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やるでー

自力で発電機にまで到達した研究員、すなわち、魔術師たちに心からの労いの言葉をかけ、賞与まで約束したセレステを、ナイラン所長が引き留めようとした。


「すでに十分以上の研究費援助を頂いているのに、賞与とは滅相もないことです!」


「いや、単なるモチベーション…動機付与のためですよ。

 それに、所長や宮廷から出向してきた魔術師たちとは違って、学生の研究員たちは…物入りな時期があるでしょう。ユーレくんがそうだったように」


「あ…確かに」


「それに、どうせもらった先から、研究に注ぎ込むような連中でしょうし」


「はは、それもそうですな」


などなど。

結局、賞与はありがたく拝受することになり、セレステは発電機の次の課題として『安定した電圧を出せるように』改良することを注文した。


「門外漢の私が口を挟むのもなんだが、君たち研究員なら、すでに気づいているだろう。

 あのクランクを回す者の個人差や、回す具合のムラによって、電圧が変わり、安定しないということを。

 その電圧の不安さは、それを電源とする器具の挙動をも不安定にすることを。

 だから、次なる課題は、どのような条件でも安定した電圧を出せるよう、その発電機を改良することだ。

 君たちの英知に、期待しているぞ」


出資者に認められ、労いの言葉だけではなく、賞与までもらえた。

研究者にとって、これ以上の喜びは、たぶんないだろう。


電気研究所の士気は、天を突かんばかりの勢いだった。


              ***


「正直、驚いたよ。

 そりゃまあ、地球でも錬金術が化学の元になっていたし、フォスとスコタのことからこれはいけるかも…と思って魔術師に期待をかけてみたわけだがね。

 まさか、あんな短期間で発電機にまで自力で到達するとは、すごいと思わない?」


セレステはホテルの確認と称して、テンゲルに上がって来て制御室でアリメカリセスに電気研究所のことを語っていた。


「そうですね。

 ここの魔術は、世界が内在しているエネルギーを利用する術ですから、ある意味では物理学に近い、地球のそれとは異なる物理学理論だったと言えましょう。

 だからこそ、あんなことができたんでしょうし」


「やっぱそうなるのか。

 …なあアリメカリセス。

 君って、本体は5次元にいる存在だからな。

 これから私が何をして、どんな結末にたどり着くか、すべて見えているんじゃない?」


「はい。

 ただし、その未来をマイロードに教えることは禁じられております」


「けっ、やっぱりそうか。

 確信が持てない時にアドバイスでも…と思ったけど、それも禁じられているんだろうね?

 私の行動に影響を及ぼしてはいけないから」


「肯定いたします」


「それって、誰に禁じられているんだ?」


「お答えできかねます」


「ふうーん。

 そうか、ロードの上に上がいるってことだよね。

 アークロードとか?」


「…」


アリメカリセスは、なにも答えなかった。


「まあ、いいだろう。

 誰かはわからないけど、そのお偉いさんに伝えてくれよ。

 『感謝している』とな」


「…ありがたき幸せにございます、マイロード」


「…?なんで君が?」


              ***


アリメカリセスとの謎の問答から何日か後。


セレステは、またテンゲルに来ていた。


「私が私の領地に来たというのに、『また』はなんだ『また』は」


「…誰に向かって言っているんだ?」


気晴らしに行こうと、休日にダーハラトを誘って、散歩にでも出たかのように、テンゲルの野原をぶらぶらと歩いていた。


「…オレの屋敷の前で『ダーちゃん~あ~そ~ぼ~』などと、小童か貴様は」


「いや、今日はその少年の心が必要なことをやるからな」


また何をやらかす気か、と不安に思いながらも、ダーハラトにはそれ以上に気になることがあった。


「…何をする気かはわからんが、できればリゾートから離れた場所でやってくれないか?」


「うん?ああ、貴族たちの噂の種になるのが気になる?

