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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
いざ行かん、新世界
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女王の友

ホールに戻って来たセレステとムアを目撃したホールの皆は、ゲッソリとやつれたムアの顔をみてざわついた。

ゲートでどこかに行っていた二人の間に、いったい何があってあんな姿になったのかが気になって気になってならなかったけど、それを聞いてみるほど命知らずな者はなかった。


そんなムアを、彼の取り巻きの貴族たちに渡して戻って来たセレステに、ナデントが無心に問いかけた。


「上手くいきましたか?」


そんな彼に、セレステもまた、事も無げに答えた。


「上手くもなにも、別段なにもなかったんですよ。

 少し現実ってやつをわからせてやって、アリメカリセスに引き合わせてやったら、はい」


「…それは『少し』とは言えない気がしますけどね?」


セレステはナデントに対して、結構強硬手段を使いそうな印象を持っていたが、そういうナデントこそ今日このセレステを見て、脅し外交に才能があるのでは、と思い始めていた。


「…なんか失礼なこと思ってません?」


「いえ、これからも外交の出張に是非ご同行を願おうか、と思いまして」


そういいながらニヤリと不敵に笑うナデントに、セレステが言い捨てた。


「遠慮させていただきますよー」


と軽くいなそうとはしたものの、この後西南の国、バリアーダに同行しなければならないわけだし、これからもテンゲルでの移動はそう軽くはできなくても、長距離移動にはヤンサのゴンドラでも借り出すわけになりそうなので、遠慮ばかりしてはいられない。


「…いっそ、飛行機でも作っちゃおうか」


と、またとんでもないことを言ってみるセレステだったが、自動車もまだ普及の途上にあるこの世界で、さすがにそこまでは無理がありすぎると、自分でも悟っていた。


「そういえば、副王殿下と宰相殿は?」


パーティーのVIPである彼女たちの姿が見えないのが気になったセレステが、ナデントに彼女たちの行方を聞いた。


「さっき、王父卿がムア殿と密会に行かれた直後、あのお二人も女王陛下に呼ばれてどこかに行かれましたよ」


「気色悪い話はやめてもらえません?」


ぞっと身震いしながらそう言っていると、ホールの入口の方から騒がしい声が聞こえてきた。


「お戻りの様ですな」


ナデントの言う通り、女王姉妹とイラガンデ宰相がホールに戻ってくるのが見えた。

しかし、彼女たちが向かう方向が気になる。


「…え、こちらに向かってくるようですけど?」


「そうですねえ」


なんか含みのあるナデントの言い方が気になったが、それを問いただす暇もなく、女王一行はセレステの前に到達してしまった。


「御機嫌よう、レギス・バシ・オーテル・セレステ・パール」


「女王陛下方に置かれましては、ご機嫌麗しゅうございますでしょうか」


「ええ、よしなに。

 貴公もご健勝のようで、なによりです。

 …わらわは、貴公に感謝の儀を伝えねばなりません」


「いや、私はなにも…」


と、女王の前でもとぼけようとしていたセレステだが、女王の後ろでニヤリと笑っているオディリーネ姫と目が合って、背筋に寒気が走るのを感じた。


「あら…であれば、わらわのような小娘の感謝など、受け取るに足りぬとでも?

 今日お受けしましたネックレスへの答礼を、と思ったところですけど」


「あ…

 ははあ。そのことでございましたら、ほんの取るに足りない代物でございますゆえ」


大した物ではないから、王からの答礼のような、身に余る物は受け入れられないと言おうとしたが、女王はそうは許してくれなかった。


「なら、わらわはその取るに足りない物に喜ぶような、物の価値も分からぬ小娘になりますけど…

 それでよろしいか?」


…完全に詰んだ。

何か面倒なことになる気がして、大したものではないと惚ける気でいたのだがーー

(実際、地球では安物の人造ジュエリーを買って来て、こちらで本物の貴金属へと変換、複製したものに過ぎないから、「地球人の天城」にとっては、価値のあるものとは到底言えない。)

だからといって「安物ですからお気になさらず」などと言えば、他国の国王を侮辱することになる。


なんか逃げ道はないのかと思い、ナデントの方を見たら、彼は必死で無表情を装っているが肩で笑っている。


『お前もグルか!おのれぇぇ!覚えてろよ!!!!』


万事休す。ここは女王のペースに乗ってあげるしかないと悟ったセレステは、女王に深々と一礼しながら謝罪した。


「滅相もございません。私めの失言でございました」


「わかればよろしい。

 そんなそなたへの謝意のしるしとしてーー

 このオデットリネ・ファイカ・ドラ・ケイレス並びに

 副王、オディーリネ・チャイカ・ドラ・ケイレスの名において

 そなた、フェリデリアの王父卿、レギス・バシ・オーテル・セレステ・パール、マルク・テンゲル・パールにーー

 第二等大勲章と、「女王の友」の称号を授けんとする。

 あ、これは略式発表だから膝はつかずともよろしい」


厳粛な顔でなにかやたら長い称号を並べる女王の前で、『え、それ誰?』ととぼける隙すらキャッチできずに当惑していたセレステが、ニコリと微笑みを深めながら最後の一言を付け加える女王を見て『あ、やっと終わっ…ちょっと、なに?』と思った瞬間。


本当に、終わっていた。

何もかもが、だ。


「く…勲章…ですか?」


「ええ」


「いや、あれに価値がないとは申しませんが、勲章を頂くような物では…」


「わらわの勝手ぞ?」


 …気弱な小娘?


