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なんだ、男か

「閣下が私をお茶にお誘いになるなんて、珍しいことですわね」


セレステが待っていたガゼボの椅子に腰掛けながら、ビアラ夫人が言った。


「なあに、別に変わったことでもないじゃないですか。

 いい天気ですし、外で一服、と言うのも悪くないなって」


「ええ、確かに。

 最近、結構お忙しかったでしょうね。

 たまにはごゆっくり休まれるのもいいでしょう」


「そのついでに、と言うのもなんですが。

 甘いものがお好きなのかはわかりかねますが、いかがですかな?

 お茶の供に、地球の甘味でも」


「お言葉に甘えて、いただきましょうか。

 セリアネ、準備を」


「はい、奥様」


二人の茶会に付き添っているのは、メイドではなくビアラ夫人の侍女であるラグドールフェリノイのセリアネ・アドリエで、ビアラ家の分家筋にあたるビカリ・アドリエ家の令嬢だそうだった。


「アドリエ嬢も、相席はいかがですか?ビアラ夫人」


お茶を入れて、茶請けの甘味を盛り付けるだけで済むから、ずっと夫人の後ろに侍立させておくのも悪いと思ったセレステがそう聞いてみたら、夫人も快く同意してくれた。


「それがいいですわね。

 セリアネ、お茶の用意ができたらあなたも座りなさい」


「奥様、私は大丈夫です」


貴族令嬢とはいえ、基本的にビアラ夫人に『付き添う』立場で、自分よりずっと身分の高い二人との相席はひとまず遠慮するのがエチケットだとラインバルトから聞いたことがあるから、セレステはここは少し無理やり座らせる形を取ることにした。


「君が立っていると、気が散ってせっかくの甘味がちゃんと味わえなさそうだ。

 さあ、遠慮せず座ってくれ。みんなには配っていない、特別なお菓子もあるぞ?」


「セリアネ、閣下がここまで仰っておいでです。

 従わないほうが、不敬になりますよ?」


「では、お言葉に甘えさせていただきます」


少し困ったような気配がないわけではないが、顔にも言い方にもそんなそぶりは見せずに、ビアラ夫人のそばのやや後ろ、いつでも立ち上がってお茶を淹れたり、テーブルの片付けができる位置に椅子を引き出して座るのをみて、なるほど、あれが生まれつきの貴族というものか、とセレステは感心していた。


「地球産甘味にも色々とありますけどね、アレルギー…食物拒否反応の可能性があるので、できるかぎり安全そうなのを用意してみました。

 ひとまず…チーズタルトとロールケーキ。

 すまないな、アドリエ嬢。ロールケーキの切り分け、頼めるかな?」


二つ返事で起き上がり、ロールケーキと一緒に差し出されたプラスチックのケーキナイフをみたアドリエは興味深そうな表情になった。


「これは…」


「ああ、それか。プラスチックという素材だ。

 金属製より安全で、安いから使い捨てもできる。

 もちろん繰り返し使ってもいいしな」


「あら、ガラスのナイフだなんて、おしゃれだと思っていましたわ」


アドリエが持っていた、透明なケーキナイフを見ていたビアラ夫人が言った。

確かに、透明プラスチックにはガラスの代用という用途もあるから彼女の感覚は間違っていない。


「それは確かに。

 さあ、前置きはそれぐらいにして、召し上がってみませんか?」


自分の前に出されたロールケーキの一切れを、フォークで一口大に切って、優雅に口にした二人の瞳が一瞬大きく見開かれ、次の瞬間とろけるように細くなるのを、セレステは見逃さなかった。


