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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
いざ行かん、新世界
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Over the Wall

ケイレスの南端、国境線。

国境線とはいえ、南のフェリデリアとの間にはナウマ・サンダン大山脈を挟んでおり、その山脈が天然の国境にしてお互いの不可知地帯としているので、両国は直接国境を接しているわけではない。

険しい山脈である故、越えて往来できる地点がかなり限られ、関門はその地点に集中していると考えると違いない。

その関門の警備隊長は、中央から来た連絡に困惑していた。


「フェリデリアの使節団が『空から』来るので、迎えに失礼がないよう気をつけろ…って?

 何の冗談だよ。フェリデリアはアンテロの国だろう?

 エイヴィア(鳥人)でもないのに、空からくるなど…」


実のところ、山脈は結構高く、エイヴィアでも飛んで超えることは難しい。

外交使節団となるとなおのことだ。

グリズリーウルソートの警備隊長が詰所の自室でそう呟いていた所、ドアが慌ただしくノックされた。


「何だ?」


「た、大変です!早く、空を!」


「空?」


空から来るという連絡を気にしていたところに「空」と聞いた隊長は、すかさず外に出てきて南の空を見て…


そのまま固まってしまった。


              ***


「えーと、スプラ・ヌベスをご利用の皆様。

 本テンゲルはただいま、ナウマ・サンダン大山脈上空を航行しております。

 下にみえますのが…なんだっけ?」


セレステはマイクを片手に、まるで観光ガイドにでもなったかのような態度で船内…というか、島内放送をしていた。


「山脈主峰のエータ・ナウマ山です」


「アシストありがとうございます、外務大臣。

 エータ・ナウマ山、高度4500アシェでしたね。

 現在、テンゲルは上空5000アシェを飛んでおりますので、ご心配なく上空からの眺めを楽しんでいただけると幸いです」


現在、テンゲルの縁に設置されてある展望台には、リゾートに泊まっていた客たちがわらわらと、下の風景を楽しんでいた。

外交使節団として動いているというのに、なんでこんなことになったかというとー




「え?キャンセル率がほぼゼロ?」


使節団として動くことを客に通知し、キャンセルかスケジュール変更かの問い合わせを行っていたところのことだった。


「はい。普段のコースから離れて、隣国へ飛ぶと案内して、どうされますかとお聞きしましたけど、むしろそれがいいと…」


スプラ・ヌベスのマネージャーが、困ったような顔でそう報告していた。


「まったく、物好きなんだな」


「戻ろうとすると、いつでもゲートで戻れるわけだから、これはむしろいい機会だと…」


考えてみれば、国内旅行すら大変な世界で、険しい山脈を超えなければいけない隣国へ安楽なホテルで泊まっているだけで行ける、しかも空の旅なんだ。

厭うほうが、どうかしているといってもおかしくない。


「キャンセルどころか、追加予約ができないかのお問合せが殺到して…」


「さすがに、ケイレスとバリアーダのVIPのための空き部屋を用意しておかなければな」


「はい」


外交使節として移動しているのに、こんなに外野ががやがやしていてもいいのか、という気がしないわけではなかったが、どうせ両国との話がうまくいけば、客を乗せたまま三国の空を行き来することになる可能性もある…いや、結構高いから、予め慣れておくのもいいのでは、とセレステは思っていた。




―というわけで、テンゲルはまるで高空クルーズ船状態になっていたが、下の国境警備隊はそれどころではなかった。


「島が!島が空を飛んでいる!」


「なんなんだあれ!」


中央から連絡を受けている警備隊長も自分の目を信じられない状況なので、警備隊の兵士たちが混乱しているのも無理ではない。だからと言って、この混乱を放置してはいけない。


「狼狽えるな!あれはフェリデリアから来る、外交使節団の乗り物だ!」


「あ、あんなものがですか!?」


「一応、中央からの連絡ではそうなっていた。

 とにかく、領主様に伝令を!」


「私なら、来ているぞ!」


そんな叫びと共に階段を上って来たのは、セントバーナード・カニセイドでありこのダンテヒ領の領主、マルク・バスティネ・ダンテヒ・パールだった。


「領主様!お気づきでしたか!」


「今日到着すると聞いていたから、様子見に来ていたところだがな。

 『空から来る』と聞いてはいたが、まさか本当に島が飛んでくるなどと…」


「何の冗談かと思っていました」


「まったくだ」


二人がそんな会話を交わしている中、こちらに向かって飛んできていた空飛ぶ島‐テンゲルは、城壁から一千アシェ程離れたところで空中に止まり、徐々に降りてくるその威容はまさに『空を覆う』ような風景だった。


「何か、こちらに来ます!」


目のいい兵士の叫びに驚いた二人がよく見ると、テンゲルの方から何かが、こちらに飛んで来ているのが見えた。


「何だ、あれは?」


「さて…島が空を飛んでいる時点で、何が現れてもおかしくない気がしますが」


それもそうだな、とマルク・ダンテヒが思っている中、それは何か奇妙な振動音のような音を出しながら、城壁の手前、2アシェぐらいの空に止まっていた。何か十字の構造物の4つの枝の端には何か回転するのが付いていて、十字の構造物の中央には何か、奇妙な箱のようなものが載ってあった。


その箱の一面が上に向いて開かれると思ったら、その中から誰か、いや、何かが頭を出した。


「!!」


「な、なんだあれは!」


何かの頭のようなそれは、黒く、つるんとしたもので…顔と思しき所にはなにもなかった。


「か、怪物!?」


マルク・ダンテヒと警備隊たちが驚愕しているなか、その怪物体からヒトの音声が大きく鳴り響いた。


「フェリデリア使節団の団長、レギス・バシ・オオテル・セレステ・パールだ。

 国境通過の許可を要請すると同時にそちらの領主との面会を要請に来たが、取り次ぎを願えるか?」


レギス・バシ・オオテル・セレステ・パール。

確かに、中央から届いていた使節団の名簿に、そのような名前があった。

そして、『フーマニタに似ている異種族』との注意書きが施されてはいたが…

あのつるんとした何もない頭の、どこがフーマニタに似ているというのだ?

