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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
いざ行かん、新世界
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入国寸前

また、ものすごく遅くなってしまいました。

もうしわけございません!

カンガルーの名前に関する、都市伝説がある。

ジェームズ・クックがオーストラリアの先住民に「あれはなんだ」と聞いた時、先住民が「私もしらない」という意味で「ガングルー」と答えたのを、クックが動物の名前だと勝手に誤解した…と伝わっているが、その実は「あなたが何を言っているのか、さっぱりわからん」という意味で「わからん」と答えたのが「ガングルー」だったとかなんとか……


「カンガルーではあるまいし…名前が『アレ』だなんて、あり?」


なんの冗談にしか聞こえないその命名に、セレステは思わずブツクサ言ってしまった。


「マイロード、その考え方にはいささか問題があります。

 古のトゥシタ人は、『アレ』を巨大で強力な、怖い生き物と認識していました。

 それゆえ、忌みことばとして「あれ」としか呼んでいなかったのが、怖い存在と思わなくなった今でも、名前として定着してしまったのです」


それぐらい怖いのが飛んでいる空を、ドローンで降りていくところだったのか。

それを考えると、背筋に寒気が走った。


「ちなみに、カンガルーに関するあの都市伝説はどれもデマで、先住民はちゃんと動物の名前を答えていて、クックも滑稽な誤解など、していなかったといいます」


「…なーんてな。

 いや、より一層ややこしくなったじゃん!」


セレステはバカな話だと呆れていたが、そばで聞いていたナデントは、案外興味津々な顔をしていた。


「ほおお…そうか。

 外国の動物だから、おかしい名前だとばかり思っていたが…」


「え?知りませんでした?」


「はい。動物の名前に由来があるなどと、普通は考えませんから」


「あ…それもそうか。

 でもアリメのいうことだし…」


「もちろん、信じますよ」


5次元の非線形的時間の住民であるアリメカリセスのことを、「21世紀日本人の天城」としては色々と理屈をこねてしまうから「そんなのあり?」と疑うようになる。

だが、むしろ次元の概念がまだ定着していないトゥシタのヒトとしては「上位世界の存在」と一度受け入れてしまうと、別に懸念は持たないようになるみたいだった。


…そんな「上位世界の存在」に「マイロード」と呼ばれ、思うがままに使役しているというのが、自分の「未知なる恐怖」要素を裏付け、強化していることを、張本人のセレステだけが気づいていない。


「とにかくあいつ、危険な生き物なのでは?」


「それが、こちらから刺激しない限り、襲ってきたりはしないそうです。

 呑気な性格というか、ヒトなど、食料としては取るに足らないと思うのか…」


なんかぞっとするような話を、淡々と言うナデントに、セレステはドン引きしてしまった。


「え、じゃ巨体のナクマよりドローンで刺激せずそっと降りた方が…」


「いや、ドローンの大きさならむしろ、獲物だと思われるでしょうね?

 デュエマ6機編隊で行った方が、威嚇になって襲ってこないかと思います」


「え…」


象やクジラなど、地球の大型動物もわざと刺激しない限り、人間を攻撃したりはしないのと似た様なことかな…とは思ったけど、中途半端な大きさならむしろ獲物として見られるのか…と思っていたところ、アリメカリセスがナデントの話に相槌を打った。


「ナデント様のおっしゃる通りです。

 ですから、2機以上のデュエマで『敵わない相手だ』と思わせるのがいいでしょう」


「もしかしてさ…

 陸路で行けば済むことだったのでは?」


セレステがそんな不満を言ってみたが、またもやナデントに否定された。


「確かに、陸路で行けばアレを刺激しないかもしれませんが…

 その代わり、険しい道や、風土病、野獣、虫…

 ああ、外交官時代に何回か行ってみた道ですけど、今になっては思い出したくもない。

 本当に助かりますよ、テンゲルで安楽な旅ができて」


そういうナデントの顔に、嘘や誇張は全然感じられなかった。

…だからこそ、ただホテルに泊まって、スパで休養するだけのスプラ・ヌベスがこんなに繁盛しているのも、そんな陸路での苦労を経験せず、安楽な旅ができる、現在では唯一の手段だからだったということを、今更ながら思い知ったのだ。

そして、騎獣やサス車を利用した陸路か、船旅しか移動手段がない世界だから、北のケイレスから西南のバリアーダに使節を送るなど、並大抵の覚悟では成しえぬことだったから、テンゲルという千載一遇の機会を、オデットリネ女王は逃すまいと利用したのだ。


「ま、まあ…それは確かに大変ですね…」


地球での旅行も、『便利な交通網、石灰分のなどの汚染物質のない綺麗な水道水、毎日ベッドのシーツが交換される宿、腹を壊す心配のない安全な食べ物』が保証できない地域には行かないと決めているセレステ…日本人の天城としては、風土病や熱帯地方の虫などは、想像したくもない、身の毛のよだつ要素の数々だった。

いや、ただ潔癖症とかそういう問題ではなく、地球ですら熱帯の風土病には気を付けなければならないのに、異世界の風土病にかかったらどう対処すればいいか、全くわからないからだ。


「シルバーのヤブ医者でもいてくれたらの話だけどね…

 とにかく、なるべく安全に振舞うしかないな」


まったく信頼していなかった医者の友達の彼を、今日この瞬間ほど切実に必要と思ったことはないと実感しながらも、とりあえずは今やるべきことに集中することにした。


「とにかくだ、アリメ。国境まで後どれほど残っている?」


「はい。あと10㎞…1万アシェぐらいで国境に接触します」


「じゃ、一旦ここでテンゲルを止めてくれ。

 こちらからは国境関所や城壁は見えないけど、向こうからはテンゲルが確認されているんだろうな。

 オディーリネ殿下に、ケイレス使節団の信任状の提示を準備してもらわなければ」


ケイレス入国時はケイレス大使からもらった信任状を提示するだけで済んだが、今回は2国の使節団が同行しているわけだから、それぞれ別に確認してもらわないと密入国になる。


ケイレスの使節団にその由を伝えて、ホテルのVIP応接室で待っていたら、しばらくしてオディーリネ副王が自らやって来た。


「これはこれは、副王殿下御自ら。

 外務大臣殿にお任せでもよかったのでは?」


「あれはまだ、貴方のことを恐れていてね。

 それに、入国交渉に行くんでしょう?