『うん、ネコ科はやっぱりあれがいいんだよな〜』


と、二人が聞いたら引いてしまいそうなことを考えているセレステだったが、そんなことは知るよしもないフェリノイの二人はロールケーキの味に感心していた。


「程よい甘さのクリームもさることながら…こんなにふんだんに使われたなんて、結構高価な、高級のお菓子なのでしょう?」


生クリーム自体、泡立て器で根気よく混ぜ続けなければならないので、ミキサーがない時代には作るのが非常に困難なものだった。

だから、ビアラ夫人が高いものだと考えるのも無理はない。


「確かに、このクリームの作りなどに体力が要りますから、お菓子の職人はお逞ましい方ではないと向いていないと聞いたことがあります」


「地球ではミキサーなど…機械で作るからそんなに筋力は使わないけどな。

 まあ、でも体力と根気が必要な職業というのは間違いないだろうね、パティシエって。

 あ、お菓子職人のことです。

 こちらでもパン職人とお菓子職人が区別されていますかな?」


「あら、そうですの?

 普通、パン職人がお菓子も作っていますけどね」


ビアラ夫人が、お茶を一口飲みながら言った。

そういえば、トゥシタ…少なくともフェリデリアに紅茶はないようだけど、乳製品のお菓子とは合わないのでは?という気がしたが、とりあえずないものはないもの。考えたってしようがないことだ。


『でも烏龍茶は受け入れられていたし、お茶の産地に提案してみようかな?』


また産業になりそうなことを考えているセレステをよそに、こんどはチーズタルトにフォークをいれたビアラ夫人が、また驚いた表情をした。


「あら、こんなに濃厚なチーズの味がするクリームだなんて。

 どれもこれも上品な味ですけど、こんなにクリームが使われているなら…

 服のサイズに気をつけなければならなそうですね」


「ああ、確かに。

 では、お口直しにこんなものはどうでしょう?」


セレステが小さい袋を一つ取り出して封を切ると、アドリエがすかさず小皿を用意してセレステの方に渡した。その手際の良さに感心しながら、出された小皿に袋の内容物を盛り付けて、二人に差し出した。


「あら、綺麗なお菓子ですこと。

 これはなんでしょう?」


「オレンジピールという、砂糖漬けのお菓子です」


オレンジの『皮』だということは、一応伏せておくことにした。

元はというと、オランジェットを買う気であったが、地球の動物にはチョコレートは毒だったので、アンテロが食べてもいいか確信がなかったからオレンジピールにしたのだった。

ちなみに、貴族街でジュースを振る舞った時にわかったことだが、フェリノイにシトラス系の香りに対する拒否感はないようだった。


「オレンジ…確かに、南方の果物「オランエ」に似たものでしたっけ?

 それをどう砂糖漬けにすればこうなるのでしょう…あら、面白い食感ですね」


一口噛んでみたビアラ夫人の感想から、多分気に入ったようだった。


「でも砂糖漬けだなんて…これもまた、結構お高いお菓子ではありませんか?」


アドリエの感想だったが、地球でも砂糖が高級品だった時代はあった。

香料も砂糖も、とにかく山盛りにかけて財力を誇るのが貴族の道楽だった時代もあったけど、今では安価になって、健康の敵とされているのが時代の流れというべきか、苦笑を禁じ得ない。

このオレンジピールと、オーストリアのあのスミレの砂糖漬けも、大体はその砂糖が高級品だった時代の名残とも言えよう。


「うむ…まあ、安いとはいえないものですけど、だからと言ってそこまで高いものでもないんですね。そもそも他のお菓子の材料として使われるものですし」


「これがですか?これだけで既に完成しているように見えますのに?」


「まあ、その分、地球人の舌は肥えていると言うべきか…」


驚きを隠せないアドリエの反応に、改めてそう感じるセレステだった。

トゥシタに、いや、同じ地球でも近代までの時代に比べて、現代地球人はどれだけ豪華に生きていて、その舌はどれだけ肥えているんだろう、と。


「社会が豊かになっていくほど、舌も肥えてくるのでしょう。

 閣下の公社が広めているあのおやつも、そうなんでしょう?

