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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
いざ行かん、新世界
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時をかけるおっさん

「パネル、搬入いたしまーす!」


「おお、こちらに持ってきてくれ!」


何かの大きいパネルをいっぱい積んだ、大型トラックを誘導する現場員。

…フィットブル・カニセイドの男性だった。


アギス領での天然合成樹脂発見から3か月。

『天然合成』とは多少の語弊はあるが、目を瞑っておこう。


電気研究所に入られず、地団駄を踏んでいた変性魔術系の魔術師たちは、セレステが持って来た新たな繊維とその可能性に、熱狂して飛びついた。

その後、またセレステがパトロンになった新素材研究所が設立されたのはいうまでもない。


その新素材研究所と電気研究所の合作で生まれたのが、発光板であり、発電パネル。

そう、電気の概念すらなかった世界で、五か月足らずの期間で、板式発光ダイオードと、太陽光発電パネルまで漕ぎついたのだ。

発光板―板式発光ダイオードの場合、まだ地球のLEDチップスぐらいの小型化までには至っていないので、1枚当たり四方10㎝ぐらいの大きさだったが、そのぶん少ない数でも照明効果が出た。



「…いや、ここの魔術師たち、優秀すぎない?

 地球では、あれで100年以上かかったよ?」


あっけに取られてこういうセレステに、いまではれっきとした電気研究所の所長になっているビカリ・ヴァナルデ・ユーレが微笑みながら返答した。


「いや、これも全部セレステ閣下のおかげです。

 地球の理論書と、研究分析する現物を用意してくださったおかげで、自分たちも限界を超えることができましたから」


ユーレはその実力と実績、功績を認められ、国王から正式にビカリの位を授かり、電気研究所の所長になれたのだ。

ちなみに、ナイラン学長は新設された新素材研究所の所長に移動している。


「…自由に使える研究資金、もあっただろう?」


わざとらしく、意地悪そうに笑いながらそう聞くセレステに、「確かに」とユーレも笑い返した。


「まあ、さすがに何もないところから始めるのとはわけが違うだろうけど…

 だけどね、やはり君たちの発展速度には普通ではないところがあるよ。

 まるで…すべてが準備できていて、誰かが引き金を引いてくれることだけを待っていた。

 そんな感じがするぐらい?」


「そして、その引き金を引くべく、セレステ閣下がこのトゥシタに舞い降りられた」


それを聞いたセレステが一瞬ギョッとしたが、すぐ顔を緩めた。


「そんなわけないだろう、私なんか、ただのおっさん…

 じゃないね?そういえば?国王陛下公認のイレギュラーだったな?」


そんな能天気なことをいうセレステを見て、本当この人はこの世界での自分の存在について自覚がなすぎるのではないか、とユーレは心の中で溜息をついた。



そんな会話があったろうがなかろうが、今ここではトゥシタ最初の大規模発電プラントの建設が行われていた。

次なる段階―産業革新のためには工業の大規模化・機械化に進むための動力が必要だったわけで、セレステはそれを最初から清浄なエネルギーで始める気でいた。

もちろん、白亜館に設置してある地球産の太陽光発電パネルを無数に複製すればもっと早くこの段階に入っていたんだろうけど、それでは維持管理と改良発展が出来なくなってしまうから、何年がかかってもフェリデリアの魔術師たちに頼ってみる覚悟だったが…それが、何年どころか、五か月足らずでフェリデリア独自の発電パネルを完成させ、発電プラントを建設するという、信じられない結果に繋がっていたのだ。


そしてそのプラントの整地と設置作業に動員されているのが、15機のヤンサ部隊。

デュエマを作る言い訳として、『重装備代わりにも使える』と言ってはいたが、さっそくその有用さが証明されたわけで、その話をした張本人のセレステ自らが、「えっ、本当?」と驚いていたぐらいだった。


「土木専門の工兵部隊扱いにならなければいいんですけどね」


ダスぺ副師団長が複雑な顔でそういっていたが、セレステがドウドウ、と宥めていた。


「まあ、君の気持もわかるけどね、これだって、見事な国への奉仕だよ?

