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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
いざ行かん、新世界
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寄り道三昧

フェリデリア王都を出発したテンゲルは、普段の航行速度より少し速度をあげて北上してきたが、ケイレスの国境を超えてからは高度を1500mまで下げ、速度も普段のクルーズモードより落として、ゆっくりと航行していた。


「相手にも到着の報告をする猶予ぐらいは必要でしょうし…」


「お客様方からも、せっかくの異国上空だから、もう少しゆっくりとご覧になりたいと」


セレステと、ホテルのマネージャーからの報告を聞いたラインバルトがそれぞれ言うと、外務大臣がニヤリと笑いながら返答した。


「いや、これ、速度をさらに落とすことはできませんか?」


「え?」


「せっかくの威力航行です。我らがテンゲルの威光をもっと長く…」


「威光というか、影しか落としていませんけど?

 地上に迷惑ですよ。威力航行もいいけど、それでは反感しか買えませんよ?」


テンゲルの制御室。

使節団の団長であるセレステと外務大臣コミス・ナデント、そしてラインバルトとアリメカリセスが、下の景色を床に投影して見下ろしながら話し合っていた。


…ラインバルトの場合、下を見ないようにそっぽを向いていたけど。


「しかし…実にいい気分ですな!

 隣国の領土を、我が足元に見下ろしたいという私の長年の夢が…

 見ろ!ヒトがごー」


「それ言っちゃダメ!完全に悪党のセリフ!」


あの危ないセリフ、しかも場違いなのを、このヒトは一体どこで聞いたのかな、と訝しみながら、セレステはアリメカリセスに聞いた。


「高度はともかく、今、航行速度は?」


「現在、時速40万アシェで飛んでいます」


「時速400kmか…本当に緩く飛んではいるけど…

相手さんのお迎え準備に、時間が足りなかったりはしないかな」


普通、地球の旅客機が時速800〜900kmで飛ぶから、本当に緩い飛行速度だった。


「このまま北上すると、あと3時間でケイレスの王都、ウルバーサに到着します」


「3時間か…低速航行中と言っても、結構かかるね。

 さっきあったマルク…ダン…ダン…

 とにかく、あの人から王都に連絡が入ると思うけどね…」


と、呑気に言っていたセレステは、ある事実を思い出した。


「待てよ…?

 外務大臣殿?普通、外交使節が陸路で移動していた時、さっきの国境要塞から王都まで、何日ぐらいかかっていましたか?」


「それですか?

 国土の4割ぐらいが山地のケイレスですから、移動にも結構時間がかかっていましたね。

 15日から20日ぐらい」


セレス手は、何かずれている気がした。


「それで?使節団がいつ到着するか、約束した日付に間に合えなかったりはしませんでしたか?」


「それはもちろん、旅路でのアクシデントは予測できないものですから、普通は国境通過時、王都に魔術で連絡しておいて、王都最寄の領地で最終連絡を入れて出発しますね」


「ああ、そんな形でお迎えの準備の時間を…

 ………

 いや、ではこのまま行っちゃダメでしょう!?」


「なぜですか?」


「あちらさんに、お迎えの準備をする時間がなすぎる!

 このまま行ったら、土足で人の寝室に入るようなことにー」


「ええ、まさにそれを狙って、相手を驚かせてやる算段ですが?」


平然とそう答えるナデントに、流石のセレステも固まってしまった。


『これはあかんやっちゃ!どこの黒船外交だよ!』


なんか、初印象ではヤ◯ザ外交をも厭わなさそうなヒトだと思っていたけど、これはそれのずっと斜め上を行く、◯リー提督…


「いや、待て、使節団長は私じゃないか!!!!!

 歴史に悪名を残すのも私!

 アリメ!減速だ!時速8万アシェまで!」


「わかりました」


足元を流れる下の景色が、だんだん減速しているが、減速による揺れなどは全く感じられない。

それだけテンゲルの慣性制御がすごいということだろうけど、今はそんなことで感心している場合ではない。


「外務大臣殿ぉぉぉ!勘弁してくださいよ!

 危うく、無礼極まりないことになるところだった!」


「承知の上だと思いましたけど?」


「いや、流石に威力航行までは同意しましたけどね?

 だからと言って、そこまで相手を困らせる気はさらさらありませんよ。

 少なくとも、1日ぐらいは時間をあげたほうがいいと思います。

 こちらとしてはまさにお散歩気分のゆる〜い旅行になりますけど、相手としては電撃戦そのものですから」


セレステの話を聞いていたナデントの顔が、不満そうな表情から、ニターと、不敵な笑いに変わった。


「だから、さっきそろそろ減速しましょうと言ったでしょう」


「は?」


呆気に取られたセレステに、ナデントがニヤニヤ笑いながら話し続けた。


「いやあ、宰相にですね?王父卿がいつ気づくか試してみよと。

 さすがレギス・セレステ。いいところで気づいてくださいましたね」


これはどういうことか。

少し混乱していたセレステが、落ち着いて考え出した結論は…


「あのくそジジイ!!!!!

 嵌めやがった!」


ニヤニヤと笑っていたナデントは、もうケラケラと笑いながら言った。


「いやあ、試すようなことをして、すみませんねぇ。

 でも、あなたを策士と認めている宰相から、外交の才もあるのか試してみよと言われたらつい、興味が湧いてしまってですね」


「いや、こんなの外交の才も何も、ただのエチケットでしょう!」


「いいえ、あなたがご自分の超常の力に酔いしれて、この世界の常識を顧みない危険性を、懸念してのことでした。

 ちゃんとこの世界の常識を考える方で、これからの舞台でも心配なさそうで、安心しました。

 いや、というか…

 もしかしたら私のことを、威力で何でもかんでも言うことを聞かせようとする、そんな暴力的な外交をするヒトとでも…?」


何か、あまりにも心外なことで傷ついた、とでもいいたそうなうるっとした顔になるナデントをギロっと睨みつけながら、セレステが言い捨てた。


「ええ、そう思いましたけど、なにか〜?

