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義母が私を殺そうとします  作者: 樹


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第11話:神の母の優雅な休日と、時空を超える出前

 我が家が全次元の頂点である超時空神聖一族となり、私が全次元の総支配者に、そしてお義母様が宇宙一高潔な聖母として全人類から拝まれるようになってから、数か月が経ちました。

 かつては最果ての貧乏領地だったシルバ領は、今や最新の天空温泉郷と伝説の魔鉱脈、さらには現代日本直通の物流ゲートが交差する、全次元で最も栄えた超巨大都市へと変貌を遂げています。

 そんな中、我が家の最高級のテラス席では、お義母様、ルクレツィア様が、それはそれは優雅にハーブティーを嗜んでおられました。

 頭の上には、私がプレゼントした絶対に解けない黄金のリボンが、キラキラと後光のような輝きを放っています。

(ああ……平和ね。本当に、恐ろしいほどに平和だわ)

 お義母様は遠い目で、庭で楽しそうにグランド・ドラゴンの背中をお掃除している私を眺めていました。

 かつては私を合法的に処理して領地スキルを奪おうと、毎日血眼になって胃薬を煽っていたお義母様ですが、今ではすっかりそのお顔から毒気が抜け、神々しいまでの美しさを保っています。

(もう、あの子をどうこうしようだなんて微塵も思わないわ。だって、あの子がちょっと足をつまずかせただけで、隣国がひっくり返ったり次元が裂けたりするのよ。そんな恐ろしい化け物を、私が制御しようなんておこがましかったのよ。今の私は国で一番偉くて、お金も無限にあって、誰からも命を狙われない。ただ毎日、美味しいお茶を飲んで、実子とあの子の成長を見守るだけの簡単なお仕事よ。オホホホ)

 お義母様は完全に「勝ち組の聖母」としての生活を満喫していました。

 そんなお義母様の元へ、私はいつものようにマイペースにスキップで駆け寄りました。

「お義母様、こんにちは。今日もリボンがとっても似合っていて世界一綺麗です」

「あら、ありがとうシルフィア。今日もトカゲさんとのお散歩、ご苦労様。お腹は空いていないかしら?」

 お義母様の口から、信じられないほど優しい聖母の言葉が自然と飛び出します。

 すると、私の頭の中に、久しぶりに懐かしいポップなチャイムが鳴り響きました。

『おっ、のんびり日常回だね。いいね。お義母さん、最近はすっかり穏やかだけど、実は心の中で、前世の世界の「こんびにのすいーつ」っていう、甘くて冷たいお菓子をもう一度食べてみたいなぁって、ほんのちょっぴり思ってるよ。新しく手に入れた時空デリバリーのスキルを使って、画面をトリプルタップしてみて。お義母さんがひっくり返るよ』

「なるほど、おやつの時間ですね」

 私は脳内カンペのアドバイス通り、一切の迷いなく満面の笑みを浮かべ、ポケットからスマートフォンを取り出すと、画面をリズミカルに三回タップしました。

 ポポポン。

 私が画面をタップした瞬間、シルバ領の美しい青空に、再び激しい奇跡の稲妻が走りました。

 空間がぐにゃりと歪み、テラスの真ん中に、現代日本の大手コンビニエンスストアの制服を着た店員さんが、カゴを両手に抱えた状態でそのままワープしてきたのです。

「あ、ありがとうございました。……って、ええっ、ここどこですか。またシルフィア様からの超時空特急便ですか」

 店員さんは驚きつつも、すでに私の常連になっているため、慣れた手つきでカゴから冷たい容器を取り出しました。

「ご注文の、高級カスタードプリンと、プレミアムロールケーキ、それから淹れたてのアイスカフェラテ、お待たせいたしました」

「わあ、ありがとうございます。店員お兄様」

 私が手際よく現金の代わりに領地で採れた小さな魔鉱石を渡すと、店員さんは「毎度ありです。これで今月の売上ノルマ達成です」と涙を流し、再びブラックホールの中へと消えていきました。

 テラスのテーブルの上には、ひんやりと冷えた現代日本の最新スイーツがズラリと並んでいます。

 それを見たお義母様は、優雅に持っていたティーカップをソーサーに戻し、ピキピキと顔を震わせました。

(……あ、あの子、また当たり前のように時空を裂いて出前を取ったわ。しかも、私が心の中でちょっと食べたいなって思った、あっちの世界の甘味を完璧に見抜いて……。やっぱりあの子、私の脳内をハッキングしてるんじゃないかしら)

 お義母様は一瞬だけ、かつての胃痛が蘇りそうになりましたが、すぐにプレミアムロールケーキの、信じられないほど白くてふわふわな生クリームの誘惑に負けました。

 スプーンで一口すくい、お上品に口へと運びます。

「……っ、んん。美味しいわ。口の中で、クリームが雪のように溶けていくじゃないの。あっちの世界の職人は、一体どんな魔法を使っているのかしら」

「お義母様、美味しいですか。よかったです。お義母様が毎日お留守番を頑張ってくれているから、時空の神様がご褒美をくれたんですよ」

 私は自分のプリンを食べながら、満面の笑みでお義母様を見つめました。

 危機回避に成功しました。日常の幸福度を獲得します。

 スキル、時空おやつ便を獲得しました。

 お義母様の胃のライフが完全に全回復しました。

 私の裏ステータスには、もはや戦いや暗殺のログは一切なく、ただただ美味しいおやつの栄養素だけが刻まれていきました。

 その頃、王都の王宮・時空観測所。

「報告します。シルバ超時空神聖一族の領地にて、たった今、再度レベル999の時空歪曲反応を検知。どうやら、現代日本の甘味処から、最高級の糖分を無血で徴収した模様です」

「何だとおおおっ。あの娘はついに、異世界の経済すらおやつの時間感覚で支配し始めたというのか」

「素晴らしい。次元を跨ぐおやつ外交だ。あの娘がいる限り、我が国は永遠に飢えることはない。すぐに全土に、シルフィア様のおやつ記念日を制定せよ」

 王宮の重鎮たちは、裏システムに表示される、ただプリンを食べているだけの私のデータを見て、平和のありがたさに涙を流し、拝むのでした。

「お義母様、明日はあっちの世界の、らーめん、っていう温かいお料理をデリバリーしてみますね」

「ええ、楽しみにしているわ、シルフィア。でも、あまり時空を裂きすぎると、世界の方がびっくりしちゃうから、ほどほどにするのよ?」

 お義母様は、黄金のリボンを優しく揺らしながら、私の頭をそっと撫でてくれました。

 かつての殺意が最高のスパイスとなり、私たちは今日も全次元で一番過保護で、世界で一番甘くて美味しい、幸せな日常を紡いでいくのでした。


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