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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
いざ行かん、新世界
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高飛車なおじさん

「まいったなー」


ケイレスの王城前の広場。

使節団を歓迎するために出ていた歓迎団の前に着陸したはいいが、セレステは操縦席のスクリーンでその歓迎団をズームしてみて、迷いを感じていた。


「…アンテロ以上に、男女の区別ができない!!!」


アンテロの場合、体形の差とか、顔つきなどでなんとか男女の区別ができた。

アンテロの女性の場合、人間ほど過剰に発達してはいないけど、微かに『そうである』と気づけるぐらいは、増加装甲があるから、なんとなく区別ができた。

…だから、その増加装甲より大胸筋が発達している、ガーネサのような筋骨隆々な種族の場合、結構区別しにくくなるわけなんだが、エイヴィアはそれの斜め上を行っていた。


授乳をしない種族だから乳房も発達していないし、羽を支えるためか、フーラニ並みではなくても、大胸筋が発達している。

それに、基本的に空を飛ぶ種族ゆえ、スカートを穿かない。

地球の鳥類と似ている種族なら羽毛の色やパターンで区別できる場合もあるだろうけど…問題は、区別が難しい種族のエイヴィアもあるということだ。


特に、動揺している歓迎団を落ち着かせようと奔走している、あのアギュレ(大鷲)エイヴィアのヒトなど…


「あのヒトが、件の切れ者の女宰相でしょうか?」


「そうです。

 …女には見えない、ということでしょうね?」


今回の先発隊はゴンドラではなくデュエマだけで降りてきたので、ナデントが補助シートに座っていた。


「…恥ずかしいことですが、はい」


「いや、別に恥じることなどありません。

 我らアンテロも、よくエイヴィアやラプティ(爬虫類獣人)の性別を間違えますから」


ラプティはまたなんだ、と訝しみながらも、セレステはナデントに聞き返した。


「…は?それ、場合によっては結構失礼なことでは…?」


「いいえ。相手をただの『人格体』として接するまでのことですからね。

 恋路にかかわる問題でもなければ、性別など、気にする理由もないでしょう?」


「あ」


もちろん、ガーネサの時のように性別を間違えて困ることが全くないわけではないが、それはあくまでも近縁種族同士のことで、アンテロとエイヴィアのような、まったく違う種族なら、しかもそれが仕事で関わる関係なら、性別を気にする必要などなかったのだ。


「そうか。いらない心配でしたね。

 では…私たちも降りてみましょうか。

 あちらも落ち着いたみたいですし」


歓迎団がそれなりに落ち着いたように見えて、セレステはもう降りて行ってもいいかと、ナデントに聞いてみた。機先を制するつもりでデュエマで降りてきたわけだが、混乱している最中で直接対面したら、相手に恥をかかせることになるから、隊列を立て直すまでは待ってあげるべきだと、事前に話し合っていたからだ。


「そうですね。頃合いだと思います。

 …素顔で行かれるんですね?」


「親衛隊長殿にあれだけガミガミ言われたからには…トホホ」


あのバイクヘルメットは結局脱いでから髪型を整えるのが大変とかという問題があって外交の本番では使えないものだったし、キツネ面はノルガ―にそれはそれはさんざん言われて、ナデントからも素顔を見せないのは礼儀上、問題になり得ると聞いてしぶしぶ諦めていたのだ。



そんなことなどわかるはずもないイラガンデ以下歓迎団のヒトたちは、目の前で跪いた6体の巨体の胸のところの蓋のようなものが開かれ、その中からヒトが出てくるのを見て、また騒ぎ出すところだった。


「皆静かに、あれは使節団だ」


アギュレならではの鋭い視力で、先頭のハーヤ・ナクマから出てきたのが面識のあるフェリデリアの外務大臣、ナデントとわかったイラガンデが、歓迎団の皆に落ち着くようにまた指示を出した。

