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【第1話】氷の騎士と届かない恋心

朝の光が白い大理石の床に反射し、バルコニーの空気を柔らかく照らしていた。

その静寂を、耳に心地よい低く澄んだ声が、静かに、けれど明確に分かつ。


「おはようございます、フィオレーナ様。本日もお変わりなく何よりです」


振り返ると、そこに立っていたのは私の専属騎士――ジークヴァルトだった 。

銀の甲冑は一分の隙もなく磨き上げられ、腰には王家より賜った名剣が鎮座している 。整った顔立ちに、氷の欠片を溶かしたような青い瞳 。

彼は、この国の誰もが認める「完璧な騎士」だ。

けれど、その表情に感情の影が宿ることはない 。


「おはよう、ジークヴァルト」


私は努めて明るく、王女としての微笑みを崩さずに返した。

けれど彼の眉はぴくりとも動かず、まるで風の揺らぎすら拒絶する氷壁のようだった 。


「本日の公務の予定を確認いたします。午前に歴史の講義、午後は庭園での茶会がございます」

「ええ、ありがとう」


完璧な敬礼。完璧な距離感。

幼い頃から私を守り続けてくれている彼は、いつしか“鉄仮面”と呼ばれるほど、心を閉ざした男になっていた 。


エスコートのために差し出された手を取る。

革手袋越しに伝わる彼の体温は、驚くほど熱い。

その熱に触れるたび、私の心臓は自分でも呆れるほど跳ねるのに、彼の視線は私を容易く通り越し、周囲の警戒へと向けられていた 。


(ああ……今日も、彼は私の“騎士”でしかないのね)


胸の奥に灯った小さな恋心を、彼は知らない。

私がどれほど彼の「鉄仮面」が剥がれる瞬間を、自分だけに向けられる笑顔を見たいと願っているかも、きっと届かない。


階段を降りる際、彼がそっと私の足元を気遣うように歩幅を緩めた。そのさりげない優しさにすら、私は「職務ゆえの完璧さ」を見出してしまい、小さく胸を痛める。

このもどかしい距離が、いつか変わる日など来るのだろうか。


王女と騎士。

越えられない身分の壁と、彼が自ら築き上げた心の壁。

その両方に阻まれた私の恋は、今日も行き場を失ったまま、朝の光の中に溶けていった。

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