表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/89

地球産スイーツ

「お帰りなさいませ、お館様」


自動車から降りて、エントランスに入るセレステをラインバルトが迎えた。


「ああ。私がいない間、何かあったか?」


「はい。公社からの緊急要請がありました」


 ‐ ピタッ


セレステが、その場に止まった。

初めての決算報告があったのが二十日ぐらい前のことで、その間スプラ・ヌベスの開場とか魔術学校訪問とか色々あって公社の方には顔を出していなかったのだ。


「緊急要請…何かあったのか?」


「はい。

 商品が底を突きかけているので、至急補充をお願いします、と」


「…は?」


前月の売り上げを元に、今月の初めに余裕を持って前月対比50%を増量しておいていた。

それなのに、月末までにまだまだというこの時点に、底をつきかけている?


「…右肩上がりにもほどがあるのでは?」


「それが…

 販売ルートがだんだん拡大されつつあるとの報告でした。

 先月までは王都と隣接している地域を中心に展開していましたが、遠くの地域にも広まっていると」


「…これは税務大臣の夜這いアタックに気を付けなければな。

 在庫補充要請の件、了解したと返事してくれ。

 地球に行って来よう。

 この勢いだ、新製品を投入して売り上げに火をつけてやるか」


おやつの方も、ペットシャンプーやブラシもこちらに紹介していないものはまだまだある。

少しずつ種類を増やして、高級化していく戦略を持っていたからだ。


「じゃ、行ってくるわ。

 あ、ガルカンの弟が兄に会いに来たようだから、面倒みてやってくれ」


「かしこまりました。

 いってらっしゃいませ」


そのまま地球のマンションに戻ってみたら、猫たちはさっきトゥシタに行った時と同じ場所で、そのまま寝転がっていた。


「まったく、呑気なやつらだ。

 でも時々羨ましくなるな~何もしないで、食っては寝て、遊んで、また寝て。

 出来れば私も来世は飼い猫に生まれ変わりたいもんだ」


 ‐ みゃー


天城の気配に気づいたか、ベッドの上で寝ていたノルガーが目を開いて、小さい声で鳴いた。


「おお、ごめんなさいねー

 気持ちよく寝てるのに、パパが邪魔した?ごめんごめん」


天城が一人で言っているのを聞いていたノルガ―は、『何を言っているのかな』と言いたげな表情であくびをし、寝ころんだまま伸びをして、ころんと向き直ってまた眠りについた。


「あんな小さくてかわいい子があちらではな…」


もう20歳を過ぎて、結構弱弱しくなっているノルガ―だから、ラシオンに続いていつ旅立たれてもおかしくはないと、切ない気持ちでいたんだが、トゥシタに立派な美青年フェリノイとして転生していることがわかってからは、少し晴れた気分で過ごせるようになっていた。


「だからといって、すぐには旅立つなよ。

 こちらのお前たちもまた、大事な大事な私の子供たちだから。

 少なくともあと十年は、頑張ってくれよ?」


天城はトゥシタで着ていたセミフォーマルな服装から普段着に着替えて、寝ている3匹をしばらく撫でてやってからマンションから出てきた。トゥシタでは公的な外出のため、礼装とまではいかなくてもそれなりに着飾っていたが、地球に戻って来ては少し気楽な服装にしたいからだった。

そんな天城が行きつけのペットショップで必要な製品を買いそろえて、マンションに戻ってくる途中だった。


「あ…こんなところに洋菓子屋があったんだ」


久しぶりに近所の散歩を兼ねて少し遠回りにしてみたら、洋菓子屋が目に入ってきた。近所といえどマンションから離れたところなのであまり来ない所にあるからか、でなければ最近開業した店だからか、ここにこんな店があることに気づいていなかったのだ。


「せっかくだから、なんか買っていこうかな。

 屋敷の皆と公社に差し入れとか」


              ***


マンションに戻って来た天城は、こちらでの仕事を処理して、寝覚めした猫たちにおやつをあげ、遊んであげて撫でた後、また『セレステ』に着替えて、ゲートでトゥシタの屋敷の執務室へ移動した。


