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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
いざ行かん、新世界
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頭の中の声

また、更新がものすごく遅れてしまいました。

お読みになってくださる読者の皆様には、ただただ感謝の念しかありません。

「では、皆さん。

 いいですか?ゲート開きます」


使節団公式日程・二日目。

今日はバリアーダ側のテンゲル訪問が予定されていた。

ゲートを通してテンゲルに上がるバリアーダ側の訪問団の後ろ側には、一際目を引く一行がいた。

十六人の、大柄のサラマ(トカゲ獣人)・ラプティと、彼らが担いでいる巨大な輿。

四方に簾が下ろされていて、中は見えないようになっていたけど、誰が乗っているかは聞くまでもないことだった。


「普通、あそこまでするか?王の顔を隠すなんて…」


ノルガーが、少し不満そうにセレステに耳打ちをした。

流石に、フェリデリアやケイレスにはわざわざ王の顔を隠すような慣わしはなく、ラシオンも双子の女王も、普通に徒歩で移動していたからおかしいと考えるのも無理ではない。


「まあ、国ごとの文化ってのがあるからな。

 地球にも、王は土を踏んではならないとか、顔を側近以外の者に見せてはいけないとか…

 あるよ。そんなのが」


「…そうか?

 まあ、確かにこの国の慣わしなら、こちらから口出しすることもないけど」


『実は、それだけじゃないけどねー』


プライ・マハの素顔を見たセレステは、なぜああまで秘密めいた演出をするのか、薄々わかる気がしていた。

法術を思うがままに司るとか、一千年余りを生きてきた超長寿とか言われているけど、あれのどこまでが事実なのかははっきりしていなかった。

一千年以上生きてきたというのも、実はもう何代か代替わりしていながら、それを隠すために顔を見せないのだ、という意見もあった。


しかし、昨日セレステが見たあの正体から考えるとーー


『多分、どれも事実なんだろうな。

 神秘を神秘で隠して、外部に漏れる情報を混乱させるのは、あり得ることだし』


とにかく、昨日は二人だけの空間でいきなり彼の素顔を見て、少し気圧されたような気がしていたけど、時間が経って落ち着いてから考えれば、なんか悔しそうな気がしなくもなかった。

だから、今のセレステは、無礼と取られない線で、少し仕返してやりたいと思っていた。


「では、いきましょうか」


とセレステが言い終えた途端、昨日使節団が降りてきたゲート以上に巨大で、派手に火花を散らすゲートが開かれた。


扉などではない、空間をそのまま切り開いたような感じの、直結ゲートが。


「プライ・マハのお輿が通れるよう、ほんの少し大きめに開いてみました。

 さあ、皆様こちらへ」


もちろんゲートより大きいものが通れないことはない。

しかし、ここでは見栄を切る必要があった。

だからセレステは、やけに派手で、大きなゲートを開いて見せたのだ。


それをみているバリアーダの訪問団は、困惑を覚えていた。

目の前に、空間を切り開いたようなゲートが現れ、そのゲートから全く見たことのない風景が現れたのには、正直驚いていた。

しかし、あれに入るだけで、あの高空に浮いている空飛ぶ大地に行けると?