 ああ、あなたがダーハラトのやつだったら、もう殴り飛ばしていましたよ!」


「おっと、これから隣国の国王の御前というのに、顔だけはご勘弁を」


しばらく睨み合って、二人はどっと笑い合ってしまった。


「で、合格ですか?使節団の長として」


「はい。外交の細かいことは私に任せて、あなたは思う存分、その力の誇示を」


「力加減に気を付けての力の誇示、でしょう?

 矛盾だなぁ」


「その矛盾こそが、外交のコツですよ」


              ***


それからセレステはナデントと話し合い、少し方針を変えることにした。


「一日掛かろうが二日掛かろうが向こう側としては驚愕の速度なわけで…

 だったら、少し緩く進行しながら、それらしいところで、少しでもいいから休憩を挟みながら進行する、と言うのはどうでしょう?」


「それは?」


「途中の領主たちに、こちらの力をとくと見せてやるのですよ。

 『お金の威力』と言うのをね」


「ほう?」


ナデントが興味を示すのをキャッチしたセレステが、話し続けた。


「聞くに、私が初めて大臣会議に乱入した時議論していた借款のこと…

 この国からの打診だったようですね?

 あの時は拒絶という結論になったわけだが、それ即ち、この国は金欠で苦労しているということ。

 そんな所に、隣国の貴族の団体様が空から降りてきて、お金を使って去っていく…

 …美味しい話だと、考えざるを得ないでしょう?」


「ほほう。

 レギス・セレステ、あなたという方は…

 なかなかの悪ですな?」


目を光らせながら、どこか意地悪そうな顔でそういうナデントに、セレステはどこから出したものか、扇子で口元を隠しながら返答した。


「いやいや、あなたほどでも」


「ふふふふふ」


「ほほほほほ」


なんか、悪事でも働いているように笑いあう二人を見て、ラインバルトは考えた。


『お館様、あの奇妙な扇子はどこから持ち出されたんだろう』




それから、国境のダンテヒから王都に向かう途中で、それらしい領地があればテンゲルを止め、まずセレステが搭乗用ドローンで降りていってそこの領主と挨拶を交わし、短時間でも「観光」目的でテンゲルに乗っているフェリデリアの貴族たちを降りさせてもいいか、と問うことを何回か繰り返しながら道を進んでいた。

元々陸路で進む使節団だって、立ち寄る所の領主や代官と挨拶を交わし、泊まる時お金を使うのが普通ではあったけど、今回のはその、使うお金の単位が違う。

今回の外交使節団の件で、普通の使節団のことしか考えていなかった領主や代官たちにとって、数百人規模の外国の貴族が空から舞い降りて、地方特産品をお金を惜しまず買ってくれる、というのは、実に甘い思いになってくれた。


そこを逃さず、止めを刺すセレステの一言。


「いきなりやって来たのに、ご協力感謝します。

 今回の外交訪問がうまくいけば、定期航路を開設することもできるでしょうけどね。

 中央の方々はどうお考えなのか、それが…」


決定的なことは、決して言わず、焦らす。

こちらが定期航路になるなど、一言も言っていない。

ただ、『匂わせる』だけで十分。

後は、勝手に動くことに任せておく。


「『外堀から埋める』といいますけどね、トゥシタ式表現ではなんといいますかな?」


その悪辣な(?)手腕に感心するナデントに、セレステはこう言っていた。


***


「何?国境を越えたのが三日前なのに、もう王都最寄りのグラハネ領に着いている?

 しかも、隙あらば途中の領地によってお金を使いながら?」


「は、はい。

 そして、グラハネから届いた魔術通信ですが…

 『帰国への空の道は初めてでしたので、思った以上時間がかかってしまいました。

 お待たせして申し訳ありませんが、そろそろ王都に向かわせていただけますでしょうか?』

 ということでして…」


それ即ち、『少し遠回りで来たけど、歓迎の準備はまだ出来ていないか?』ということだと、通信文を手にしたケイレスの宰相は思った。


フェリデリアにいる大使からの正規報告と、情報員から手に入れた諜報で、あの異世界人のレギスと、その超常の力についての報告を聞いてはいたが、まさにここまでとんでもないことをしてくれるとは。

フェリデリアとの交流に賛成する派閥の宰相だったが、彼にとってもこれは予想外のことだった。

そして、昨日まで入ってきた情報によると、相手は反対する派閥への圧迫を試みるかのように、地方領地でお金を『使って』いるからー


「グラハネに魔術通信だ。

 『貴殿らの爽快な歩みに、こちらの歩みでは合わせられなかったこと、大変申し訳ないと存じます。

 お迎えの準備にまだ至らないところがあるゆえ、あと二日ぐらい、もう少し我が国の風光を楽しんでいただきたいと存じます』とな」


「はい」


指示された文官が魔術通信を送るために執務室から出たあと、疲れを感じて額を擦っていた宰相は、羽を伸ばした。


いや、比喩ではなく、文字通りの意味で。


ケイレスの宰相、レギス・ファドラセナ・イラガンデ・メア。

彼女は、大鷲のエイヴィアだった。


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