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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
いざ行かん、新世界
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ちょっと本気を出せば

更新が半日以上も遅れてしまいました。

読者の皆様に、申し訳ございません!

その日の夜。

先日の使節団歓迎パーティーへの答礼を兼ねて、テンゲルの紹介レセプションを開いて、スプラ・ヌベスに滞在していたフェリデリアの貴族たちとケイレスの貴族たちの交流会をテンゲルで、と思っていたのが、ひょんなことからオディーリネ姫の副王即位の祝宴をも兼ねる事になってしまっていた。


もちろんケイレス王室の正式祝宴は日を改めて別に開かれるんだろうけど、物好きな貴族たちにとっては…まあ、いい機会だったのだ。


『空飛ぶ大地』というのは、アンテロにとって不思議で心躍る体験になるのは当たり前だったが、意外なことに、空を自分の領域と考えるエイヴィアにとってもテンゲルは驚異の場所だった。

彼らの飛ぶ一般的な高度は200アシェ以内で、気流に乗って長距離飛行をする時ぐらいに1500アシェまで上がってくるのだが、今テンゲルが飛んでいる高度は上空2000アシェだった。

自分で飛べる種族であるエイヴィアにとっても、恐怖と興奮を同時に感じる高度だったのだ。  


だから、エイヴィアたちは経験したことのない高度に感嘆していて、フェリデリアのアンテロたちはフェリデリアではあまり見かけない、エイヴィアに興味津々だったのでパーティーの雰囲気は結構盛り上がっていた。


「もう、ずるいと思わない?こんなので私たちの頭上を取るなんて」


「ひめ…じゃなくて、副王殿下!」


「まあ、別に頭上を取ったりする気はありませんからご安心を。

 友好国ですからね?」


今日の大事件の立役者3人―セレステ、オディーリネ、イラガンデが、そう冗談めかして話し合っている周辺には、セレステに話しかけてみる機会を狙いながらも、副王の前で控えていて接近できずにいるケイレスの貴族たちがいた。ムアが気づいたことに、少し遅れてではあるが彼らも気づいたのだ。

あの不思議な異世界人、セレステは女王に肩入れすると意思表明をした。

そしてそれは、彼が今所属している国であり、南の大国であるフェリデリアが、内政干渉と取られない範囲で、女王の統治を支持しているといっているのも同然だということだ。

王位を狙っていたムアの企みは、今ではほぼその可能性を挫かれて、ムアの派閥だった連中も、女王姉妹の顔色を伺うようになっていたのだ。


そんな雰囲気の中、新しく即位した副王と、女王姉妹の腹心である宰相イラガンデ、そして今日の大変化をもたらした不思議な存在、セレステの周りに近づこうとしないほうがおかしいだろう。


いや、実際にはたった一人、そんなみんなとは浮いて、一人何も言わず、憤りを抑えている男の姿があった。その日、副王宣言の場にいた貴族全員がこのパーティーに参加したというのに、内務大臣の自分だけ参加しないというのは逆心を顕にするも同然のことだから仕方なく参席してはいるものの、ことを起こす前に惨敗を喫してしまった彼にとって、快い気分ではいられるはずもなかったのだ。


派閥の者たちもそんな彼の顔色を伺いながらも、セレステの周りをウヨウヨしている中、彼に屈辱を味わわせてくれた張本人のセレステが、今更気づいたかのように、ヒトだかりから少し離れていた彼に声をかけてきた。


「おや、そこにいるのは内務大臣殿ではないか。

 ちょうどよかった。貴殿と折り入っての話がしたいがな」


その時、セレステと彼の間にいたヒトだかりが、二人の間に道を開けてくれるかのように、引き潮のように別れた。ムアにとっては全く余計なお世話だったけど、周りの貴族にとってはいい興味の的になっていたのだ。


「これはこれは。

 セレステ閣下御自ら、こんな格下の者にご用件とは。

 身に余る光栄ですな」


昨日の侮辱を忘れていないという、精一杯の皮肉なんだけど、力がこもっていない。


「いや、何をいうか。

 宰相殿との挨拶はもう済んだわけだし、内務大臣である貴殿とも交わしたい話があってな。

 少々、我が執務室までご同行願えるか?」


そう言いながら、セレステが例のゲートを呼び出した。

これはもう、同行の『願い』ではない、『強要』に近い行動なのだが、それだけに拒めるはずもない。


「…わかりました」


せめて自らの意志で同行したと周りに見せたいのが、ムアに残された最後の自尊心だった。




ゲートを潜ったあと、ムアに座ることを勧めたセレステが机の上にある何かをいじるかと思ったら、すかさず誰かが扉を開いて入ってきた。


「お館様、お戻りでしたか」


セレスての執事らしきルパシドの若者が、部屋に入ってきて礼をするのを見たムアは、瞬間的に違和感を覚えた。


『お戻り?』


「ああ、ちょっと、お客様と静かに話したくてな。

 お茶…いや、紅茶を準備してくれ」


「わかりました」


こともなげに、礼儀正しく振る舞う執事が出て行った後、ムアは恐る恐る口を開いた。


「お戻りとは、まさかここは…」


そんなムアに、セレステがケロッと返答した。


「もう気づいたか?