 それに、国王陛下直伝の命令ではない限り、余計なことには君たちを出さん」


「…その国王陛下が、一番はしゃいでおいでですが」


頭痛そうなダスぺが指して見せるさっきには、国王専用機のパーラ・ナクマが、いつ拵えたものか、王室紋章の入った巨大な旗を翻しながら「がんばれ!」と機外スピーカーで檄を飛ばしていたのだ。


「…『労いに行く』とは言っていたけど…

 あのバカ」


「陛下付きのパーラ・ヤンサも作業に出てきていますから、労にいらっしゃるのは感謝すべきことではありますけどねぇ」


バカ、と貶してはいたけど、王専用機がここに来ているという意味は大きい。

ただの『国家産業』ではなく、国王自らがお出ましになって、檄を飛ばされるほど重要で、興味をお持ちの事業ということを表しているからだ。


「それだけか、随伴機が作業に出ているせいで、親衛隊長様のカーム・ナクマが護衛に…」


「…あいつもノリノリで付いて来たと思うよ、きっと」


二万平方アシェという広大な面積の整地作業も、15機のヤンサが巨大な道具を持って投入されると半日もかからず終わり、残るは大型トラックで運んできたパネルを組み立てることだけだった。


「でもパネルの運搬と位置づけをヤンサで行えるからな。

 操縦士の微細操作の訓練にもなって、有意義だと思うな」


「はっ。それは確かに」


王都の近く、農地としては適していない空地で行われる、示範プラントの建設。

それは地球でいう1MW規模の発電プラントで、王都とその周辺の領地に電気を供給するには十分、いや、家電機器がまだ補給されていない状況だから、有り余る電力ともいえる。


まずは王都の貴族街と商業地区への電気の補給と、平民街への街路灯の設置を当面の目的にしていたから、あれでも十分電気を賄える。

現在街路灯は従来の植物性油を用いたガス式灯を使っているが、それを電気街路灯に転換する同時に、平民街にも拡大するという構想があった。


「街路灯管理職に、そのまま電気灯への転換教育を行えば失職の問題もないうえに…

 平民街にまで街路灯を拡大すれば、犯罪率も減る効果が期待できますよ?」


その誘いに、内務大臣も二つ返事で街路灯普及プランに賛同してくれた。

現行のガス式灯なら夕方に灯し、明け方に消すことを毎日行い、定期的に煤の拭く作業も行わなければならないが、電気式になるとスイッチを押すだけで済むうえに、煤を拭かなくてもいいから作業量も大幅に減る。

地球なら光感知センサーで自動化したり、中央でコンピューターで一括コントロールしたりできるが、まだトゥシタではそこまでは至っていない上に、職業転換の問題もあるから当分の間はこれで行くことにしたのだ。


「電気が普及されると…自動車も、普及できるようになりますか?」


デュエマ師団の人員に運転を教えるというセレステの計画にはその全員が飛び掛かり、さすがにレーテス一人で150余人全員を教えるのは無理があったので、まず10人を選抜して彼らにスパルタ式で叩き込んで、助教として他の人員の教育を手伝させて、今では全員がそれなりに慣れていて、この工事現場に資材を運搬するトラックの運転も警備人力の一人が志願して出てきていた。


ダスぺのその質問に、セレステが情けない物をみる目でまだまだ檄を飛ばしているパーラ・ナクマを睨みながら答えた。


「それはそうだろうね。

 結構前から、宰相が遠回りで欲しそうにしていたし…

 充電ステーションさえ用意できれば、結構な需要があるだろう」


宰相はあの時、セレステのロー〇スロイスでの送迎を経験して以来、そのふかふかなシートと振動のない乗車感がすごく気に入ったのか、『あれはいつ商用化する気じゃ?』と、機会があれば聞いてきていた。

自動車に関してももちろん、初期の貴族相手や商用車の商売にはセレステの能力で作り出した地球の自動車(の電気レプリカ)を売る計画でいるが、そのうち技術者に任せて、トゥシタ産の自動車を開発させる気でいる。


「閣下の計画を聞くだけで、自分のような単純なものは目が回りそうな気がしますが…

 そのようにご多忙で、お体に触ったりはしませんか?」


「うん?いや、私自身では別にやることがないんだよ?