 それはそれで、閣下…」


「なんでしょう?」


「ラインバルトと、ロデリック兄弟に進学をお薦めになったと、聞きました」


「あ、はい」


進めたというか、兄弟の方は既に始めているけど。


「使える価値を高めるためとはいえ、使用人にそこまで配慮する雇い主はいないでしょう。

 …ありがとうございます」


ビアラ夫人からのいきなりの感謝に、流石のセレステも驚いて慌てた。


「え?なんで?ビアラ夫人?なんで夫人が?」


「彼らを見ていると、孫のように思える時がありますわ」


と言ってセレステをみるビアラ夫人の目が、笑っていた。


『あなたも、彼らのことを息子のように思っているんでしょう?』


「いやまあ、ラインバルトくんはダーちゃん…

 じゃなくて、親友のメンゲン卿の甥だから、いつまでもこの家の執事ではいられないでしょう?ですから…」


「あの兄弟も、でしょう?

 彼らの素性も気になって、あのまま放っては置けないと…」


「…参りましたな、これは。

 何でもお見通しですか、夫人には」


「年を重ねますと、人を見る目は冴えてきますもの」


「いやいや、お年とはとんでもない。

 まだまだお若く、お美しいままですよ?」


「あらあら、お上手ですこと。

 でも、こんな年寄りを口説いてもねぇ」


まるでキツネとタヌキの化かし合い(*地球式表現)のような光景に、そばで見ていたアドリエが自分はまだまだ未熟だと、痛感していた時のことだった。


「放せ兄貴!オレはな、あの菓子パンが…どこから来たものか知りたい!」


「いやだから!ダメだって!」


「さっきのメイドに聞くだけだよ!何がいけない!」


「だって、お前のようないかついやつに聞かれたら…」


「ぬわんだとぉぉ!?」


何かいざこざしている2匹の巨大猫…もとい、二人のフーラニの大男。

ガルカンたちが、何か揉めていた。


「あら、なんでしょう」


「そうですね…

 お二人はそのまま、お茶を続けていてください。

 私が行ってみましょう」


そんなのは一々自分で確かめなくてもいいのでは、と言い出そうなビアラ夫人だったけど、別に止めはしなかった。セレステなら自分で確認したがるだろうとわかっている上に、既にラインバルトと男性使用人たちが制止に入っていたからだ。


「なんの騒ぎだ!ここがどこだと思っている!」


「ら、ラインバルト様!

 す、すみません!こいつが言うことを聞かなくて…

 す、すぐ静かにさせます!」


「『様』はやめろと言っただろう!

 この屋敷で『様』をつけていいのはお館様とビアラ夫人だけだ!」


「え?そうだったの?

 知らなかったぁー」


すごい剣幕でガルカンを怒鳴りつけていたラインバルトも、ガルカン本人も、予想もできなかったセレステの能天気な声が聞こえてくると、慌てふためいた。


「「お、お館様!?」」


「うん、わしじゃ。

 …って、これじゃないな。

 どうしたのだ?お菓子のことで揉めていたようだけど。

 足りなかったか?まあ、二人の体格を考えれば流石に…」


「いや、そんなことじゃ…」


「すまん、すまん。育ち盛りの男の子は、よく食べるもんね〜うんうん。

 ラインバルト、もっと用意してあげないか?

 もてなしがなってない家だと噂されては君の面子が…

 うん?なんだ?」


ダラダラ言っていたセレステが、目元を片手で覆い、マズルに皺を寄せてため息をついているラインバルトに聞くと、ラインバルトが後ろを指差しながら言った。


「お館様、後ろ…」


「??」


怪訝そうに後ろを向くと、そこにははわわと怖がっているガルカンと、その横で怒りでワナワナ身を震わせているガルカンのおとうー


「オレは女だァぁぁ!誰が男の子だってぇ!?」



……

………

…………は?

また、連続で遅刻更新…

でも、週5回更新だけは必ず守らせていただけますので、どうぞお読みになってください!

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