もしあれが空間転移の魔術の類と言っても、なんの発動準備もディレイもなく、即座に空間を繋げることはありえない。

そう、セレステがフェリデリアで初めて試演してみせた時、フェリデリアの魔術師たちが見せていたのと全く同じ困惑を覚えていたのだ。

その時、オディーリネが訪問団の前に出て、通訳を介して語った。


「皆さんの憂は、よくわかります。

 ケイレスで初めてあれを見た時、私も驚き、本当にあれで移動できるのか、安全なのか心配していました。

 でも、何の問題もなくあの空飛ぶ大地…

 フェリデリア王父卿殿の領地であるテンゲルまで辿り着けました。

 変なところに飛ばされたり、何かに八つ裂きにされたりすることもなく、ですね?」


少し過激な最後の発言に、訪問団の面々がざわついた。


一旦セレステの関係者ではないことになっている彼女が口添えしてくれたのはありがたいことだが、余計なことを付け加えてくれたようで、セレステは心の中で苦笑いをした。


「それに…」


わざとらしく、オディーリネは翼を広げて見せた。

黒鳥ならではの真っ黒な、艶のある羽根が、亜熱帯の太陽の光を反射して、美しく光った。


「私の自慢の翼でも到底届かないところから地上を眺めるのは…

 結構、愉快な経験でしたわ」


『あなたたちのその被膜の翼ではさらに無理ではなくて?』


セレステには、そう皮肉を言っているようにしか聞こえない。


『いや、だから挑発が過ぎるって!』


さすがに、バリアーダの面々にもその皮肉は伝わったようだ。

…セレステとしては、トカゲやドラゴンの表情を読み取ることはほぼできなかったけど、雰囲気からそう感じ取れた瞬間のことだった。


「ケイレスの副王殿ハ、相当勇ましい方と見エル。

 皆の衆、何を警戒スルカ。

 誠意を持った招待に応じぬハ、我らの恥にナルゾ」


昨日の謁見で聞いた、プライ・マハの声。

しかし、結構距離があるというのに、すぐそばで話しているかのように、はっきりと聞こえた。


「親父、マイクでも貸してやった?」


「そんなことないよ。

 多分…プライ・マハの術だろうな?伝音魔術の類とか?」


「そんなことで魔術を使う?」


「うん…まあ、それでもおかしくない…ヒトだよ」


その説明を聞いたノルガーが訝しそうな顔になるが、セレステはそれ以上言わなかった。

正直、フェリデリアで聞いたところ、アンテロには『神』という概念すらなかった。

アンテロと共存しているエイヴィアも似たような場合で、多分ここバリアーダも大差はないだろうと思えた。

だったら、『神』のない世界で、『神獣』だの『聖獣』だの、どう説明すればいいんだ。

ただ、不思議で秘密めいた存在にしておくしかないと、セレステは思った。

バリアーダ国内でも、それで押し通しているようだし。


「サア、皆の衆。

 何を恐レル。我らは招待された客ゾ。

 客には客の流儀というのがあるダロウ。

 進メ。朕もあの空飛ぶ大地が見てミタイ」


不自然なほどによく響くその声には、何か、抗えない権威が滲み出ているような気がした。

――とノルガーは感じていたが、そばにいるセレステは謁見の時と同じく、何も感じていないようだ。


「全く、鈍感なのか図々しいのか…」


「あ?何が?」


「なんでもないよ。

 そんなことより、行こうよ。

 先に行って、お迎えしなければ」


「おっと、そうだった」


先回りして訪問団を迎え入れるために、セレステとこちらに残っていた随行の面々は一足先にゲートをくぐってテンゲルに移動した。


              ***


「ようこそ、テンゲルへ。

 バリアーダの皆様、歓迎いたします」


ゲートをくぐった訪問団の前に、いつの間にかアリメカリセスが現れて歓迎の言葉を述べていた。


「ウワッ?」


 – ガタガタ


訪問団の後尾から、 違使たちの驚いたような声が上がった。

みんな驚いてそちらに視線を向けたら、これはどういうことか。

プライ・マハの輿が揺れて、担いでいたサラマたちが慌てふためいていた。


「プライ・マハ!ご無事デスカ!

 コレ!違使ドモ!マハに何をしてオル!

 死罪にされタイカ!」


隊列の最後尾。

輿の前に立っていた華麗な袍を纏ったドライカ(ドラゴン獣人)が、 違使―輿を担いでいるサラマたちに怒鳴りつけた。


「い、イイエ!

 決してそういうわけデハ!

