表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

【第2話】残酷な招待状と微かな揺らぎ

穏やかな日常を切り裂くのは、いつだって一枚の紙切れだ。

豪奢な金縁で飾られたその招待状には、隣国アストリア王国の第一王子との縁談、そして顔合わせのための招待が記されていた。


「アストリア王国、ですか……」


執務室で父王から告げられた内容を反芻し、私は膝の上で指を絡めた。

アストリアは強国だが、その第一王子についてはあまり良い噂を聞かない。傲慢で、女性を飾りとしか思っていないという。

けれど、弱小国である我が国にとって、この縁談を断るという選択肢は事実上存在しなかった。


「フィオレーナ。お前には苦労をかけるが、これも王女の務めだ。来月には発ってもらう」


父の沈痛な声に、私は「分かりました」とだけ答えた。

喉の奥が震え、視界がわずかに滲む。

ふと、背後に控えるジークヴァルトに意識を向けた。


彼はいつものように、微動だにせず影のように控えている。

けれど、私が「分かりました」と告げたその瞬間。

静寂の中で、微かに、けれど鋭く――彼の腰に下げられた剣の鞘が、甲冑と触れ合って硬質な音を立てた。


彼が、拳を握りしめたのだとすぐに分かった。


「……ジークヴァルト?」


名を呼ぶと、彼は一拍置いてから、いつも通りの静かな声で応じた。


「はっ。旅程の策定、および護衛の編成に直ちに取り掛かります」


その声は、驚くほど低く、どこか抑え込まれた熱を孕んでいるように聞こえた。

彼は私を見ていない。ただ一点、前方の何もない空間を見つめている。

その横顔は、彫刻のように美しく、そしてあまりにも冷たかった。


(あなたは……どう思っているの?)


私がいなくなれば、あなたの「専属騎士」という役目も終わる。

私を隣国の王子に引き渡し、あなたはまた別の誰かの盾になるだけ。

ただの公務として、私を送り届けるだけなの?


「準備ができ次第、報告いたします。失礼いたします」


流れるような動作で一礼し、彼は部屋を去っていった。

去り際、扉を閉める彼の指先が、白くなるほど強くノブを握りしめていたことを、私は見逃さなかった。


その夜、私はバルコニーから遠く隣国の空を見上げた。

暗闇の中、自分を待ち受ける運命への恐怖よりも、彼が何も言ってくれなかったことへの絶望が、冷たい風となって肌を刺した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