛い、お馬鹿な娘」

 お義母様が諦めて私を抱きしめ返してくれた瞬間、我が家のリビングは、全次元で一番温かい拍手と歓声に包まれました。

 お義母様が私を殺そうと必死に空回りし続けた結果、なぜか全宇宙が平和になり、私たちは世界で一番偉くて、世界で一番仲良しな、最高の家族になったのです。

 私の頭の中には、最後にもう一度だけ、ピピーンと心地よいチャイムが響きました。

『これにて、お義母様の暗殺大作戦、大成功。めでたし、めでたし』

 私は大好きな家族とお友達に囲まれながら、ホカホカのカツ丼を口に運び、今日も最高のマイペースな笑顔で、幸せな物語の幕を閉じるのでした。


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