 お輿が勝手ニー!」


屈強なサラマの違使たちが当惑している中、輿の中から、どこか慌てているようなプライ・マハの声が聞こえてきた。


「丞相。

 違使たちには非がナイ。

 朕が少シ、姿勢を崩したダケダ。

 くるしゅうナイ」


「ハ、ハア…」

 

その光景を見ていたセレステは、怪訝に思いながらも、訪問団の方に歩み寄りながら話しかけた。

誰かが処罰されたり、バリアーダの方で負い目だと感じたりして、せっかく気軽にテンゲルを楽しんでもらおうとしていたのに、余計なことで水を差されたくなかったからだ。

とにかく、休めて癒される休養観光地、という印象を崩されてはいけない。


「あ、皆さん、驚かれたようですね。

 すみません。彼女のことを予め説明しておくべきだったのに。

 紹介しましょう。

 ビカリ・アリメカリセス・テンゲリデです。

 彼女は私の家臣で、このテンゲルの航行管理を担当しています」


それを聞いた訪問団の中から、驚きの声が上がった。

どこからどう見てもこの世の者ではないのに、それを家臣だと?

輿を担いでいる違使たちはまた、輿がガタガタ震えているのを感じたが、何も言えない。

ただしっかりと、輿の担ぎ棒を握りしめるだけだった。


「初めての方は、驚くかもしれませんけどね。

 彼女は5次元…いや、私とは違う異世界の住民なのです。

 ちょっと不可解な行動を見せても、ご理解をお願いします」


あれが女性だったのか、という気持ちと共に、この異国の貴族は一体何を抱えているのかという危惧が、バリアーダの面々の間に広まって行った。

特に、プライ・マハは…


『な、なんで、どうして!

 アリメカリセス伯母様が、あんな姿でここにいる!

 あの巨大で、怖いお方が!なんだあの恭しい態度は!

 …そういえば昨日、あの者…いや、あのお方に『マイロード』と…

 そ、それでか?本当にあのお方に臣従していらっしゃる!?』


臣下たちとは全く違う理由で、震え上がっていた。

そんなプライ・マハの考えなど知るよしもないセレステは—


「アリメカリセス。プライ・マハに挨拶を申し上げなければな?」


「わかりました、マイロード」


『いやあああああ!まじでやめろ!』


あの恐怖の対象でしかない叔母様が、目の前にあんな姿で現れているだけで生きた心地がしないのに、挨拶などしていられるはずがない。

だからと言って、拒んだりもできない。

何か理由でもつけたら、『余計なことを口にした』と言ってこちらが消される。

完全に詰んで、パニックに陥っていた彼の脳裏に、野太い男の声が響いた。


『落ち着け。消されたくないなら静かにしろ。

 黙って、初めて会うように演技するんだ』


『ダ、ダルカルヌピカ叔父様?』


『いいか。

 お前がここでミスったら、昨日以上に厄介なことになる。

 また我ら八姉弟が総出で調整することになったら…

 その時は、ただ消されるぐらいでは済まないぞ。

 わかったか?』


プライ・マハがその声に応える前に、アリメカリセスはもう、セレステと一緒に輿の前まで肉薄していた。


「プライ・マハに拝謁の栄を賜り、恐悦至極に存じます。

 お初にお目にかかる栄光を、至福に思います。

 レギス・バシ・オオテル・セレステが家臣

 フェリデリアのビカリ・アリメカリセス・テンゲリデでございます。

 バリアーダと我がフェリデリアが、末長く平和にありますように」


深々と頭を下げながら、丁重に挨拶を申し上げるアリメカリセス。

しかし、その実は…


『何をしている。答えろ』


プライ・マハの頭の中から、叔父が促している。


「相分かった。

 貴殿と貴殿の主、貴殿の国とは、朕もよい関係を保ちとう思うぞ。

 苦しゅうない」


生きた心地がしないけど、なんとか平然を装って答えられた。

プライ・マハはそう思いながら、心の中でため息をついていた。


「さて、訪問団の皆様の視察だが。

 通訳する人員が、ちょっと足りない気が…」


昨日、使節団が降りた時には纏まった人員で動いていたので、通訳も集団単位でついていれば十分だったけど、今日は少し違う。

テンゲル中を自由に見回って欲しいわけだから、それぞれ案内や通訳が要るわけだがーー


「マイロード、その点はご心配なく」


「うん?何かいい…うわああ、なんだ君は!」


耳元に聞こえる誰かの野太い声に思わず答えていたセレステは、その声の主人に気づいて驚いて声を上げてしまった。


…その声は、セレステの左肩に乗っている、一羽の小鳥が発したものだった。

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