師団創設
「諸君、ようこそ我が領テンゲルへ。
私がこのテンゲルの領主、マルク・テンゲルにしてレギス・セレステ。
そして諸君らの指揮官を務める、ロボット機動師団の師団長。
レギス・バシ・オオテル・セレステ・パールである」
晴れたある日。
というか、今テンゲルは雲の上を航行しているから曇るはずがない。
テンゲルのリゾートから遠く離れたところに新たに建てられた軍事区域で、セレステは新たにここに配置された人員の前で、師団長としての初仕事・歓迎演説を行なっていた。
副師団長:ビカリ・ラムデファ・ダスぺ。階級は正領
操縦士:エクス十五人。階級は副領・参領・正尉・ 副尉と多様
整備チーム:技術官および魔術師混成五十人
警備チーム:一般兵力八十人(*テンゲルの治安兵力を兼ねる)
そして、そんな彼らを率いるセレステには…師団長として、新たに副将の階級が与えられた。
『…なんか、思った以上の大所帯になっちゃったな』
壊れてもトゥシタの技術レベルで修理できないから、新しいのに交換するまで…と思って整備のことは考えていなかったセレステだったが、それでも普段の洗浄作業や簡単な点検・基礎整備ぐらいは教育させてでも現地人員に任せるべきだとヤルデマラセナに指摘され、募集の話を出したら…それはそれは、大騒動になっていたそうな。
「諸君は、このフェリデリア、いや、トゥシタ世界最初のロボット機動師団の一員だ。
この栄光を、私にこのロボット師団の創設を許可してくださった、国王陛下に捧げよう。
諸君らには、この栄えある機動師団の創設メンバーとして、その名に恥じぬ務めを期待させてもらおう。
もう一度言わせてもらおう。ようこそ、テンゲル機動師団へ。
歓迎するぞ」
「師団長に、捧げ剣!」
副師団長の号令に、整列していた百五十人近くの人員が、一斉に敬礼をあげた。
『くうううう〜どうだ、私の演説。決まったんだろう?』
と、落ち着いた顔とは裏腹なことを考えているが、普段の彼らしくなくその落ち着いた態度を保っているのを随行員の資格でそばで見ていたラインバルトとレーテスは、笑い転げたいのをかろうじて我慢していた。
「お見事な演説でした、師団長」
そんな彼らの思惑などは全然わからない黒ライオンのリオネア、副師団長ビカリ・ラムデファ・ダスぺがセレステに近寄りながら褒め称えた。
「ああ、感謝する。
軍経験のない私が師団長で、君に迷惑をかけることになるけど、よろしく頼むぞ、副師団長殿」
「もったいないお言葉です。
自分以下師団の全員、閣下の元で働けることを、誇りと存じております!」
『いや〜それほどでも〜』とか、顔が緩みそうなセレステだったが、思いの外落ち着いた顔を保ちながら言い続けた。
「宿舎には入ってみたか?足りないことがあれば、遠慮なくいいたまえ」
「いいえ、むしろ豪華すぎて緩んでしまうのではないか心配になるほどでした!」
駐屯する人員を収容するために軍の兵舎を用意するべきか…とも思ったが、わざわざ新しい建物の模型を用意するのも面倒くさかったので、白亜館の使用人宿舎のために用意してあった建築模型をそのまま使い回して、ミニマンションの団地を建ててしまい、操縦士以上は1人当たり1室、整備と警備のチームには少し広いモデルで2人1室と割り当てたわけだが…
案の定、というか、部屋の『未来的な』施設で、騒ぎになっていたのだ。
元々競争率はあったけど、ここに駐屯することになった人員は…想像以上の大当たりくじを引いたと、後日地上に残っている元同僚に自慢しまくっていたそうだが、それままた別の話。
「コミュニティー施設には、リゾートには及ばないけどスパ施設も完備している。
日常の疲れはあそこで癒すといい」
「何から何まで…過分な配慮に、恐縮です」
「…しかし、操縦士の中に、フェリノイやその亜属の比率が高いな?
