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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
いざ行かん、新世界
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多分、三人目

「で、君もアリメカリセスの弟で、ヤルデマラセナの兄で」


「はい」


「…私が初めてトゥシタに来たあの日から、ずっと私の傍で通訳をしてくれていた?」


「はい」


肩から指の上に飛び移った小鳥と対話しているセレステの後ろでは、一騒動が起きていた。


「な!我らの言葉が話せたんですか?」


「いや、貴殿らこそ我らバリアーダの言葉を?」


それもそのはず、訪問団の接待のために待機していた使節団が、通訳なしで自由に話せていたのだ。


「…あれが、君の働きということだね?

 ダルカルヌピカくん…いや、さん?」


「滅相もございません。

 ただのダルカルヌピカで十分です」


もちろん、既に家臣になっているアリメカリセスの弟だし、自分のことをマイロードと呼び、臣従している相手なんだが決定的な問題があった。


「声が渋すぎるんだよな……」


「…この声がマイロードのお気に召さぬのなら…

 この姿にふさわしい、かわいい声をーーゲホ」


「いや、いい!無理するな!」


無理して裏返った声で話そうとして咳き込むのも不憫に思えて、セレステは慌ててそれを止めて、その代わりに気になることを聞くことにした。


「それでだが、私が初めてトゥシタに来た時からずっと私の傍にいたのなら、なぜ今日という日まで姿を隠していた?」


「それはー」


セレステのそのもっともらしい疑問に、ダルカルヌピカが少し言いよどんだと思えば、あっけない答えが返ってきた。


「人見知りでして」


「……」


可愛い小鳥の姿で、恥ずかしそうにそっぽを向いて、その渋すぎる声で照れくさそうにそんなことを言うのも、なかなかシュールで、セレステは一瞬、何を言えばいいかわからなくなっていた。


「……でもね?君たち、非線形の時間の住民だから、私の顔など『既に慣れている』わけじゃなかった?」


「でも3次元のあの瞬間に、マイロードに出会う『初めての瞬間』だけは、永遠の初体験ですから…」


「おいおいおいおい。

 誤解を呼びかねない表現は、控えてもらいたいよ!?

 まあ、3次元の私に君たちの感性が理解できないとは思うけどね。

 だからといって、今日までずっと何も言わずにいたってのは…」


ダルカルヌピカを乗せている指を顔の前に近づけ、セレステがその耳に耳打ちした。


「まさか、君の姉貴に脅かされたとか?」


「…ご判断にお任せします」


姉のアリメカリセスが、最初にセレステに会いたいから先に顔出すな、と言ったのでは、と思ったが、どうやらその考えが当たっていたみたいだ。


「それで、まあ…チート能力だと思っていたけどな。

 実は君の助力だったというのは少し惜しい気がしなくもないけど…

 結果として同じなら問題はないし。

 今起きているこの現象も、君の能力かい?」


いきなり言葉が通じるようになっていることに驚いていた皆が、ざわざわしながらこちらに視線を送っていた。

フェリデリアとケイレスのヒトたちはどうせセレステが何かやったんだろうと思っているわけで、バリアーダ勢もまた、そんな彼らの反応につられてこちらを凝視していたのだ。


「はい。さっき通訳が足りないとおっしゃったので。

 このテンゲルの上でなら、常に通訳なしで意思疎通ができるようにしておきました。

 お望みあらば、トゥシタ全域を対象とすることもできますが」


「…うん、それはやめようね?

 なんでもかんでも意思疎通できていいってことでもないからな。

 でも、テンゲルでは常時発動ってのはいいね。

 国際営業の祭、一々通訳を用意しなくてもいいから、それはとても助かる」


「身に余る光栄でございます」


顔見知りというわりには、結構よくしゃべるな、と感じながらも、とにかく訝しく思っているはずの皆に事情を説明するべきだと思ったセレステは、3国のヒトビトが混乱に陥っているところに歩み寄りながらダルカルヌピカに聞いた。


「もしかしてね…私の言うことを、皆によく聞こえるように伝えることもできるか?

 マイクかメガホンでもあれば済むことだけど…

 あれは一旦フェリデリアの邸宅に持ちに行ってこなければ…」


「お安い御用です。

 私がおりますゆえ、マイクなどに頼られなくても」


「おお、それはいい。

 おほん、ではー」


咳をして声を整えたセレステが、ダルカルヌピカに目配せしながら言い出した。


「やあ、皆さま。

 驚かせたようで、申し訳ありませんな。

 私も先ほどまで気づいていなかったことで、予めお知らせできませんでした。

 ここにいます私の家臣、ダルカルヌピカの能力で、我が領地テンゲルの上ではどんな言葉で語っても相手の言葉として伝わり、どんな言葉を聞いても自分の言葉として聞き取れます。

 すごく便利でしょうね?

 これからテンゲルと、スプラ・ヌベスを訪問される皆様には、通訳なしで自由に意思疎通ができるようになります。

 あ、通訳の皆には仕事を奪うようなことになって悪いと思うが、安心し給え。

 これはテンゲル限定のことだからな」


セレステとしては冗談交じりで言ったわけで、白亜館のお披露目パーティーで、セレステがマイクを使って話すのを経験しているフェリデリアの使節団は、レギス・セレステにまた不思議な家臣が増えたな…という感覚しかなかった。


しかし、ケイレスとバリアーダのヒトたちにとってはそうはいかない。

特に、自分たちのプライ・マハと同じ伝音の魔術を、事も無げに使っているセレステを見たバリアーダの訪問団は、驚愕を隠せなかった。


当のプライ・マハはというと…


『ありえぬ!ありえぬ!