『誰がそんな寝言をいったんだ。出て来いやああ!』


ナデントの方をギロリと睨んだが、彼は既に後ろ向きになって、背中を小刻みに震わせていた。

あれで笑いを堪えているつもりだろうな、と歯軋みしながら、セレステは痛感するしかなかった。

穏やかで内向的な性格とはいえ、この女王陛下は間違いなくあのオディリーネ姫の双子に相違ないと。


「あの、辞退は…」


「「ゆるさぬ」」


最後の希望をかけて辞退しようとしてみたが、今度は双子の拒否が見事なまでに重なった。


誰か、反対でもしてくれないかと思って周辺を見回したが、無駄なことだった。

そもそもフェリデリアの貴族たちには干渉する権利などなく、ケイレスの貴族はといえば、女王姉妹とセレステの間になにがあったのかよくわかっているからなにも言えなかった。

勤王派は女王の決定に賛同していて、ムア派は今こそ黙っているのが身のためだと縮こまっている。中立派に至っては王室の悩みの種を鮮やかに解決してくれた彼に女王が謝意を示すのは当たり前だと、反対する理由を見出せず、沈黙を守っていた。


つまり、完全に『詰んだ』のだ。


『さっきほどのムア殿って、きっとこんな気持ちだったんだろうな…トホホ』


自ら追い込んだ敵手に、今度は同質感を覚えながら、セレステは力なく女王に返答した。


「謹んで承りましょうぞ」


「うむ。正式な授与式は勲章が出来上がる次第に行うゆえ、楽しみにしていたまえ」


女王姉妹は、にこやかに笑いながらそう言い残し、華やかな足取りでホールの他の場所へと離れていった。

彼女の御供として付き従っていたイラガンデは、どこか同情するような、寂しげな笑みでセレステに一礼しては彼女たちを追った。


そんな女王姉妹の後を追う者たちもいれば、セレステに祝いの言葉をかけてくる者たちもいる中、セレステはゆっくりと、ナデントの方へと視線を向けた。

…そんなセレステの首からは、まるで『ギギギギ』と、軋む音でも聞こえそうなほど、不穏な空気が漂っていた。


「どうも…感謝する…いえいえ、ありがとう………

 ナデント殿ぉぉ?」


「はひぃぃ…くくっ、くくく…なんでしょう…」


「…羨ましいですね?笑える立場のヒトは。

 いったいどういうことか、説明を要求しますよ?」


「いや、説明もなにも、女王陛下に一方的に宣言されたのは私も同じ立場ですよ?」


「止めることぐらい出来たでしょう!」


「いや、それがですね。

 今回のあなたの行動は、あくまでも『異世界人のセレステ』個人の行い、ということになっていますから。

 フェリデリアが介入したことでは『ない』となっていますからね。

 そこで、私は完全な部外者ですよ? 

 口出しなどできるものか」


「ああ、さいですかぁ~

 でもいざという時には、『女王の友』の威光を『使いまくらせていただく』気満々でしょう?」


「使えるものは使わなくては」


「ああ、そう…

 だったらね、いつか私が外国でなにかやらかした際は…

 後始末、全部お任せしますからね?

 派手にやらせていただきますよ?」


「あなたに派手にやっていただいて、その国が残っていたらですね、

 はい、善処します」


「いや、人のことをまるで大災難のように言わないでもらえます?」


二人はまるで他愛のやり取りのように、軽い気持ちで言い争っていたが、周りのヒトたちには、相当物騒な話に聞こえているということを…


…ナデントだけが、気づいていた。


そして、そんな戦略兵器レベルの存在を同伴して外交に臨んでいることを、この上ない喜びと噛み締めていた。


「ま、お遊びはほどほどにしてですね」


「遊びじゃないし!」


「はいはい。

 ちょっと、場所を変えましょう」


と言ったナデントは、セレステの腕を引いてホールの隅に移動した。


「何ですか?ゲートで移動します?」


「いや、そんな目立つことはやめましょう。

 ちょっと、人気のない片隅でいいから」


わざと周囲に聞こえるようにそう言いながら移動するナデントに、周りの貴族たちは知らず知らずのうちに道を開け、二人から距離を取ってくれた。おそらく、それもエチケットの一環なのだろう。


「で、なんですか?」


流石のセレステも、いつまでもぶつぶつ不満を垂らしてはいられない。

ナデントに何か重要な用件があると察して、声を潜めて問いかけた。


「他ではなくてですね…

 あれのことです」


ナデントが指した先には、力なく壁沿いのベンチに座り込んでいる、ムアの姿があった。


「適当に脅して欲しかったのは事実だけど…

 いったい何をしたんですか?あそこまで壊して」


「いや、人聞きの悪いことを。

 ただ、『余計な真似をしたらテンゲルがちょっと本気を出して飛ぶ』としか?」


「本気を出して飛ぶって…

 例のソニックブームとかいうあれですか?」


「はい」


それを聞いたナデントが、訝しげな顔をした。


「…案外、打たれ弱かった?」


「でしょう?

 でも、こうなったらあのまま放置するのもかわいそうだし…

 今度はあなたの番ですよ、ナデント殿?

 後始末、してくれると言ったでしょう?」


「早速ですか…

 でも、言われてみればそれもそうですね…

 これ以上、あなたに任せたら完全に再起不能に追い込んでしまいそうですし」


「だから、人聞きの悪いことを!」


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