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義母が私を殺そうとします  作者: 樹


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第3話:十二歳の適格審査と、勝手に上がる爵位

 月日が流れるのは早いもので、私はついに十二歳の誕生日を迎えました。

 今日は貴族の子供にとって、人生を左右する運命の日。教会の広場にあるステータス石碑に触れ、自身の数値を全国民に一般公開する適格審査の日です。

 もしここで一定の基準に達していなければ、貴族籍を剥奪され、即刻平民落ちとなります。

 教会の広場には、緊張で顔を青くした貴族の子供たちが列を作っていました。そんな中、私の隣に立つお義母様、ルクレツィア様だけは、真っ赤なリボンを誇らしげに揺らし、勝ち誇ったような笑みを浮かべていました。

(ふふふ、ついにこの日が来たわ。あのアホ面の小娘を、七年間欠かさず猛毒スープで痛めつけ、過酷な暗殺特訓でボロボロにしてあげたもの。まともに育っているはずがないわ。さあ、石碑の前で無能を晒して、この家から叩き出されるがいいわ)

 お義母様は扇子の陰でオホホホと高笑いしています。

 対する私はといえば、相変わらずのマイペース全開でした。

「平民落ちかぁ。そしたら領民のみんなと毎日お昼寝して過ごすのも楽しそうだなぁ」

 そんな私ののん気な呟きを聞いて、お義母様は、これだから無能は、と鼻で笑いました。

「次の者、シルバ男爵家令嬢、シルフィア」

 教会の神官の声が響きます。

 私は、はーい、と気の抜けた返事をして、巨大な魔導石碑の前へと進み出ました。

『お、ついに審査だね。いいね。いつも通り、リラックスして石碑に手をポンって置くだけでいいよ。あ、ちなみに裏側で僕が数値をガッツリ隠しておいたから、安心してね』

「了解です、カンペさん」

 私は脳内アドバイスに従い、石碑にそっと右手をかざしました。

 瞬間、石碑が眩い光を放ち、広場の誰もが見える空中へと、私のステータスが文字となって浮かび上がりました。

 名前、シルフィア・シルバ

 レベル、15

 獲得スキル、初級剣術、初級魔術、生活魔法

 それを見た広場の群衆からは、拍子抜けしたような声が漏れました。

「なんだ、至って普通だな」

「レベル15か。平民落ちは免れたが、男爵家の跡取りとしては少し物足りないくらいだ」

 お義母様も、その数値を見てガクッと肩を落とした後、すぐに首を捻りました。

(あれ、平民落ちするほど低くもないじゃない。あんなに毒を盛ったのに、なぜ平均的な健康体なのよ。……まぁいいわ。家督を継ぐほどの才がないと分かれば、夫を説得して私の実子を跡継ぎにするのは簡単だもの。合格ラインぎりぎりの凡才なんて、用済みよ)

 お義母様は、ふんっ、期待外れね、と私を一瞥して、豪華な馬車へと乗り込みました。

 審査を終えた私は、お腹が空いたので今日のおやつは何かなぁと考えながら、のんびりと帰路につきました。

 しかし。

 この表の数値に誰もが関心を失っていたその時、王都の王宮最深部では、国家を揺るがす大絶叫が響き渡っていました。

「陛下、例のシルバ男爵家の裏ステータスが、たった今、更新されました」

 王宮の地下にある、極一部の王族しか立ち入りを許されない、真実の鏡。

 そこには、私の神級隠蔽を貫通した、真実の数値がバチバチと火花を散らして表示されていました。

 レベル、250

 獲得スキル、神級毒耐性、物理超回避、空間切断、全属性無効、毒素魔力変換

「バ……バカな……」

 国王は持っていた金杯を床に落としました。その横で、王国最強の魔導師である大賢者が、ガタガタと膝を震わせてモニターを凝視しています。

「レベル250だと。騎士団長ですらレベル70が限界だというのに、わずか十二歳でその三倍以上。さらにこのスキル欄を見ろ。一つあるだけで国宝級の神級スキルが、まるでバーゲンセールの安売りのように並んでいるではないか」

「陛下、恐るべきはこの娘の慎み深さです」

 宰相が震える手で報告書を差し出しました。

「これほどの神の如き力を持ちながら、一般の石碑にはレベル15の凡才として数値を偽装しているのです。これは、自分の力を誇示せず、影から王国を支えようとする、あるいは敵対勢力に手の内を明かさないという、超一級の戦略的知略に他なりません」

「おお、なんと健気な。最果ての地で、毒殺の危機や暗殺者の襲撃という地獄の特訓に耐え抜き、これほどの力を得ながらも、決して奢らぬ知恵まで持っているとは。シルバ男爵家、なんと恐ろしい教育を施しているのだ」

 国王は、感動と恐怖で涙を流しながら立ち上がりました。

「このような傑物を、いつまでも貧乏男爵家のままにしておいては、他国に引き抜かれる恐れがある。いや、むしろ我が国が彼女に相応しい舞台を用意せねばならん。すぐに使者を送れ」

 数日後。

 ド田舎のシルバ男爵邸に、王宮の紋章が刻まれたド派手な馬車が、砂煙を上げて乗り込んできました。

 馬車から降りてきたのは、王室専属の伝令官。彼は庭でトカゲを眺めていた私と、それを苦々しく見ていたお義母様の前に膝を突き、仰々しく羊皮紙を広げました。

「シルバ男爵家の類まれなる功績、および令嬢シルフィア様の溢れんばかりの才知と徳を称え、本日をもって国王陛下より直々に沙汰を下す」

 お義母様は、え、功績、徳、と目をパチクリさせています。伝令官の声が領地に響き渡りました。

「シルバ家を本日より子爵家へと昇格させる。さらにシルフィア様には、王都の学園への特待生入学の権利と、王家直属の守護者としての称号を授与するものである」

「……へ?」

 お義母様の手から、愛用の扇子がポロリと地面に落ちました。

 家を没落させて乗っ取るどころか、自分が嫌がらせでやらせていた特訓や食事が素晴らしい教育として国に認められ、家のランクが二階級特進で上がってしまったのです。

「わあ、お義母様、すごいです。お義母様が毎日スパイスの効いたスープをくれて、楽しいフィットネスをさせてくれたおかげで、お家がレベルアップしちゃいました。お義母様のおかげですね」

 私は満面の笑みで、お義母様の腕にぎゅっと抱きつきました。

 お義母様は真っ白な灰のようになり、口から魂のようなものを出しながら、その場に崩れ落ちました。

「あ……あばばばばばば……私の……私の女王への計画が……あばばばば」

 こうして、お義母様が暗殺に失敗するたびにお家の爵位が上がるという、地獄の成り上がり劇が、本格的に幕を開けたのである。


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