知らない天井
この話には性的な意図はありませんが、読み手によっては少し刺激的に感じられる描写が含まれております。
あらかじめご了承ください。
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結局また遅くなりましたけど、何とか午前中には更新できました。
すこしビミョーな内容ですが、楽しんでいただけると幸いです!
「だからお持ち帰りなどとー!」
ゲートから出ながら、天城がそうイラっとした。
「―――?
なんだ、お持ち帰りって?」
誰にそんな話をしていたのか、思い出せない。
いや、そもそも王宮のことをダルカルヌピカに頼んで来たのが直前のことだ。
『はっ。お任せを』
と、ダルカルヌピカが答えたのがつい今さっきの記憶だ。
「……??
と、とにかくこのヒトを安定させなきゃ」
ちょうど、寝室にゲートを開いたので、ベッドの前に出ていた。
でも、若干問題がある。
‐ シャー!!!
猫たち。
ノルガーは慌てふためいて逃げようとしているが、老猫なわけで、とにかく動きが鈍い。
イーシャとアーシャは、シャーと威嚇している。
「ああ、ごめん、ごめん。
お前たちの了承ももらえず、またおかしいヒトを連れて来たね。
でも許してね。いま非常事態なんだ」
爬虫類顔のせいか、やけに警戒しているような気がした。
ダーハラトの時はあれほど警戒は…
あ、いや、自分も酔っていたから、警戒されたのを覚えていないだけかもしれない。
セレステはそう思いながら、猫たちのいない方を選んで、とりあえずプライ・マハを寝かした。
「ごめんなさい。このヒト、体調を崩していてね。
ちょっと、ベッド空けてもらえないか?」
天城の言うことを理解するかどうかは定かではない。
でも大体の猫飼いがそう信じているように、天城は自分の言葉をわかると信じて、猫たちにそう話しかけた。
そして、猫たちも――仕方ないというかのように、ベッドから飛び降りて、リビングに出ていく。
ノルガーは、天城が抱き上げてリビングのソファに寝かせた。
「また変なおじさんを家に連れ込んでごめんなさい。
あとで美味しいおやつをあげるから、それで許してちょうだいね?」
『おじさんを家に連れ込んで』
自分で言っておいて、なんか嫌になる。
ダーハラトの時といい、なんでこう、野郎ばかり家に連れてくるのかな。
「いやいやいや、これが女性だったら犯罪だよ犯罪。
野郎でよかった。うんうん」
女性とか男性とかの以前に、彼らが宇宙人というだけで十分問題だということにはあえて気づいていない。
それが、天城大輝という男なのだ。
「よいしょっと」
もっと楽に横にさせて、息苦しそうではないかと、呼吸を確認する。
案の定、意識はなく、呼吸が弱々しい。
「…どうしよう、これ。
とりあえず、服でも緩めておこうか。
――って。
マハ、無礼をお許しください」
羽織っていた袍の裾を開き、ゆっくりと引っ張り出してそばに置いた。
衣の襟を開いて、胸がすこし楽に上下できるようにした。
とりあえず、思い出せるだけの応急措置はしたつもりだが、容態が好転する兆しはなかった。
それどころか、ウロコの色までもが、だんだん黒ばみ始めていた。
「うわ、どうしようこれ…
本格的に悪化してるようだ…んん?」
悪化一路のマハを見て、頭を抱えていた天城の目に一瞬、なにかピカッとするのが見えた。
それはマハの胸元、さっき襟を開ける時にセレステの手が掠ったところだった。
「なにこれ…?」
‐ ひら
注意深くそこに触ってみたら、なにかがひらっと揺れている。
その下に、鮮やかな黄金のウロコが、垣間見えていた。
「…は?」
天城はまさか、と思いながら、それを指でつまんで、ゆっくりと引っ張ってみた。
‐ ベリッ
「――ッ!」
思った通り、それはマハの身体から、剥がれた。
しかし、意識はなくても痛みは感じているのか、びくんと痙攣する。
「…自分でも気づいていない忌み時期であらせられたか…
はい、バカですか、プライ・マハは」
呆気なさすぎて、それ以上悪態をつく気にもならないでいた、その時だった。
「お母様…お許しを…
ラガマダは…生きとう…」
何か、幼少時に児童虐待でもされていたのか。
千年以上生きてきたと聞いたけど、それでも幼年期の傷が、消えずにいたのか。
「くそ…」
バカといってはいたけど、爬虫類にとって脱皮不全は、時には命に関わる深刻な問題になることもあると、聞いたことがあった。
お世話係ですらろくに近づけない身分だったから、脱皮が来たのも、体の不調も、誰にも気づかれていなかったかもしれない。
いや、自分自身ですら。
「もう、放っておけなくなったじゃないかよ。
幸い、何を用意すればいいかは、ヤープライ・ナンタリアデの時に調べておいたし…
そういえばあいつ、何をぐずぐずしてんだ?
あいつがもう少し早く動いていたらこんな…」
ナンタリアデが忌み時期だと聞いて、彼に贈ったもの。
それはペットショップで買った脱皮補助剤と、水分補給のためのスポーツドリンク。
もちろん普通の水スプレーでウロコの湿り気を保ってあげるだけでも十分だという意見もあったが、補助剤の方が新しいウロコへの栄養供給など、いろいろと利点があるということと、バリアーダへの輸出を考えて、わざわざ補助剤を用意して贈っていたのだ。
「でも、あの時買ったのはテンゲルに残っているし…
あそこで複製したのは、こちらには持って来れないしな。
…ああ、面倒くさいな!」
天城は急いでこちらの服に着替えて、ペットショップへと走った。
***
『お母様…苦しい…許して…』
プライ・マハは昏睡状態で、全身に絡みつき縛ってくるような感覚に苛まれていた。
そんな苦痛の中、母のラガネマパイサに許しを乞っていた彼は、上半身の一部から少しずつ解放されていく気がした。
霧が体を包むような気持ちいい感覚と共に、窮屈だった気持ちが消え始め――
「ううむ…」
やっと、意識が戻って来た。
目は開けたくなかったが、上半身は楽で、下半身は窮屈という、奇妙な気持ちと、何かスースーする気分が…
スースー?
