種蒔き
一度遅くなると、ドミノ倒しのように…OTL;;;
何としても、元通りに戻します!
お読みになってくださり、ありがとうございます!
「それで、さっき殿下の仰った、何故彼らが今になって目撃され始めたか、ということですが…」
「理由がわかりましたか?」
興味津々なノルガーたち三人がダーハラトを見た。
―――が。
「わかりません」
「えっ」
いっぱい期待させておいて、出てきた答えがあれだ。
あり得ないほど堂々としたその態度に、三人は言葉を失った。
「なんだそれ。ふざけてるつもりか?」
「いや、ありのままを言っているだけだ。
こんなことで誰がふざけるか。
お前じゃあるまいし」
いつもの彼らしいといえば彼らしい答えではあるが、微妙に皮肉を込めている。
本人はそんなことなど気にもしていないのか、ダーハラトはそのまま続けた。
「冗談とか、ふざけるとかではなく、本当に、理由は知らされていません、殿下。
そもそも我々としては直接接触したわけでもない。
ケイレス側だって、『目撃した』という噂だけで、接触してはいないようです」
「そうですか…
確かに、接触してみない限りはわかるはずも…」
と、ノルガーが少しがっかりしたような顔になったところだった。
「じゃ、探しに行くか?」
「は?」
セレステのいきなりの発言に、皆の視線が彼に集まった。
「ウルバーサには一度行ってみたからな。
ここから直ぐ、ゲートで移動できるんだよ。
今すぐにでもデュエマで出て、そのドワーベン?とやらが目撃されたというところまで飛べば…」
「おおお、それいいかも…って、ダメだろうが!」
セレステに釣られかかっていたノルガーだったが、やっとのことで我に戻ってイラッとした。
ダーハラトも呆気に取られてツッコミ…というか、反対した。
「オーテル、お前な…
今なんの用件でバリアーダに来ているのか、忘れてはいまいな?
それに、目撃についてケイレスはまだ公にしていない。
今の段階ではただの『国内のうわさ』に関する『諜報』に過ぎない。
それをお前のその軽いノリで、女王の前に出て『調査させてくださーい』とか言ってみろ。
細作を遣わしているということを、自白するようなものだ」
「ブフッ」
普段の彼らしくなく、セレステのマネまでしながら言うダーハラトにノルガーたちも思わず吹いてしまったので、セレステは少し、やられた気がした。
「はは、レギス・セレステ。お気持ちは察しますけど。
マルク・メンゲンの言うとおりです。
我らも、ケイレスも、友好関係とはいえ細作は遣わしています。
これはもう、公然の秘密といってもいいでしょう。
でも、だからといって、それで情報を手に入れました、とわざわざ相手に告白する必要はないでしょう?」
「まあ…それは…」
セレステとしてもそれは十分、納得できる。
しかし、ダーハラトの『してやったり』と言いたそうな得意げな顔だけは、ムカつく。
『バーカ』
実際、いつも揶揄われる側だったダーハラトは、一発やり返してやれたと、内心嬉々としていた。
『くっ、覚えてろよバカ犬!』
前から考えていた『ダーハラトを泥酔させて屋敷の正門前に放り出して彼の酒癖を利用して社会的に亡き者にする(長っ)』を、いつかやってやると思いながら、とりあえず自分のミスは収拾するべく、セレステは言い出した。
「まあ、確かにそれは私の考えが至らなかったんですね。
でも、可愛い息子が期待に目を輝かせているのを見ると、父としてつい…」
「いや、なんでこちらに振る!?」
「それはお前、おとぎ話の中の存在に会えるのかとドキドキしてたから…」
「違うよ!もう子供じゃないんだから!」
流れ弾に当たり、思わぬ被害にあったノルガーがムッとなって否定したが、その声はなんだか慌てているようにも聞こえた。
「ああ、そういえば、好きでしたね、王子も、陛下も。
おとぎ話に出てくる、幻想種族の話…」
「軍務大臣まで!?」
「お?ダーちゃん。その話、後で詳しく!」
「ただでは聞かせんぞ?」
「やめろ親父!」
「いや!これは父の権利にして義務だ!
お前たち兄弟の幼年時代がどんなにかわいかったか!
私には知る義務がある!」
「ただからかいたいだけだろう!」
そんな彼らの騒動をそばで見ていたナデントは、ふと疑問に思った。
軍務大臣って、あんなによく笑うヒトだったか?
