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義母が私を殺そうとします  作者: 樹


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第4話:生存率10%の森は、最高のピクニック

我が家が子爵家にランクアップしてからというもの、領民たちは大喜びでした。

「いやぁ、シルフィア様のおかげで、ますますのんびりゴロゴロ暮らせるねぇ」と、相変わらずのスローライフを満喫しています。

 しかし、我が家の一室からは、毎日きぃぃぃぃ、という奇声と、胃薬をすする音が聞こえていました。

 お義母様、ルクレツィア様です。

(なぜよ。なぜあの小娘を殺そうとするたびに、うちの爵位が上がるのよ。私の実子に家督を継がせて世界最強の兵器を手に入れる計画が、どんどん遠ざかっていくじゃないの)

 お義母様は真っ赤なリボンをぐしゃぐしゃに振り乱しながら、新たな陰謀を企てていました。

 そしてある日の朝、お義母様は引きつった笑顔で私を呼び出しました。

「シルフィアちゃん、あなたも十二歳になって子爵令嬢になったのですもの。少しは領地のために働いてみない? 我が領の境界にあるカームの森の奥に咲く、綺麗なお花を摘んできて欲しいの」

 出ました、お義母様の無茶振りです。

 カームの森、それは別名、生還率10%の魔の森。凶暴な魔獣がうじゃうじゃと生息し、一流の冒険者ですら命を落とす、王国指定の超危険地帯です。

(ふふふ、毒も物理も効かないなら、環境よ。あの魔の森に丸腰で放り込めば、凶暴な魔獣に襲われて不慮の事故死を遂げるに決まっているわ。これなら領地スキルも無事に我が子に引き継がれるわね)

 お義母様は扇子の後ろで、今度こそ死ね、と念じています。

 けれど、前世から超マイペースな私は、やっぱりお義母様の意図をピュアに勘違いしていました。

「わあ、お義母様、私にピクニックの機会をくださるなんて、なんてお優しいんですか。可愛いお花、たくさん摘んできますね」

「ええ。ええ、たっぷり時間をかけて、二度と戻ってこなくていいわよ」

 私はさっそく、可愛い水玉模様の水筒とお弁当をリュックに詰め、一人でスキップしながら魔の森へと向かいました。

 一歩足を踏み入れると、森の中は薄暗く、遠くからグルルル、と凶暴な獣の唸り声が聞こえてきます。

 普通ならここで腰を抜かすところですが、私の頭の中には、いつものポップなチャイムが鳴り響きました。

『おっ、ピクニックだね。いいねー。あ、そこを真っ直ぐ行くと大きなワンちゃんがいて吠えられちゃうから、右の茂みをピョンピョンって飛び跳ねながら進んでみて。そっちの方が楽しいよ』

「はーい」

 私は脳内カンペのルート案内に従い、マイペースに森を進みました。

 私が茂みをピョンピョンと楽しそうに飛び跳ねて進むと、そのすぐ左側を、危険な魔獣シャドウウルフの群れが、私に全く気づかないまま全力で通り過ぎていきます。完全な安全ルートの踏破です。

「空気が美味しくて、最高のピクニック日和だなぁ」

 私がのんびり歩いていると、脳内カンペが再び呟きました。

『あ、そこの崖の下に、すっごく綺麗な青い石がゴロゴロ転がってるよ。ちょっとあそこから飛び降りて、お尻でズサーッて滑り台みたいに降りてごらん。超楽ちんだよ』

「わあ、滑り台ですね」

 私はためらうことなく、生存率10%の森にある断崖絶壁から飛び降り、斜面をお尻でズサーッ、と滑り降りました。

 着地した場所は、不思議な洞窟の前でした。そこには、脳内カンペの言う通り、眩いほどに輝く青い鉱石が、信じられない量で地表に剥き出しになっていたのです。

「綺麗。これをお土産にしたら、お義母様喜ぶかな」

 私はマイペースに、その青い石をリュックにいくつか詰め、お目当ての可愛いお花を摘んで、鼻歌を歌いながら何事もなかったかのように屋敷へと帰還しました。

 夕方。

 お義母様が、そろそろあの子が魔獣に食い殺されたっていう悲報が届くかしら、と優雅にお茶を飲んでいると、私が泥一つない綺麗な姿でリビングの扉を開けました。

「お義母様、ただいま戻りました。お花と、あと綺麗なお土産を持ってきました」

「……はぎゃっ」

 お義母様は、飲んでいた紅茶をブーッと豪快に吹き出しました。

(な、なぜ生きているのよぉぉぉ。あの魔の森よ。なんで傷一つなく、お土産まで持って帰ってきてるのよ)

 私がリュックから取り出した青い石を見た瞬間、お義母様はさらに目を剥きました。亡国の元伯爵令嬢である彼女には、その石がどれほどの価値を持つか、一目で分かってしまったからです。

「これ……嘘でしょ、これ魔鉱石の原石じゃない。それも、こんな特大サイズ……どこで手に入れたのよ」

「ええと、お義母様に教えてもらった森の滑り台の下に、たくさん落ちてました」

「す、滑り台ぃぃぃ」

 危機回避に成功しました。経験値を獲得します。

 スキル、天変地異耐性を獲得しました。

 領地資源、伝説級魔鉱脈を発見しました。

 その頃、王都の王宮・財務省。

「報告します。例のシルバ子爵領にて、我が国最大の埋蔵量を誇る魔鉱脈が発見されました。発見者は、シルフィア令嬢です」

「何だとおおおっ。あの不毛の最果てに、そんな莫大な資源が眠っていたというのか」

「しかも、王宮の裏システムによれば、彼女は生還率10%の魔の森の魔獣配置を完璧に見極め、最短ルートで鉱脈を掘り当てたとのことです」

「素晴らしい。十二歳にして、国の財政をも救う大鉱脈を一人で見つけ出すとは。あの娘はただの戦闘の天才ではない、国家最高峰の内政の天才だ。すぐにシルバ家を伯爵家に昇格させ、領地を三倍に拡大せよ」

 数日後。

 我が家にまたしても王宮からの使者がバタバタと駆け込み、我が家は伯爵家へと強制レベルアップ。さらに領地が勝手に三倍に広がりました。

「わあ、お義母様がピクニックを勧めてくれたおかげで、お家がまたレベルアップして領地も広くなりました。領民のみんなも、もっと広いのんびりスペースができて大喜びです。やっぱりお義母様は私の幸運の女神様ですね」

 私が満面の笑みで抱きつくと、お義母様は白目を剥き、胃を押さえながらガタガタと震え出しました。

「あ……あばばばばば……殺そうとしたのに……なんで……なんで領地が広がってるのよぉぉぉぉ」

 お義母様の必死の暗殺が、我が家を国家最高峰の超巨大貴族へと押し上げていくスピードは、ここからさらに加速していくのでした。


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