中央の連中は、諜報もちゃんとできないのか?


心の中から、王都の諜報部署の連中に罵詈雑言を浴びせながらも、マルク・ダンテヒは1歩前に出ながらその怪物に返答した。


「ダンテヒ領主にして国境警備司令官、マルク・バスティネ・ダンテヒ・パールです。

 あなたが使節団の団長と証明するものは、ありますか?」


自分たちの常識の真正面から殴りかかってくるような存在だが、部下たちの前で怖気づいたり、怯む姿を見せるわけにはいかない。ダンテヒはありったけの勇気を絞り出して、そう答えた。


「マルク・ダンテヒ自らお出迎えでしたか。

 これは失礼した」


怪物がそう言いながら顔のところに手をやるかと思ったら、その顔の部分が口のように大きく開かれ、その中から奇妙な顔が現れた。


「フ…フーマニタ!」


「よく言われますね。違いますけど。

 ヘルメットを脱いだら髪がめちゃくちゃになりますから…

 礼儀ではないということは承知していますが、このまま失礼します」


今回の使節団の団長として出発する際、また例のキツネ面をつけようとしたセレステだったが、ノルガ―に制止されて、フルフェイスで全面黒のバイクヘルメットにしていたのだった。

…ノルガ―に見せる時はシールドを開けていたけど。


とにかく、ヘルメットとかなんとか分からない言葉だらけだったが、ダンテヒは必死で正気を保とうとしながら目の前の相手に返答した。


「ああ、構いません…

 とにかく、証明になるような物を見せていただきたいと思いますが…」


「あ、そうだ。

 これからそちらに行きますが、驚かないでください」


そういったセレステがまた箱…大型ドローンにつけたキャビンの中にまた消えると思ったら、今度は城壁の上に、火花を散らす扉が現れ、その中から黒いライディングスーツとヘルメットで身を包んだ、セレステが出てきた。


「あ…ああ?」


驚いた警備隊兵士たちが武器を構えようとしたが、警備隊長がすかさず控えるように手信号を出した。万が一の場合、外交使節に攻撃の意思を見せたと問題視されたら、自分の主である領主までもが責任を問われるからだ。


「失礼。他の方法で来たら色々と大仰なことになるので。

 これを、確認していただけますかな?

 貴国の大使殿から頂いた信任状です」


「は…はい」


ダンテヒは差し出された封筒を開け、中の書類を確認した。

そこに押されてある印と、大使の書名は確かなもので、確認用暗証文句も正確なものだった。


「正規の文書と、確認いたしました。

 レギス・バシ・オーテル・セレステ。貴殿と使節団の入国を許可します。

 ようこそ、ケイレスへおいでになってくださいました」


「感謝します。

 では、我が領地、テンゲルをこちらに進入させますが…

 何か、空から見て困るようなところなどはありませんか?」


「…いいえ、特に」


どうせ、国境地帯の情報など、互いに把握しているだろうから今更隠すこともない。

というか、あんな常識外れの相手の前に、隠してもしょうがないのではないだろうか。

…と思っていたダンテヒが、さっきセレステが何を言ったか、急に思い出した。


「…一つ、気になることがありますが…

 あれが、『領地』とおっしゃいましたか?」


「はい、そうですけど…?

 ああ、そうか。ご存知ではないといってもおかしいことはないな…

 はい。あれが私の領地、空飛ぶ大地テンゲルです。

 400万平方アシェしかありませんがね」


「4、400万…」


400万アシェと言えば、さすがにレギスともあろう大貴族の領地にしては狭すぎる。

しかし、それが空を飛んでいる大地だとすると…もう人知の領域を超えたものとしか、言いようがなかった。


「マルク・ダンテヒ?

 他に用事がなければ、もう戻ってもよろしいでしょうか?

 使節団の任務があるので、ずっとあのまま待機させておくわけにも行きませんから」


「あ、ああ、はい、どうぞ」


夢でも見ていたかのような気分だったダンテヒがはっと目を覚ましてそう答えると、セレステはかるく目礼をして、乗って来たドローンに向いて言った。


「ヤルデ、私は一足先にゲートで帰還する。

 ドローンはここに待機させて、テンゲルがここの上空を通過する時回収する」


と言った後、セレステの前にはまた、ゲートが現れた。


「では、マルク・ダンテヒ、お世話になりましたな。

 いつか機会があれば、我が領地に招待させていただきましょう。

 では、お達者で!」


それだけ言い残したセレステがゲートで消えてしまうと、ドローンはその場で上空に上昇し始め、それと同時に遠くのテンゲルもこちらに向かって移動し始め、みるみる大きくなると思ったらいつの間にかダンテヒ達の頭上、城壁を超えて、ケイレスの国境内に進入していた。


「…真下でみると、壮観なんだな…」


巨大な島、というか大地が頭上を飛んで過ぎ去るのを見たダンテヒの、もうなにがなんだかわからなくなった気持ちから出た、率直な感想だった。

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