 私も連れて行って」


もちろん、ケイレスの信任状だけを借りて行くのも外交のプロトコール的にまずいと思ったから、誰か代表者格を同行させる気ではあったが、まさか副王自らが同行するとは思ってもいなかったセレステも、さすがのナデントも少しは戸惑っていた。


「なにも、副王殿下御自ら行かれる必要は…」


「貴方たちは誰が行くの?」


「団長のレギス・セレステが向かいます」


「じゃ、こちらも団長の私が行くけど、問題でも?」

 

「それが、レギスと副王とでは身分の差が…

 そして私だったら、何かあった場合ゲートですぐ退けますし」


「あら、私にくださったこのネックレスのこと、お忘れで?

 それに私なら飛んで逃げることもできますってよ」


なんとか止めてみようとしたセレステだったが、悉くやぶられていた。


「確かに…殿下のおっしゃる通りではありますな。

 普通はムア殿が代行するべきでしょうけど、彼をレギス・セレステに同行させるのはまだ無理のようですし」


「…まったく、あのヒトはなんで私を恐れるのかな…」


ぶつぶつ愚痴をいうセレステを、ナデントとオディーリネが呆れたような目で見つめた。


              ***


「座席の乗り心地は、いかがですかな?

 オディーリネ殿下」


「私なら落ちても問題ないから、手のひらでいいといったのに」


アレ対策でデュエマ、しかも6機編隊で行くことにしたところ、万が一の場合乗客用のゴンドラも危険かもしれないという判断で、オディーリネはセレステのハーヤ・ナクマに同乗することになった。

自分で飛べることもあって、高空の風を楽しみたかったのか、手のひらに乗せて欲しいと言っていた彼女だったが、いくらなんでもそうはいかない。

危険要素がないところならまだしも、あんな巨大生物が飛んでいる空に、丸腰の彼女を露出させるわけにはいかないからだ 。


「ご冗談を。あなたの御身に何かあったら国際問題です。

 ルパシドの大男も問題なく座っていた補助座席ですから狭くはないんでしょうけど…

 とにかく補助の座席だから座り心地はご勘弁を」


「ええ、問題なくってよ」


テンゲルからと発進した後は、5機の随伴機と共にの傘型隊形を組んで飛ぶことになっている。

平常時はセレステのハーヤ・ナクマが先頭を飛ぶが、今回はいわゆる作戦行動で、要人警護目的もあるから、セレステ機は最後尾の3機の真ん中に位置して、他の5機に保護される隊形を取ることになっていた。


「繁殖期で神経が逆立っていない限り、あちらから攻撃してきたりはしないとのことですけどね…

 とにかく、事なきを祈りましょうね」


まだコクピットハッチを開いたままだったから、デッキで二人の様子を見ていたナデントが、不謹慎なことを口にした。


「でも、デュエマの力ならあまり怯えなくてもいいのでは?

 バリアーダの国境直前でのアレの狩りも…一興と思いませんか?」


「いやいや、友好使節でしょう!

 入国もする前にそんな荒いこと、しませんよ!

 …というか、あちらの国境地帯は大丈夫かな?

 あんなのが飛んでいるのに…」


「縄張りとかの問題でしょう?」


オディーリネの言葉に、なるほど、と思いながらセレステが言い続けた。


「とにかく、あれ…アレが襲ってきたら、できる限り安全を確保するように行動します。

 私ひとりでならともかく、今回はオディーリネ殿下も御同行中だから」


「あら、少し危ないぐらいが面白い…」


とんでもないことを言おうとするオディーリネだったが、セレステは聞かなかったフリをしながらヤルデマラセナに話しかけた。


「なあ、万が一の場合私がドジを踏んでも、お前が何とかしてくれるんだよな?」


*お任せください。何かあっても、このヤルデマラセナがお二人をお守りします。

 …なんなら、ハーヤ・ナクマ単独であれを撃墜することもできますけど?*


「だから、向こうであれをどう扱っているのかもまだわからないから、余計なことはやめろ。

 保護種とか、敬う対象だったらどうする。

 最大で威嚇して追い払うぐらいだ。

 随伴機の皆にも周知させておけ」


*わかりました*


そうしてヤルデを通じて6機全部で方針を共有したデュエマ編隊は、次々とテンゲルから発進して、空中で傘型編隊を組んだ。


「皆、準備はいいか?

 スピードはヤルデが合わせてくれるけど、隊形を崩さないように気を付けるんだ。

 なにより、他国での編隊飛行は初めてだからな。

 まあ、別に問題はないけど、格好いい所、見せようではないか?」


「「「「「は!閣下!」」」」」


セレステが通信を開いて軽く檄を飛ばし、5人の部下の声が見事に重なる。

6機のデュエマは、隊形を組んで国境地帯へと飛んで行った。

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