「さて…と… 呼び出し機が…

 あ、あった」


ラインバルトとロノヴァールには、無線呼び出し機を持たせている。

最初はもう何人かに持たせようかとも思っていたけど、『他の使用人は二人を介して呼ぶのがしきたり』とビアラ夫人に言われてそのまま従っているのだ。

…もちろん、ビアラ夫人にも持たせてない。こちらは逆に、使用人扱いしてはいけないからだ。


ラインバルトの呼び出し機をポチッと、押した。

彼には公社の管理を任せているから、普通のことなら彼が処理してセレステに報告するようになっているけど、この商品の補充のように、セレステがやらなければならないことがある。補充要請はラインバルトを経由して聞いたから、後で知らせるだけで済む気もするが…何か、知らせるタイミングのずれで混乱が生じては困るから、地球から戻ってきたことと、公社に補充に行ってくると知らせておく必要がある。


「携帯中継局があったらいいけどな〜いくらなんでもそこまでは期待できないか」


そんなことを呟いていたら、執務室の近くにいたのか、すぐノックする音が聞こえた。


「お館様、お戻りになられましたか」


「ああ、入れ」


部屋に入ってきて軽く礼をするラインバルトに、セレステが話しかけた。


「何か…はなかったんだろうな。こちらではまだ1時間も経っていないし。

 ロデリック兄弟は、今授業中だろう?」


「はい。今すぐ公社に行かれるなら、レーテスを連れてきましょうか」


「いや、ゲートで行ってくる。

 君も同行するか?商品の補充以外に特にないなら、私一人でさっさと済ませてくるのもいいけど」


実用的に考えればそうなるけど、ラインバルトの表情からすればそうも行かないようだ。


「お供させていただきます。

 お一人で向かわれるなど、あり得ないことです。

 管理を任された身として、報告事項があれば聞いておくべきです」


貴族家の当主が、お供もなく一人でぶらぶらするのは家格に関わる問題だとか、確かにそんな話を聞いていた。普段は護衛を兼ねるレーテスがドライバーとして同行しているから気にしていなかったけど、授業中の彼の邪魔をしないとセレステが言ったから、その意向に従い、執事である彼が同行する目的もあるとのことだった。


「別に襲われるような心配はないと思うがな」


「お言葉ですが、こればかりは私たち使用人のプライドに関する問題なのです」


そこまで言われると、言い返す気にもならない。


「わかった。では行こう」


ゲートの先は公社の正門前と設定した。

公社長室にダイレクトに、ということももちろん可能だけど、いきなり踏み込まれたらルイナの心臓に悪いだろう、と思ったからだった。


「公社長風情が、お館様のお出ましに心の準備などと申すのは、確かに差し出がましいことですが」


「じゃ、真夜中、君一人の隠密なハッピータイムに部屋にお邪魔してもいいかな?」


「…悪うございました」


ゲートで公社の前に転移したら、ハッピータイムどころの騒ぎではなかった。

警備は尻餅をつかんばかりに驚いては、大慌てで中に知らせ、転がるようにして正門の外にまで出てきた接客担当に案内され公社に入ったら、公社長のルイナが大慌てで2階から降りてくるところだった。


「セレステ閣下!お越しになると連絡でも下さったら…

 おい!お茶の準備を急げ!」


「ああ、いいよ。

 商品の補充にきただけだから、倉庫に案内してくれ。

 そして、商品以外に渡しておくものがあるから、何人か連れてついてきたまえ」


「は、はい!」


新しく建てたという公社の倉庫には、公社の私設警備ではなく、王室から派遣された警備隊の正規兵力が警備に当たっていた。

元々王家の発案による専売ではあるけど、警備を厳重にするべきだと財務大臣が強力に主張していたとか。

だから、セレステを見て敬礼しようとするのを、手を上げて制止した。


「ご苦労。ここは商業地区だ。騒ぎ出すのは良くないだろう。

君たちにも差し入れがあるからな、交代を楽しみにしていてくれ」


「は、はい!」


警備に労いの言葉をかけて倉庫に入ってみたら、緊急要請したのも言い過ぎではないらしく、ガラッとした倉庫の中には商品がわずかしか残っていなかった。


「…先月対比5割を増してあったっていうのに…もうこれか。

 商売繁盛はいいけど…いや、怖くない?」


「いいえ、そんなことございません!