 そうだ。ここはフェリデリアの、私の本邸だ」


驚くとか、勝手な行動に怒る余裕すらない。

あの一瞬にして国家を跨いで移動してしまった目の前の相手に、恐怖しか感じていない。

同時に、女王姉妹に献上したあのネックレスはただの脅しではないという現実を突きつけられたも同然だった。


「余計なことは考えるな、という警告か」


「…さすが、察しがいいな。

 まあ、話が早くていいことだ」


セレステの本陣に連れ込まれてなお敵意を隠さなくなったムアだが、セレステはそれを全然気にしていない。

むしろ、そう来なかったら面白くない、と思っているほどだった。


「なぜだ」


「何が?」


「何故、あの小娘たちにここまで肩入れするかと聞いている」


吐き捨てるように言い出すムアに、セレステが何か奇妙な話を聞いたかのような、哀れなものを見るような顔になって答えた。


「…いくらなんでもイラガンデ宰相に小娘はないんじゃない?」


「惚けるな!」


苛立ったムアに対して、セレステは余裕満々な態度を崩さなかった。

それだけか、お茶を淹れる準備をして入ってきた執事さえ、ムアのことなど眼中にないかのように、優雅な所作でお茶を出しては、恭しく一例して部屋から出ていくだけだった。


「惚けるも何も、君、本当にそう思っているんだろう?

 イラガンデ宰相が自分より年下だと、小娘とか思っているだろう」


自分の本陣だから本性を現したか、もう『貴殿』とすら呼んでいないセレステに、ムアは奇妙な苛立ちを覚えたが、自分だってもう、敬語など気にしている場合ではなかった。


「あれは……先王ご存命の折、私の下にいた者に過ぎん。

 確かに有能ではあったが、先王が自らの最期を予感されたのか、晩年になって突如、娘を頼むなどと言い出し、奴を摂政宰相へと抜擢されたのだ。

 当時内務大臣であった、この私を差し置いてな!」


「いや、それは君が野心丸出しだったからだろう」


「悪いか?」


「いや、野心を持つのは大いに結構なんだけどよ…

 男にはね、誇りに思っていても丸出しにしてはいけないものがいくつかあるんだよ?

 野心とか、ち〇…」


「下郎め!口を慎め!」


いきなり品のない、低俗な言葉を口にしようとするセレステに、ムアの方が大慌てで叫び出した。


「…コンプレックスかな?まあ、いい。

 とにかくだ。野心というのは、いざという時が来る前までには、仕舞っておくものだよ?

 まあ、君の場合、露わにしてくれたおかげで事前に抑えられたけどね。

 あ、あれか。変態が露出症で検挙され、本番にまでたどり着けなかったような」


「何を言っているかはわからないが、私を侮辱しているということだけははっきりわかるな。

 それで?ケイレスの手の届かないところで、私を始末するために連れてきたのか?

 でなければ、ここで牢屋にでも閉じ込める気か?」


今度は、困った奴でも見るかのような目で見られ、ムアはさらにムッとなった。


「君さあ…なんか勘違いしていない?

 今の時点で、君はなんの罪も犯しちゃいないよ?

 それに、謀反を『想像しただけ』だから、ケイレスでも罪には問われないだろうし。

 実際に謀反を起こしたって、それはケイレスの事情だし、私の知ったことではない」


「な…」


とんでもないセレステの答えに、ムアは当惑を超え、荒唐無稽を感じてしまった。


「だ、だったら何故介入した!」


「君が謀反を起こした、その後が面倒臭いからだよ。

 正統性の乏しいものが謀反で政権を手に入れたら…その後はどうなると思う?

 内乱の泥沼になるんだよ。

 その混乱から逃れようと、逃げ出す難民は一体どこに向かうだろう?

 それに、仮に内乱までには行かなくてもな、普通そんな場合、不満を外に逸らそうと画策する奴らの常套手段は、決まって侵略戦争なんだ。

 隣国の富と土地をお前らに分けてやろう…などと御託を並べやがってな」


「それは…」


正直、その指摘はあまりにも正鵠を射ていた。

ムア自身、心のどこかで気づいていたことなのだ。

ゆえに、切れ者だと自負していた彼としても、ぐうの音も出なかった。


「それにだ…

 仮に君に正統性が確保できたとか、内乱が起こらずに済んだとしても…

 その山脈に閉じ込められた北の土地だけで、満足する気はないだろう?」


「…」


「その沈黙、肯定と受け取ろう。

 拡張戦争などに打って出れば、必ずこのフェリデリアと衝突することになる。

 私がいなかったらそうなるだろうけどな……

 私がこの国にいる限り、そうはさせない」


「何をどうする気だ?」


「…私のハーヤ・ナクマ、君も見ただろう?

 私のテンゲルには、今あれが13機いる。

 フェリデリアに残っている、国王専用機とその随伴機の5機を除いてもだ。

 あれだけで、ケイレスの軍隊など、三日もあれば壊滅できるんだぞ?」


「ハッタリを…」


苦虫を噛み潰す気持ちでそう吐き捨てたが、セレステはそれさえ許さなかった。


「ああ、そうだな。

 デュエマを出す必要すらない。

 今ウルバーサの近郊に滞空していて…

 女王姉妹と、そちらの貴族たちが乗っている私の領地のことなんだけどな。

 あれが『ちょっと本気を出して飛ぶ』だけで、ウルバーサは灰になるんだよ?

 ハッタリだと思うなら、試してみるか?

 乗っている女王と貴族たちが気づく暇もなく、だ。

 できるだろう?アリメカリセス?」


誰に向かっ言っているのかと訝しんだ瞬間、何もない虚空から、奇怪な人物が現れて、セレステに深く一礼し、恭しく答えた。


「イエス、マイロード。

 ご命令あらば、いつでも」


次々と目の前で突きつけられる人智を超えた事象の数々に、かろうじて正気を保っていられるだけでも、ムアの精神力は称賛に値するものであった。

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