君だって、リオネアだし」
「は。種族の特性的に、高い所を恐れませんので」
「あー」
通りで、カニセイド系が稀に見えていたのか。
ダーハラトが高所恐怖症なのは、彼だけの問題ではなかったようだな、と今になって理解できたセレステだった。
「わかった。では、今日はみんなゆっくり休んで…
順次的に、操縦訓練に当たってくれ。
ただし、同時に15機全員と行くのは無理だから、小隊ごとに5機ずつ行ってくれ。
君の乗機は、気に入った?」
「はっ。自分にまで専用機を用意していただき、身に余る光栄と存じております」
ナクマ・シリーズの頭部を簡略化し、体の装飾ディテールを控えめに調節するという、『量産機設計の定番工作』を行ったヤンサ・シリーズを使い、それぞれハーヤ、パーラ、カームをつけていたが、副師団長機だけは専用色のダークグレーにして、頭にツノをつけてやっていたのだ。
「いや、量産機に飾りをつけただけだから、すまないと思っているね。
でもナクマは王室専用機みたいになっているから…理解してくれよ?」
「滅相もございません!このダスぺ、陛下とレギス閣下に忠誠を尽くします!」
量産型を作る時、副師団長のことを考えていなかったので急遽オタクの定番発想を生かして『専用色にツノ』という、ある意味陳腐な発想で作ったヘーセ・ヤンサなのに、ここまで喜んでくれるとさすがのセレステも少しは悪い気がしてくる。
「あーそしてだ。
整備と警備チームの希望者には、自動車の運転を教えようと思っている。
資材の運搬とか、騎獣や車より、ずっと効率が高いからな。
操縦士にも希望者がないか、調べといてくれ」
それはむしろ希望しないものがいるんだろうか…と思ったが、ダスぺは短く「はっ」とだけ返答した。
***
「賑やかになりましたね」
「そうか?リゾートも結構、賑わっていると思うがな」
「ロボットの大きさがありますから」
テンゲルの制御室に上がって来たセレステが、アリメカリセスと話していた。
「ああ、それは確かに。
ヤルデくんと…その、姉弟喧嘩はわかるけどな、格納庫の運用は手伝ってやってね」
「もちろんです。ヤンサ部隊の運用は、マイロードの面子に関わることですから。
…3次元の方々のお目の届かないところで、姉の怖さをたっぷり味わわせておきます」
「あ、ああ…」
姉って、あんな怖い存在だったのか?と思いながらも、過去と未来を区別する意味のない彼女らだから、結局いつまでもあのままでは…と思ったが、セレステはそれを口から出してはいなかった。
『過去も現在も未来も、全てを同時に見ているって…どんな気持ちなんだろう。
想像もできそうにないな』
ナクマ3機と、ヤンサ・シリーズを収容する空間のことで彼女に相談したとき、『すでに地下格納庫が用意されております』と言われて驚いたセレステだったが、それはすなわち、テンゲルを送ってくれた『ロードの上の誰か』は、こんなことがあることを知っている、もしくは覚えているから、その準備ができているテンゲルを送ってくれたわけで…
『一体、どういうやつなんだよ』
「しかしな…19機もの巨大ロボットを収容する空間がすでに用意されてあったというのは…
まさか、後で私が何かやらかしても、対応できるってこと?」
「お答えできかねます」
多分、テンゲルにはまだまだ何か隠されているんだろうな、とセレステは推測した。
それはもちろん、これだけ広い大地で、地盤の厚さも結構ある。地面の利用率はまだ4分の1も満たしていないので、まだまだ可能性はあるように思える。
もちろん、だからと言って、テンゲルの野原を構造物でみっしりと満たす気はさらさらない。空の上で眺める野原という異質的空間が、結構気に入っているからだ。
「まあ、その時はその時だ。なんとでもなるなら、私は自由にさせてもらうだけ。
それでいいね?」
「はい、マイロードの御心のままに」
「まさか、宇宙戦艦になったりはしないだろうね。はは」
「…」
否定しない。
「…アリメ?」
「冗談です」
「いや、そんな冗談、心臓に悪いから!」
***
「―それで、師団長閣下から、あの『自動車』の運転の教育を希望する人員を調査するよう、命令されたわけだが…
言い方を変えよう。希望しない人員は、手を挙げるように」
コミュニティー施設に設けられているブリーフィングルームに操縦士全員を招集したダスぺは、早速セレステの最初の命令を実行していた。
そしてその結果は、彼が予想していた通り、全員希望。
「あれの運転を教えてくださるというのに、拒む奴はいないでしょう」
「そうだ。選抜で落ちた奴らが知ったら、ずいぶん悔しがるんだろうね」
「本当だ。あの宿舎だってまるで夢のような環境なのに、そんな特例まで。
志願して大正解だったよ」
操縦士たちがそれぞれ言いながら笑いあっているのを見て、ダスぺも苦笑しながらも、咳払いをして、皆を静かにさせた。
「オホン。
お前らのいう通りだが、それだけこの幸運に感謝し、陛下と閣下に忠誠を尽くす志を忘れないように。いいな?」
「はっ!」
「そして、その運転の教官だが…
閣下によると、閣下のドライバー、レーテス殿が務めてくれるとのことだ」
「あら、あのセクシーなヒト」
女性操縦士達から、黄色い声が上がる。
「そこ、私語は慎め。
とにかく、今では最初で唯一のドライバーだから彼に教わることになる。
平民だからといって、失礼がないように気をつけろ。
れっきとした閣下の家臣の一人だからな」
「はっ」
これは彼への無礼よりは色事やスキャンダルを注意しなければならないのではと、ダスぺは少し心配になった。
「では、本格的な操縦訓練は明日から始める。
今日はゆっくり休んでおくように、と閣下がおっしゃった。
皆、今日は自由にしていいぞ。解散」
ダスぺの解散命令に、操縦士たちは敬礼をして部屋から出て行ったが、どうやらほぼ全員が、同じ方向へと向かっているようだった。
ダスぺだって、タテガミをサラサラにしてくれるシャンプーのことをすごく気にしていた、スパへ。
お風呂を楽しむ文化があまり広まっていなかったアンテロ社会だったが、スプラ・ヌベス開場以来貴族社会で徐々に浸透し、そのリラックス効果が評判になっていたので、駐屯地の宿舎があの『未来仕様』なだけではなく、専用スパもあると聞いて、配属になった全員が結構喜んでいた。
そういう風に、セレステ自身も気づいていないところで、彼のやったことはトゥシタの社会を徐々に変えていた。
***
「ヘチュ」
「うん?レーテス、風邪なのか?」
「いいえ、そうではないと思いますが…
しかし、私なんかがエクスの皆さんに教官を…務まらなそうですが」
どうやら、レーテスは気が進まないようだった。
それもそのはず、親衛隊時代の上官にあたるヒトも何人かいるから。
「でも、君がやらないと、私が教えることになるけどね。
それ、君がやる以上にいろいろとまずいと思うよ?
無冠なのが気になるなら、エクスの位でも与えようか?」
「い、いえ!そんなに軽々しく仰らないでください!」
「ふーむ、ちょうどいいと思ったけどね」
このお館様、権力を振ることに慣れすぎたのでは、と少し心配になるレーテスだった。