 資料と現物を与えて、投げ銭の研究資金さえ与えれば、研究者たちが一所懸命研究して結果を出してくれるからな。

 私はその技術の特許料をもらってウハウハするだけ」


と、まるで自分は大したことはやっていないように言っているセレステだったが、自分のことを『単純なもの』といっているダスぺでさえ、それは嘘であると、気づいていた。


研究を自分ではやらないといっても、何をこの世界に持って来て、研究させるを絶え間なく考えている。

投げ銭と言っているけど、その『投げ銭』で研究を持続できる研究者の数はどれだけなんだろう。

そして、『特許料でウハウハ』と言っているけど、それは特許料の2割に過ぎない。

残りの8割は、開発した研究者の分にしているのだ。


普通、平民や下級技術者が新しい技術を開発して特許登録に成功しても、その権利を上級貴族や大商会に侵害されることは多々ある。

これは地球でも普通に起きている問題だ。

だから、身分の低い研究者や技術者は、上級貴族にパトロンを要請して、その代わり特許料の5割以上を献上するのが相場だった。

しかし、セレステは自分で研究資料を提供し、研究費用まで援助してくれるのに、2割だけを要求していた。


その件で何人かの貴族が、遠回りで抗議の意思を伝えたが、その時セレステはこう言っていた。


「ああ、それなんだがー

 『実際に働くものが、もっと稼ぐべきなんだろう?

  お前が働いてくれたことへの労いだ。新技術も期待しておるぞ?』

 と、それらしいことをいってやったらねぇ~

 それはそれは号泣しながらね。 

 『セレステ閣下に、一生ついていきます!』などとほざいていたわ。

 そうしたら、技術者たちが寄り集まってくるではないか。

 それで、2割だけでも結構な額が…にゃはは」


それに、パトロンの配当に関して法律で決められているわけでもない。

セレステが何割をもらおうが、他の貴族に不評を言われる筋合いはなかったのだ。


「いや、これ以上陛下がここで遊んでいたらな、後で宰相に小言を言われるのは私だよ。

 あのバカ、もう帰ってもらわなければ。

 ヤルデ!」


腰を掛けていた現場用椅子から立ち上がったセレステは、後ろに控えさせていたハーヤ・ナクマに乗るべく、ヤルデマラセナを呼び出した。


*了解です、マイロード*


ヤルデマラセナのコントロールで差し出された掌に飛び乗ったセレステは、そのまま運ばれコクピットに入って、自機を起動させて機外スピーカーで王に話しかけた。


「陛下―!もう王宮にお戻りください!

 お仕事ほったらかしにしたんでしょう!」


「いや!現場の労いも仕事の内だ!

 宰相にもそういっておる!」


「…労いに来てそのまま4時間も居続けるとは仰ってないでしょう?

 早くお戻りください!宰相からとばっちり食うのはいやですよ!」


通信で伝えてもいいことを、わざわざ機外スピーカーで伝えるセレステ。

『私はお戻りになられるよう、諫めた』というアリバイ作りだと、そばで聞いているダスぺも分かるような、これ見よがしな行動だった。


「…もう戻りましょう陛下。

 王父卿の言う通りです」


最初はウキウキだったノルガ―もさすがに痺れを切らしていたか、珍しくセレステの言うことに『スピーカーで』賛同していた。

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