 ダルカルヌピカ叔父様までもが、あんな姿になってあのも…お方の傍についていたなんて!

 朕は、どうすればいいのだ!』


目の前にアリメカリセスがいるだけでも逃げ出したいところなのに、あろうことかダルカルヌピカまでもがとんでもない姿になって目の前にいる。

パニックに陥る寸前のプライ・マハの頭の中にもう一人、聞いて気絶しそうな声が聞こえて来た。


*おーい、甥くん?

 私もいるよ?ヤルデマラセナおじさんだよ~*


『お、ヤルデマラセナ叔父様!?どうしてあなたまで!?

 いや、どこに?』


*あ、わけあって顕現はしていないけどね~

 後で見れると思うよ、私の依り代*


ヤルデマラセナがなにか、わけのわからない言葉を残してそのまま黙ってしまった後、プライ・マハは混乱した頭の中を整理してみようと努力した。

これまで保って来たフェリデリアとの友好関係を持続すべく、噂の異世界人のレギスとその空飛ぶ領地を国内に呼び込み、不満を持っている連中にその威容を見せて黙らせようとしていたのだ。

多分似た様な目的で今回の巡廻を受諾したケイレスでの出来事を大使からの報告で聞いた時には、手際がよすぎるというか、あまりにもあっさりと反国王勢力を片づけたというので少しは驚いていたけど、選択を誤っていなかったと内心喜んでいたのだ。

しかし、いざ相手に会ってみると…これは想像のずっと斜め上を行っている怪物ではないか。


「さあ、皆さま。

 言葉の問題も解決できたわけで、ご自由に見回ってくださいね。

 とりあえずは…スプラ・ヌベスの視察でしょうか」


そう言いながらセレステが指してみせた方には、巨大な建物が聳えていた。

空に浮いている島の上に、また空に聳えている十階を超える建物という、非現実的な光景の前に、バリアーダの訪問団は驚いて固まっていた。トゥシタの建築技術では、まだ5~6階が限界だったから、地球のリゾートホテルをそのまま移したようなスプラ・ヌベスは、初めて見るバリアーダのヒトたちにはまるで、別世界にしか見えなかった。

…もちろん、別世界の建築に違いないけど。


「あ、そういえば建物の中には冷房が効いていますが…

 ラプティの方々、大丈夫でしょうか?」


「冷房?」


それは、バリアーダのヒトたちにとっては、初めて耳にする言葉だった。

輿の前に立っていた丞相が怪訝そうに聞き返すと、セレステが答えた。


「はい。フェリデリアと、さらに北方のケイレスから来たヒトたちには、バリアーダの気候は少しきついというか、暑さに慣れていないと、バリアーダの気温に長時間さらされていると結構つらいと感じますからね。

 快適に過ごせる温度に調節していますが、ラプティの方々には寒く感じられるかもしれません。

 寒くなると身動きが鈍くなるとか…しませんかな?」


「温度を調節する?そんなことができるとおっしゃるのですか?」


ダルカルヌピカが通訳レベルを上げたのか、もうイントネーションの差すら感じられない。

多分、セレステ一人にだけ伝える時とは違って、相手のイントネーションがおかしいと思うことがないように調節したみたいだった。


「ああ…

 気温を直接調節するとか、そんな大したことではなくてですね。

 冷たい風を発生させて、それで室内の温度を下げるだけのことでして…

 まあ、簡単なことです」


簡単なこと、と言っても、正直暴力に等しい妄言といっていい。

まだ扇風機すら誕生していない世界で、エアコンのことを言っているのだから。


「正直、簡単には信じられない話ですが…

 今になって信じないわけにも行きませんな。

 その冷房とやらでどれだけ寒くなるかはわかりかねますが…

 大変失礼と存じますが、試しに誰か一人、様子を見に行かせてもよろしいでしょうか。

 何せ、我らラプティは寒さに弱いゆえ」


「はい、もちろんです。

 できれば、寒さに弱い方がよろしいでしょう」


丞相の話にセレステも賛同して、結局サラマの文官を一名、エアコンの効いているラウンジに入らせてみることになった。セレステの呼び出しで来たホテルの職員に案内され、少し浮かない足取りで建物の中に入っていったその文官は、しばらくして安心した顔で出てきて、丞相のところに来て報告した。


「少し涼しい程度で、寒くて困るほどではありませんでした」


「そうか。ご苦労だった」


二人の対話を聞いていたセレステも、案内していた職員に聞いた。


「今日の室温設定は?」


「24度でした」


「そうか。わかった」


温度を確認したセレステが、ニコニコ笑いながら丞相に言った。


「幸いなことに、ラプティの方々にも特に問題はない温度のようでしたね。

 後日、ラプティの方々が北へと旅する時の参考になりました」


「そうなるのですかな?はは。

 では……」


「はい。まずはスプラ・ヌベスの視察から行きましょうか。

 これから、バリアーダの皆さんもご利用になるところですし」

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