ヒャッハー!
「ノルガー〜〜!健康でいてくれてありがとう!」
「うわっ!なんだ!いきなり抱きつくな!気持ち悪い!」
1週間の地球連続滞在(と言っても、トゥシタでは1日の空白しかなかったが)が開けた次の日。
王宮に参内したセレステは、ちょうど近くを通っていたノルガーを見つけるや否や、彼に走っていってハグってしまった。
「いや、地球のお前を健康診断に連れていったらな?もう歳だから、それだけはどうにもできないって。
ここでは若く、健康でいてくれてありがとう!」
「当たり前だろうが!こちらのボクは若いから…全く」
そう毒づきながらセレステを押し出してはいるけど、セレステはそのノルガーの手から、結構力加減をしているのを感じ取れた。
「……とう」
「え?何か言った?」
「なんでもないよ。こんなところで道草食ってないで、兄上の執務室に行けよ。
参内したらすぐ自分の所に来させるようにと言っていたよ」
「そう?なんだろう…
あ、感謝しなくてもいいよ。家族なんだろう」
「っ!
クソ親父ぃぃぃ!」
***
「サイショウもん〜父上がいじめる〜なんとかしてえ」
「「はああ!?」」
執務室に来たセレステの前で、ラシオン王がいきなり身もふたもないことを言い出した。
「陛下?それ、猫のセリフじゃなくて猫が言われるセリフ…
あ、宰相も猫だからギリセーフか」
「お主はまた何を言い出す!
陛下、なんですか、その宰相『もん』は。
それより、こやつが何か?」
「うむ、意地悪した」
そう言っている王の表情は、何か思いっきり拗ねた顔をしていた。
「怖いことおっしゃいますな。
そうおっしゃいましても、私には全く身に覚えが…」
「父上の新しいおもちゃ、ヴェランまで2時間で飛べたって?」
「あ…」
そういえば、王がハーヤ・ナクマに乗ってみたいと言っていたが、まだ試乗させてあげていない。
…乗ってみたラインバルトは粗相までしたと言うのに。
「余は王宮で、国務で奔走しているのに、王妃だけテンゲルで優雅な休養を楽しんで、ヴェランで美味しいお茶も堪能して、新鮮なお茶も買ってきたと…」
「いや、それは」
イーシャ王妃だって、色々と公務で忙しかった合間に、少し余裕時間ができたのでセレステが休養に誘ったのは事実だけど、あいにく、その時期の王はとても手が離せない国務があったので泣く泣く(本当に泣いてた)行けなかったわけだった。
「お主が悪かったのう」
「わざとやってことではないんですけど?」
「いや、父上が悪い。
これは王命です」
気持ちはわかるけど、普通そこまでいうか。
呆れた気持ちで、セレステは宰相に聞いた。
「…あんな王でいいんですか?」
「お主がこの世界に来る前までには、しゃんとしていらっしゃったぞ」
とは言っているが、そう言う宰相の顔はセレステを非難したり、ダメになった王を心配したりする顔ではなく、可愛い孫を見ているような微笑ましい顔だった。
多分、国王としての務めの日々で積もりに積もっていたストレスを、セレステに甘えることで発散できるようになったのを、良しとしているようだ。
もちろん、亡き先王との仲が悪かったとか、そういうことは決してないが、王家の父子関係というのは、そう心を許せるような関係ではないものだったから、その反動で思いっきり甘える『前世からの絆』を大事にしているのかもしれない。
「なんだか、全部私が悪いとでも仰るようですが…
それでは、陛下に献上しようと思っていたこれも、悪い影響を及ぼしかねませんのでやめた方がいいでしょうかな…宰相殿?」
セレステはさっきから手に持っていたカバンを持ち上げて見せながら、わざと深刻な表情を作って言った。
「なぜわしに振る!?」
「いや、さっき宰相殿がおっしゃったじゃないですか。
私が来る前までには、陛下はしゃんとした君主だった、と。
だから〜こんな〜陛下を『悪ガキにしそうな』もの〜など〜
ああ〜恐ろしや〜こんなものは地球に捨てちゃいましょう〜」
と、深刻そうだった口調をだんだんイタズラっぽく変えながら、セレステはゲートを開いて、手に持ったカバンを振って投げ込もうとした。
「いや、待て!王命…
父上ぇ!駄々こねて悪かった!」
何か自分への贈り物があったと悟ったラシオンが、慌ててセレステを止めようとしたが
「よっと」
セレステはカバンを投げるのではなく、自らがゲートの中に飛び込んでしまった。
「そこで何してるんだ?早く来いよ。
私を呼んだというのは、どうせ今暇だってことだろう。
宰相殿、ちょっと王様借りますよ?
あ、そして親衛隊長殿を、呼んでおいてくださいよ」
「お、お主!また何を!」
セレステに怒鳴りつけようとしていた宰相のそばを、何かが疾風のように過ぎ去ってゲートの中に飛び込んだ。
「宰相!余はちょっと気晴らしに行ってくる!
後は頼むぞ!親衛隊長のこともな!」
「へ、陛下ぁぁぁぁ!