あんな奇怪なものに乗って、これまでエイヴィアだけの領域だった空を飛んできたとなると…


「お初にお目にかかります。

 あなたが…レギス・バシ・オーテル・セレステ・パール、ですか」


ナデントと共に、あの怪物体の手に乗って地面に降りてきたーー情報にあった通りの、フーマニタ激似の異世界人で、使節団の名簿に団長と書いていた人物に、イラガンデが先に、丁重に話しかけた。その異世界人はイラガンデの挨拶に驚いたようだが、すぐ表情を変え、穏やかに笑みながら返答してきた。


「これはこれは、ご丁寧に。

 挨拶が遅くなりましたね。

 はい。私がレギス・バシ・オーテル・セレステ・パールです。

 栄光あることに、此度の使節団の任を拝命して参上いたしました」


諜報員から入って来た、この人物に関する諜報を、イラガンデはもう一度頭の中でまとめてみた。

本当に空飛ぶ大地で現れ、またそこから空飛ぶ怪物体に乗って舞い降りた。

信じられないと思ってた諜報の一部を、いま自分の目で確認できたのだ。

では、他の諜報も?


「ようこそ、ケイレスの王都、ウルバーサへ。

 この国の宰相として、あなた方を歓迎いたします。

 しかし…此度の使節団は、あなた方6名だけ…ですか?」


使節団にしては、異様なほどに少ない人数を訝しむ彼女に、セレステが変わらず穏やかに笑みながら答えた。


「ああ、これは失礼。

 全員で降りてくるためにはゲートを開く位置を確認する必要がありましてね。

 ちょっと、驚かせることになりますので、予めご了承をお願いします」


「ゲート?」


ゲートって、扉?関門?

目の前の奇妙な人物、レギス・セレステが何を言っているのか理解できないイラガンデの前で、セレステが言い続けた。


「いいんですか?

 ゲートを開きますので、皆さんあまり驚かないでください」


驚くなって、何をーーと思う歓迎団の前で、何もない空間に火花を散らす、巨大なアーチの様なのが現れ、その向こうに見知らぬ空間が見えてきた。


「はい、お待たせ!使節団の皆、おいでなさい!」


なんだか、使節団の団長という人物にして少し品の足りない気がしたが、イラガンデにそれを気にする余裕など、なかった。

何もない空間に開かれた、さっき聞いたあの『ゲート』なる…まさに、大きな扉ともいえるその空間の切れ目から、ぞろぞろと100人近くの、通常規模の使節団が出てきたからだ。


この、あり得ない現状を自分の目で目撃したイラガンデは、諜報員を疑っていた自分を呪っていた。

彼らは正確な情報を伝えてくれたのに、自分がそれを信じず、備えを怠ってしまったのではないか、と。


              ***


使節団が女王を謁見し、女王からの労いの言葉をいただいた後、謁見の間から出て大ホールに移動してそれぞれ面識のある相手と挨拶を交わしたり、さっそく業務に関わる詮索を始めていたが、セレステの周りにはまるで目に見えない柵でも張られているかのように、誰も近づいていなかった。