だんだん意識がはっきりとしてくると共に、体が…
異様なまでに、解放感を感じる。
「……?」
おそるおそる、目を開けた。
目に入るのは、知らない天井。
そして、自分はというと――
その知らない天井の下、狭い(とはいえ、クィーンサイズ)ベッドの上に無防備に横たわっていた。
一糸纏わぬ姿で。
「……???」
そして、さっきから下半身に感じるのは…
「!!!!!?????」
あの正体不明の恐怖が…
自分の下半身を…
しかも、なにもかもが露になったところを…
もみもみ…
触り倒して…
「いやああああああああああ!!!!
無礼者!なにをする!!!」
「うわああああ!びっくりした!」
驚いて後ろに飛び退いたセレステの前に、マハは何か身を隠すものはないか周りを見回したが、自分の衣装が床に落ちている以外、なにもそれらしいものは見当たらない。
もちろん、ベッドや布団を汚さないように、全部片づけておいて防水シーツをかけただけだが…プライ・マハとしては、そんなことわかる由もない。
「お、お目覚めでしたか、マハ。
とんでもないご無礼を仕りましたが、これには深い訳が…」
「私に何をする気だ!」
相手が誰だろうが、なりふり構う場合ではない。
マハは、攻撃の術を使おうと、手を伸ばしたが――
「……?」
なにも、起こらない。
「ま、魔術が!?」
「それ、たぶん通用しないと思いますよ。
ここ、地球ですもの」
『チキュウ?
あの者の来たという、あの異世界?
いつの間に!』
気づいてもいない間に、異世界にまで連れてくるなんて。
やはり、あの者は恐怖そのものだ。
そう考えながら、慌ててうずくまって、まだ痺れを感じる足を引き付けて、なんとか裸身を隠そうとしてみた。
力のない今の自分は、なんて非力なんだろう、と思いながら。
「あーあ、だめですよ!
まだ乾いてないウロコに傷でもついたらどうします!」
「…乾いてない?
なんのことだ?」
威嚇ではなく、イラつきと心配を同時に感じているようなセレステの顔を見ながら、彼の発する言葉を聞いていたら、微妙な違和感を感じる。
「ウロコ?ウロコがなんだと……おおおおおお!?」
開放感を感じていた上半身は鮮やかな黄金色。
まだ窮屈で痺れを感じる下半身は、くすみ切ってもう茶色になって光沢もない。
「自分の身体を見て、そこまで驚きますか、普通?
ご自分の忌み時期にも、気づいていませんでした?」
「い、忌み時期?朕が?」
マハとしては、納得できない話だった。
それもそのはず、彼はこの成体の姿のまま世界に現れ、そのまま全く変わらず1千年余りを生きてきたのだ。
脱皮なんか、経験したことがない。
「なんですか、その完全生物ぶり。
とにかく、ちゃんと脱皮しないとお体に響きますよ。
はい、横になって。続きをやりましょう」
「ぶ、無礼者!
恥ずかしい所をさらせというのか!」
「…恥ずかしいもなにも、何もついていないじゃないですか。
あそこも爬虫類で助かった、本当に。
早くしないと、血の流れが悪くなって、組織が壊死したり、腫れたりしますよ?
失礼――します!」
天城はそういいながら、マハの足首を掴み、引っ張って強引に横たわらせた。
「わ、わああ!?」
辛うじて、手で股間だけは隠そうとしたが、天城は容赦なく言い放った。
「あそこの脱皮、ちゃんとしないと中のモノが腐りますから?」
「ひいいっ?」
千余年を生きてきながら、一度もされたことのない、強引な扱いと、言葉の暴力(?)
そして
「―――!!!!」
…『淫らな』手つき。
天城の名誉のために言っておくが、決していかがわしいことはしていない。
ただ、『何もない』敏感な部位に、脱皮補助剤のスプレーを吹いて、潤うのを待ってひっぺかすだけ………
………十分怪しいな?
「うるさいわ!!!!」
「だ、だ、誰と話している?
そち以外に、誰かいるのか?」
「いいえ、そんなことは。
『こっちの』話です。はい」
と、第四の壁との争いをとぼけながら、セレステは心の中で溜息をついた。
『まったく、私も好きであなたのマッパなんか見ているんじゃないんだから。
野郎のマッパなんか、何が悲しくて見てるもんかよ!
ああ、でも『ついてない』のがせめてもの救いだ。
ダーハラトの時は本当に大変だったな。
あいつ、あんな鈍器(?)を見せやがって。
うわ、思い出してしまった』
そんなこんなで前の皮を剥ぎ終えた天城が、まるで垢すり師にでもなったかのように、マハに言い放った。
「はい、うつぶせになってください」
「う、うつぶせ?なんでだ?」
「なんでって…
背中とおしりと尻尾と、脚の裏側はどうする気です?」
「お、おし…
そちには、恥というのがないのか!そんな言葉を口にするなど!!!」
「…前出してたお方の言うことですか?」
「いやああああ!!!」
偉大なる黄金龍、麒麟。
バリアーダ王国の千年の支配者プライ・マハ。
そんな彼の威厳たるや、今や見る影もなく、粉々になって風に吹かれて消えていた。