 それどころの騒ぎではなくなるから心配するな」


「いや、貴様のやることだから心配するなといっても…

 待て、今なんと言った?」


「ふうむ…このあたりでいいかな」


セレステが歩きを止めたので、ダーハラトもそこで止まった。


「おい、オーテル、答えろ!」


「急かすなよ、見せてあげるから」


そういったセレステは、地面に片膝をついて、手に持っていた紙箱の中身を地面に寝かしておいた。


「いったい何をする…む?なんだそれは?」


「お?気になる?やっぱダーちゃんも男の子だったね~うんうん」


「男の子などと、ほざくな。

 それより、それ…ドワーベン…か?」


「?なんだそれ?

 これはな…いや、実際見た方が早い。

 ここにおいて…と、ダーちゃん、少し下がれ」


後ろに押し出すセレステに、思わず後ろに下がっていたダーハラトは、はっと我に戻って、急激に押し寄せてくる不安に打たれながらセレステに問った。


「オーテル、この間、似た様な状況に立ち会っていた気がするが…」


「うん、その勘、たぶん当たっていると思うよ、ほら」


‐ピカッ


「お前なにをしたーーーーーーー!」


まぶしい光に目を隠していたダーハラトが目を開くと、そこには全長18mぐらいはある巨大な、ヒト型の構造物…


いや、『ロボット』が、大地に横たわっていた。


「うむ、上出来だ!」


「上出来も何も、なんだこれ!」


「ロボットだよ?」


「ろぼ…?いや、そんなことではなくて!」


現状そのものはセレステが屋敷を建てる時目撃したのと同じ現象だが、今目の前にあるこれは…


「…だからなんだこれ?」


「…これだからバカ犬は。ロボットだといっただろうが」


「いやだからそのろぼっととは何だと聞いているのだよ!」


なんかアホ問答が続く気がして、セレステは『ロボット』とは何たるものかを、見せることにした。


「ちょっと待ってよ…うわ、寝かせておいたのはいいけど、これどうやって乗るんだ…?」


「『乗る』のか?これに?」


「ああ、でも…ああ、こうなるとわかったらデッキぐらいは用意すればよかったのに…」


「まったく…じっとしてろ」


「え?ちょ、何…うわああ!?」


いきなり腰に腕を回して来たダーハラトに驚いていたら次の瞬間、地面が遠のくのを感じたセレステは悲鳴を上げた。


‐タン


「うるさい。お前がこれぐらいも飛び上がれない屯物だから」


セレステを脇に抱えて飛び上がり、ロボットの腰の上に軽く着地したダーハラトが、セレステを下ろしながらぶっきらぼうに言った。


「いやいやいやいや!地球人にはできない芸だよこれ!しかも、人ひとり抱えて?

 どんだけ化け物だよお前!」


「何をいっている。これぐらいできなければ、軍人は務まらないぞ」


…と、さも当然といった風に言ってはいるけど、微妙にドヤ顔になっているのを見るとダーハラトがアンテロの軍人の中でもとびぬけた身体能力を持っていると考えてもよさそうだった。