全く、セレステの悪ガキめ!」
***
王の執務に呼び出された親衛隊長、王弟ノルガーは、そのまま待機していたセレステに手首を取られ、そのままテンゲルに連れて行かれては、自分の目を疑いたくなる風景に直面した。
「なななな、何これぇ!?」
そこには、先日セレステが作り出して騒動になっていた、そして王国南端のヴェラン領地まで2時間で飛べるという機械仕掛けの巨体、ハーヤ・ナクマが…
全く同じ形態だが、色だけが金属性ブルーグレーの巨体がよちよち歩いているのを、そばでサポートしていた。
そして、目の前には同じく、全く同型だが黒に銀の縁が施された巨体が、地面に横たわっていた。
「…親父いぃぃ?」
と、これはなんの冗談だと言いたい顔でセレステを振り向いたが、そのセレステはというと
「ノルガー、ナクマに乗れ」
と、どこかのマダオ司令のポーズを、立ったままマネる奇行を披露しながら、あんなことを言っていた。
「なんでだよ!」
「嫌なら帰れーいやこれはない。
王専用機を用意したなら、親衛隊長機も要るんだろう?」
「いや、だからなんで王専用機なんかー」
「あいつに駄々こねられたから」
1週間地球にいたのは、この2機を作るためでもあったのだ。
同じ色のを用意するならハーヤ・ナクマを複製するだけですむけど、ロボヲタの燃えたぎる血が、それを許さなかったのだ。
『専用機は専用カラーでなければ!』
二人のパーソナルカラーで塗装するため、地球で2機を作って来てここで実体化して、今に至るのだった。
「ワハハ!これいいな!ノルガー!お前も早く乗れ!」
機外スピーカーから、ウキウキしているラシオンの声が聞こえてくる。
「…兄上が乗っているのはわかるけど、あの白いのは…?」
「私が乗ってなくても、ヤルデがコントロールしてくれるんだよ。
お前のも同じだから、安心して乗りな?
さあ、お前の専用機、ナクマシリーズ弐号機、カーム・ナクマだ!」
「…3個目なのに?」
「私のは試作0号機、ラシオンは制式仕様の初号機」
セレステが何か結構やばそうなことをスラスラ述べているような気がするが、ノルガーはそれが何かわからない。
「さささ、早く乗るんだ。お前もこれくらい、跳び上がれるんだろう?
コクピット…胸の操縦席に入れば、あとはヤルデがやってくれるから」
「いや、私は別にこんなもの…」
「ラシオンにだけあげたら、お前も拗ねていたんだろうが!
王が乗ってれば親衛隊長も乗ってお供するという言い訳もちゃんとできるから、『嫌だけど無理やり』もらっとけよ」
ニヤニヤとそう言っているセレステに、ノルガーは呆れた気持ちになりながらも、彼のいう通りラシオンだけがもらっていたら少し嫌だったかも…と思う自分に少し、驚いていた。
「全く…ありがとうとは言わないからな!」
そう言いながらカーム・ナクマに跳び上がって、コクピットに乗り込むノルガーを見ながら、セレステは苦笑していった。
「本当、前世から素直じゃないやつ。
ヤルデ!ハーヤをこちらに回せ!私も乗る!」
*了解!*
数日前のことだが、王専用機のパーラ・ナクマと、カーム・ナクマを用意しようとしていた段階で、コントロール補助にまた誰かを呼んでこなければならないかと聞いたら、ヤルデマラセナは何事もないかのように言っていた。
*あ、問題ありませんよ。
私は3次元に顕現していない分、同時コントロールできる数が段違いです。
このタイプの機体なら…そう、フルコントロールで20機、補助するだけなら140機まで。
テンゲル一つで手に負える姉貴とは違ってー*
「消滅されたいのかゴルァ!」
なんだか、また姉弟喧嘩で終わったけど。
とにかく、操縦熟練度によって変わってくるだろうけど、最大で140機までのロボット部隊が運用出来る…とはいえ、あそこまで運用する必要はないだろう、と当時のセレステは考えていた。
でも王専用機と親衛隊長専用機ができた時点で、こうなった以上護衛機も必要なのでは、と、設定厨ロボオタの血が、セレステを誘惑していた。
まるでプラモでも作るかのような軽いノリだけど、実際、彼にとってはプラモ作りと大差ないことでもある。
「全く、ダーハラトのやつ、高所恐怖症さえなかったらやつのも一緒に用意してあげられたのに。
…地上戦用カスタム機でも作ってみようかな」
ぶつぶつ言っているセレステに、ヤルデマラセナがツッコミを入れた。
*マイロード、一体何と戦う気ですか?
この3機だけでもこの世界では過剰戦力ですよ*
「過剰戦力というか、武装もしてないじゃないか?」
*この巨体が暴れ回れるだけで質量兵器ですけど?
それに、マイロードはともかく、あのお二人のアンテロの運動能力をそのままフィードバックしたら…*
「したら?」
*…高速で手を振るだけで、ソニック・ブームが発生します。
「おおおそれいいじゃ…って、いかんいかん。
ノルガーはいいとして、ラシオンには教えるなよ?
ミスして飛ばさないように、リミッターもちゃんとかけておけ」
*了解です*
ヤルデマラセナに、注意を言っておくその瞬間だった。
「ヒャッハー!」
「兄上ぇぇぇぇ!!!」
…ラシオンのパーラ・ナクマが、テンゲルの端から飛び降りていた。
「あのバカ!何してんだ!」
*自由落下から飛び上がりたいとおっしゃったので*
「なんでそんなに冷静に言えるのかねぇ!?
とにかく追うんだ!ノルガー!お前も来い!」
「わ、わかった!」
*殿下は飛行が初めてですから、私がコントロールします*
「3機の通信も頼む!」
*繋げました*
落下するパーラ・ナクマを追いながら、通信が繋がったのを確認したセレステがラシオンに怒鳴った。
「何するんだバカ!墜落はしないだろうけど、見ているこちらの心臓が危ない!」
「あーはははは!父上!これ最高だ!
…って、これどうしたら飛ぶ?」
「ヤルデーーーーー!!!!!」
結局、重度のドライバーズハイと判明したラシオンは、しばらくはパーラ・ナクマに乗ることを禁じられた。