***
一方、ムーアナティの王宮。
官僚たちは退庁し、一部の宿直当番と宮官、警備兵だけが残っている静まり返った空間。
マハの寝殿では、大きな寝床にプライ・マハが、一人で寂しく横になっていた。
今日の視察の後、少し疲れたから休みたいと言って、普段より早めに寝床に入ったが、実際全然寝られずにいたのだ。
特殊な血のゆえ、血を交える伴侶も迎えられないからということで、歴代のプライ・マハには后も妃もいなかったわけで、今もいない。
どうせ作り出された特殊な生き物である彼にとって、それは何の問題にならない。
そんな彼が眠れずに悶々としているのは、昼間の視察での経験が、あまりにも強烈だった上に、彼自身の身の危機に直結している問題だと実感していたからだ。
異世界の技術をそのまま持ってきたというあの空飛ぶ領地の施設の数々。
あのセレステによると、あと二百年ぐらいあればここでも自生すると思うが、それを加速するべく、フェリデリアで研究させているとのことだった。
臣下たちはそのことで驚愕していたが、一千年以上生きてきて世界の変化と進歩を経験してきたマハとしては、そんなことは別にどうでもいいことだった。
来るべき進歩が、少しだけ早くなるだけだったから。
彼が恐れ、心配しているのは、その異世界の技術をこちらで実現させた、というか『持ってきて』『移植した』、セレステのあの『力』のことだった。
『あんなこと…お母様や、叔母様方にもできない。
ましてや、いくら異世界人でも、人間が持っていていいような力ではない。
なのになぜだ?あたかも当たり前かのように、その力を振り回しているが…
あれが…ただの複製であるわけがない…
だからか?お母様たちが、あの人に臣従しているのは?』
驚くべきことは、スプラ・ヌベスだけではなかった。
まるで外国の首脳陣にみせても何の問題にならないと言っているかのように、これ見よがしに…いや、本当に『見せてやるからご自由に見てね』というかのように、訪問団の前に隅々まで公開した、『テンゲル領軍』の基地と、そこにあった、まるで悪夢から出てきたような巨大なヒト型。
あんなものが操縦士の思うがままに動き、歩き、飛ぶということに訪問団のみんなが驚愕していたが、プライ・マハが絶望したのはその『中身』にあった。
*やっほーラガマダ。
叔父だよ~*
『お、叔父様?』
叔父、ヤルデマラセナがそれら全部に『憑いて』いたのだ。
今回の巡廻に付いてきたという13体。
フェリデリア王直属でいまフェリデリアに残っている6体。
合わせて19体全部に。
つまり、叔父の言った『依り代』とはこれらのことだったのだ。
もし、フェリデリアとの間になにかあって、いざという時が来ても…
この中1体だけでも出てくれば、自分は手も足も出なくなる。
ヤルデマラセナだけではない。
昨日、一切の躊躇いもなく自分を消そうとした、あの怖いアリメカリセス叔母様や、ダルカルヌピカ叔父様までもが、『今のこの時空』で、あのレギス・セレステについている。
あんなこと、人間にできるはずもない。
しかし、それを知っていていいのは、自分だけ。
この事実を誰かに漏らしでもすれば…多分、自分は『最初からいなかった』ことにされるだろう。
だから、今偉大なる黄金龍――麒麟であるプライ・マハたる自分にできることは、ただただ黙り込んで、セレステの意に逆らうことがないようにするしかないのだ。
セレステ本人は、そんなことなど全然気づいていないというのに。
「なにがプライ・マハだ…
こんな時に、すがって慰めてもらえる伴侶も迎えられない身など…」
生まれてきて千年余り。
偉大なる黄金龍は、初めて真の意味での疲れを感じていた。
***
「サトウキビ…ですと?」
翌日。
セレステはバリアーダの丞相に面談を申し出て、二人で話し合っていた。
ダルカルヌピカは正体を現してからはもう自重しないようにしたのか、テンゲルではない地上の王宮でも、丞相の言い方におかしく感じられるところはもうなくなっていた。
「はい。
聞いたところ、サトウ竹から原糖を取っているそうですね?」
「はい」
「栽培や砂糖製造に関してはまったくもって門外漢で、ましてや外国人の私が言うのもお節介な気がしますけどね。
竹より単位面積当たりの収穫量が増えるのではないかと思いましてね。
よろしければ、こちらで試験栽培をお願いできればと思い、少し準備してみました」
「はあ…
収穫が増えてくれるなら、もちろんいいこととは存じますけど。
我が国としては、伝統の農作物をいきなり変えるのもいかがかと」
つまり、何の権利があって他国の産業に意見するのか、という遠回しの拒絶だ。
「ははあ。やっぱりそうなんでしょうね。
農家って、保守的なところですし。
いらないお世話でしたな。失礼いたした。
まあ…それはそれで。
ヤープライ・ナンタリアデから何か連絡はありませんでした?」
「はて?
何もなかったんですが」
「そうですか…
ちょっと長引いたか」
一人ごちるようにつぶやくセレステに、丞相が反応した。
「長引く?何がです?」
「ああ、他人の前で口にしていいことなのか、ちょっと迷いますけどね。
私たちが国境を通過した時のことですが…
生憎、忌み時期だったようでして」
「なんと。
それは失礼いたしましたな」
「いえいえ、ただ大変な時期に私たちがやってきただけ。
失礼でなければお伺いしますが…
忌み時期って、周期がありますか?」
「なに、内容を直接言及しない限り、そこまでタブーではありません。
子供の成長期には結構頻繁で、おとなになってからは年に1~2回ぐらいですね」
思っていた通り、地球の爬虫類の脱皮とほぼ同じようだった。
だったら、まだ踏み込む余地はある。
使節団の帰国日が来る前に、ヤープライ・ナンタリアデの報告さえ届いてくれれば。
「そうですか。
おとなもでしょうけど、子供には本当に大変でしょうね」
「ええ、まあ。
お考えの通りだと思います」
報告が遅くなっても、帰り道にヤープライ・ナンタリアデと交渉してみるまでだ。
入国時、贈っておいたものがちゃんと働いてくれたなら、彼だってこちらの話を無下にはできないはずだから。
「与太話に付き合ってくださり、感謝いたします。
お忙しいとお見受けしましたので、私はこれで。
これは…せっかく持ってきたものですし、回収するのも気まずいと存じますので。
どこか、空き地の肥やしにでもしてください」
と、引き上げの意思を述べながら、セレステは持って来たサトウキビの苗はそのまま置いていくと、言い残した。
「いやいや、ご配慮、感謝いたしますぞ。
ではお言葉に甘えさせていただきましょう」
丞相の部屋から出て、セレステは案内する文官の後を追い、ぶらぶらと王宮の廊下を歩いた。
とりあえず、種は蒔いておいたわけだった。