 今も、地方の領地から問い合わせが後を絶っていません」


「そうか…あ、ちょっと下がりなさい」


セレステがルイナと話しながら商品を詰めた保管用箱ごと複製して行くと、公社の職員たちが運んで倉庫の棚に積み上げて行った。


「とりあえず倉庫いっぱい用意しておくけど…

 この勢いじゃ、またいつ在庫がなくなるかわからないな。

 念の為、テンゲルにも予備の在庫を作っておこう。

 ホテルで消費する分も、あそこに別に用意した方がいいな?」


「は、願ってもないことでございます」


「そして、今回は新商品を追加した。

 保管箱で区分しておいたからすぐわかるだろう。

 新しい味への客の反応を、ちゃんとチェックしておくように。

 包装の回収は、ちゃんとできているな?」


ビニル系の包装はまだゴミとして処理できる施設がないから、回収してゲートで消滅させることにしていた。

客の方から自発的に回収してくるようにするためにー


「はい。閣下の仰った通り、包装10枚あたり1個の比率で交換してあげたら、9割以上が回収できました」


一種のポイント制を導入して、自発的に回収してくるようにしていた。


「ふむ…残り1割が気になるが、それだけでも上々かな。

シャンプーの方も、詰め替えの方を薦めたり、容器を返納したら5分引きするよう、工夫するように」


「はい、かしこまりました」


「商品の詰めはほぼ終わったみたいだな。

 誰か、トロリーかトレイがあれば持ってきてくれぬか。

 公社のみんなに、差し入れがあってな」


「おい!早くトロリーを準備しろ!

 って、さ、差し入れですか?」


セレステが言うと、ほぼ反射的に反応したルイナは、職員に指示を出してからその次のセレステの言葉に気づいた。


「ああ、君たちの務めへの労い…と言うのもなんだがね。

 仕入れに地球に行ってくるついでに、甘味スイーツをちょっと、だ。

 お茶の供にでもすればいい」


「いや、当然なことをしたまでと言うのに、異世界の甘味とは勿体無い!」


あまりにもかしこまっているので、セレステは大したものではないと言ってあげようかとも思ったが、それは言わないことにした。


「頭を使って疲れた時に、甘いものが効くのだ。

 みんなで食べて元気を養い、もっと励むように!」


「ははっ!」


身分制社会だから、一層上から目線で言ったほうが受け入れられやすいかもしれないと思ったからだ。


「では、我らがいてはみんな気軽に休めないだろう。

 ここで帰らせてもらうぞ」


職員たちがいそいそと持ってきたトロリーに公社の人数分以上の甘味の箱を出しておいたセレステは、そう言い残して屋敷へのゲートを開いて、ラインハルトと共に潜りながら言った。


「か、閣下!?」


              ***


「さーて、ラインバルト?

 屋敷の皆とも分け合おうではないか、この甘味」


「使用人のみんなにも…ですか?」


「ああ、メイドたちにお茶の準備を頼んでくれ。

 私のは庭のガゼボに。

 ビアラ夫人には、よろしければご一緒にどうぞ、と伝えてくれ」


「かしこまりました」


「あ、そういえばガルカンくんの弟、まだ応接室にいるのかな?

 ちょうどいい。彼にも出してやれ」


それを聞いたラインバルトがちょっと困ったような顔をしたが、すぐ返答した。


「彼らなら…応接室は恐れ多いと言って、ガルカンの宿舎に行きました。

 そこに持っていかせましょう」


「あ、そう?

 まあ、そこまでかしこまなくてもいいのにな。

 わかった、そうしてくれ。

 甘味はガゼボに出しておくから、お茶を運びにくるついでに持って行くといいだろう」


天気のいい日だし、久しぶりにビアラ夫人と呑気におやつでも楽しもうか、それしか考えていないセレステだったがー


まさか、あんなことになるとは、この時誰も予想もできていなかった。


ものすごく遅くなってしまいました。

読んでくださる皆様に、もうしわかございません!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