「…こんなやつらに喧嘩を売ったフーマニタって…

 正気の沙汰ではないと思う」


「まさしくだ。

 で?登ってきた後は何をするんだ?」


「ちょっとまってよ…さっきハッチを開いたままにしておいたから…

 うん、パイロットシートもちゃんとできている」


開かれていたハッチからロボットの内部に滑り込んだセレステが、操縦シートに腰を掛けてダーハラトを呼んだ。


「ダーちゃん?外に立っているといくら君でも危ないよ。入っておいで」


「入って来いって…その体内にか?」


「いや体内言うな、気持ち悪い。

 元々乗り込んで操縦するやつだからな、自動車と同じものだと思え。

 ちょっと狭くはあるけど、君一人ぐらい、収まる空間があるよ」


「何がなんだか…とりあえず、入らせてもらおう」


ロボットが横たわっているからか、胸腔内にある操縦シートも後ろに寝かせてあり、それに座っているセレステも仰向けになっていた。

それを、今入って来てセレステの右側に降り立ったダーハラトは、狭いコクピットの都合上、間近で見下ろす形になっている。


「…なんだこれ」


「ちょっとまってよ…とりあえずエンジンを始動するから…

 普通この辺りにスイッチがあるだろうけど…あ、あったあった」


中央メインコンソールの右下の側面、誤って押す心配のない所に、『Engine start』と書いてあるボタンがあった。


「ご丁寧なこった…こんな設定だったかな?

 とにかく、エンジンをかけて…ハッチを…

 

‐ズゥゥゥン


低い振動音が聞こえたかと思ったら、目の前のハッチが閉まって、コクピット内は暗黒になる。

ダーハラトが当惑した瞬間、シートの全面‐ダーハラトにとっては頭上に、外の風景が映った。


「な、なんだこれは?」


「起動したんだ。中から外が見えなければ操縦ができ…

 あ、そういえばこれ、操縦法を知らないな私」


「おいいいいいいい!」


ダーハラトが怒り出そうとしていた時、彼の向こう側、セレステの左側にアリメカリセスが現れた。


頭だけで。


「マイロード、ついにこの子をお呼び出しになりましたね」


「うわああああ!」


異形頭である彼女に慣れてはいたけど、こうしてその頭だけで現れると、ダーハラトの強靭なメンタルでも耐えきれなかったか、思わず普段の彼からは想像もつかないような絶叫を上げていた。


「うわ、びっくりしたあ。

 いや、ダーちゃん?そこまで叫ばなくてもな?アリメだよ?」


「だ、だ、だって…か、か、体が…」


本当に度肝を抜かれたのか、彼らしくなく噛みまくっているダーハラト。


「もともと頭と体、繋がってないじゃん。

 なあ、アリメカリセス?」


「…左様ではございますが…

 メンゲン卿のメンタルを、少し案じて差し上げてください、マイロード」


驚かせた本人が心配してくれて、『友達』というやつは全然気にもしていない。

この状況をどう受け入れるべきか、百戦錬磨の軍人であるダーハラトとしても、判断がつかない状況だった。


「で、こいつの操縦補助、任せられるかな?」


「少々お待ちください。

 この子のコントロールは私ではなくあの子が…

 おかしいですね。もう来ているはずなのに。

 ヤルデマラセナ?聞こえていますね?」


‐シーン


ここにいない誰かに話かけるアリメカリセスだったが、誰も答えない。


「…ええと、アリメ…まさか?」


「そのまさかですが…

 穏便な方法では、起きてくれなそうですね」


そういいながら頭の下に体を出現させるアリメカリセスを見て、ダーハラトが「ひいっ」と小さく悲鳴を上げるのを聞いて、『こいつ、ちびってないか?』とセレステが心配になる瞬間のことだった。


‐ゲン


「やい、ヤルデマラセナ!このクソ弟が!

 せっかくマイロードが呼び出してくださったのに、寝てやがる!

 早く起きないと、ベッドの下のエロ本、ぶちまけてやるからな!」


普段の彼女からは想像もできない罵詈雑言を吐きながら、コクピットの床面(今は起き上がって壁面のようになっているけど)を執拗に蹴り飛ばす彼女をみて、さすがのセレステまでもが引き気味だった、その時だった。


*あーわかったよ姉貴!起きた!

 そんなに怒ってばかりでいたら、厚化粧にひびが入るよ~?*


「ぬわんですってぇ~?」


機内スピーカー…と思しき所から呑気な青年の声が聞こえてきて、アリメカリセスといがみ合っていた。


「…だれ?」

一度更新時間がすれてしまったら、まるでドミノのように…

来週からは、0時更新を守っていきたいと思います。


読者の皆様、お楽しい週末になりますように!

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