いや、怖くて接近できなかったというべきだろうか。


得体を知れないその存在に、恐怖を感じているのはイラガンデもまた同じ気持ちだったが、彼女としてはなんとしても、余計なやつに先を越される前に彼に近づく必要があった。


まさに今、セレステに近づいているあれー


『しまった!』


彼女が警戒していた相手。

女王を引きずり降ろそうと暗躍している派閥の首長であり、王家の遠い血縁者。

シュヴァンのエイヴィアでこの国の大貴族、コミス・ロートバル・ムア・パールが、ニヤニヤ笑いながら、セレステに近づいていた。


「お初にお目にかかります、レギス・セレステ。

 噂に違わぬその御威光、感心いたしましたぞ」


さも親しそうに話しかけるロートバルだったが、セレステはちらっと見るだけで、答えない。


「おお、これは失礼。

 申し遅れましたな。

 私はこの国の内務大臣、コミスー」


また話を付けてみようとする彼をガン無視して、セレステはまっすぐ、イラガンデの方に歩いてきた。


「貴殿がこの国の宰相、レギス・ファドラセナ・イラガンデ・メア殿だな?」


城門前で挨拶していたのに、いきなりさっきとは全く違う態度で、まるで初対面でもあるかのように話しかけられ、心の中では慌てていたが、イラガンデはそれを気づかれまいと必死で平常を装いながら、彼に合わせて返答した。


「お目にかかり、光栄です、レギス・セレステ。

 いかがー」


「この国では、同格の貴族同士の挨拶も終わっていないのに、格下の者が割って入ってもよしとしているのか?」


 ‐ドクン


イラガンデの心臓が、今にでも口から飛び出さんばかりに踊り出す。

それと同時に、場内が凍り付いたかのように、静寂に包まれる。


その場にいるケイレスの貴族全員が、これはどうなることか猛烈に頭を働かせている中、セレステが無心に続けた。


「…ああ、すまぬ。

 何分、私はこの世界では新参者なのでな。

 この国の礼法に疎かったかもしれぬな。

 皆の方、お気に召さらぬよう。

 宰相殿、謝りを兼ねて、折り入っての話がしたいが…

 場所を変えようではないか?」


「…!

 はい、喜んで。

 狭いところなので申し訳ありませんが、私の執務室でよろしいでしょうか」


「ああ、構わない。

 しかし、貴殿のような美人と二人きり…

 となると、要らない誤解を買ってしまうかもな」


さっきの剣幕はどこにやったのか、笑いながらそう煙に巻く彼に、場内の皆は呆気にとられながらも、状況把握を完了して、元の雰囲気に戻ろうとしていた。


「あら、それはいけませんね。

 じゃ、イラガンデ宰相の名誉のために、わたくしが同行してもよろしくて?」


ホールの入口の方から聞こえる声に皆の視線がそちらに向くと、そこには女王の双子の妹、黒鳥シュバーンのオディーリネ姫が面白そうな笑いを浮かべて立っていた。


「これはこれは、麗しの姫様。

 そうなさっていただけますと、末代までの光栄にございましょう。

 さあ、宰相殿。姫様のお言葉に甘えて、行ってみましょうか」


そういいながらぐいっと差し出したセレステの肘を、イラガンデがそっと掴んで、オディーリネ姫と合流した三人はホールを抜け出し、宰相の執務室へと歩み出した。


その意味を分からない者は、このホールにはいない。

気まずそうな笑いを浮かべているコミス・ムアを、ナデントがニヤリと笑いながら見つめていた。


              ***


宰相の執務室に入って、まずオディーリネ姫がソファに腰を掛け、二人にも座るようにと許した瞬間。


「ぶっはあああ~~~~」


どす、っとソファに腰を掛けたセレステが、大声で溜息をついた。


「な、なにを…」


いきなりの行動に驚くイラガンデの傍で、今度はオディーリネ姫が笑い転がった。


「ぷっ、きゃははははははは!」


「ひ、姫様?」


この二人は何をしているのか、慌てているイラガンデの前で、さっきとは全然違う雰囲気になったセレステが謝りだした。


「いやあ、すみませんね、宰相殿。

 心臓が、弾け飛ぶかと思いましたよ」


「あら、そういうことにしては、なかなかの高飛車ぶりじゃなかった?」


「いや、褒めてくださってもなにも出ませんよ姫様?

 …今すぐには」


「あら、今すぐじゃなかったら、何かいいものくれる?」


「うちのパティシエ…お菓子職人の新作スイーツはどうでしょう?」


「それ、いいじゃない!」


…この二人、初対面のはずなのになんでここまで気が合うのか…

ぼんやりと、そう思うイラガンデだった。

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