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オレ、参上!

「順調かね?最近の売れ行きは」


王宮での会議の後。

メインフレームをテンゲルのブリッジに戻したセレステは、屋敷の執務室へ転移して、ラインバルトを呼び出した。

ルイナに任せておいた専売公社や、自動車研究所、そのほか地球産の技術を研究させているいろんな事業分野の管理はラインバルトに任せているが、最近は色々ありすぎて報告を聞いていなかったのだ。


「はい。

 自動車研究所からは、性能向上仕様の報告が入っております。

 名付けて『セレス2式』とか」


「…そのネーミング、どうにかならないのかな」


『大セレステ号』と名付けるのだけはなんとか阻止できたが、『セレス2式』というのも、恥ずかしくないわけがない。


「電気製品研究の方は?」


「はい。

 電気オーブンの研究は、まもなく成果が出そうです」


「ふむふむ。いいな。

 専売公社の方は?」


「それですが…」


その質問に、ラインバルトが少し言い淀むというか、どう答えればいいか言葉を選んでいるような気がしたセレステが答えを急かした。


「なんだ?売上に問題でもあるか?」


「いいえ、そんなことはありません。

 寧ろ、いまだに右肩上がりなんですけど…」


「では、なんだ?」


「偽物が出回っているとの報告でした」


報告するラインバルトの顔は、緊張で強張っていた。

当たり前なことだ。公社の主力商品の一つで、今では外国への輸出も絶好調のあのおやつ。

あれの偽物が出回っているとなると、これは大事件なんだからだ。

いくら大らかな性格のセレステでも、こればかりは怒らずには――


「へえ、そう?

 やっぱりか〜」


「…え」


怒るどころか、まるでそうなるとわかっていたとでも言いたそうな顔。

これでは、緊張していた方がバカバカしくなる。


「お、お怒りには?」


「怒る?なんで?」


「いや、偽物など出回られては…」


「ああ、それ?

 うん、もちろんいけないことだね。

 でもな、人気商品に贋物や模倣品が出てくるのは…

 地球では普通にあることだよ。

 別に、珍しいことでもない」


地球では普通にあることか。

ラインバルトとしては、驚くべき答えだった。

大貴族の、ましてや国家専売事業なのに、それの偽物を作るなど、この階級社会では摘発されれば大罪を問われかねない犯罪行為だった。

なのに、被害者であるこのお館さまは別に大したことでもないという反応だったからだ。


「まあ、流石に困ったことではあるけどね。

 一つ、当ててみようか?」


「当てるって、何を?」


「その偽物。

 平民街で出回っているんだろう?」


主のその答えに、ラインバルトは驚いた。

その通り、あの偽物は平民街を中心に出回っていた。

それを貴族街と平民街の境界線にある、商業地区で働いているルイナ公社長がキャッチして、報告してきたのだった。


「は…はい。

 その通りでございます。

 公社長から、別の報告がありましたか?」


「いや、そうではない。

 よほどのことではない限り、報告体系を無視してはいけないんだろう?

 報告がなくても、大体予想できることだ」


「そう…ですか?」


「うん。大体偽物ってのはね。

 本物を消費したいけど、お財布事情が厳しい連中を狙うものだよ。

 貴族ならメンツの問題があるから、偽物には手を出せない。

 うちのは地球産のものだから、あのパッケージは真似したくてもできやしないしね。

 それにだ――」


「それに?」


わざとらしく言葉を引くセレステに、ラインバルトは思わず乗ってしまった。


「…貴族の間でまで偽物が出回っていたらな。

 財務大臣が黙ってはいなかったんだろう」


「確かに」


聞いてみれば、納得のいく話だった。

しかし、『偽物』と聞いただけで、そこまでわかってしまうのか。

ラインバルトとしては、感心せざるを得ないことだった。

いつもはヘラヘラしてて全然締まらないヒトのように見える主だ。

それなのに、時々こんな、冴えたところを見せるから、油断できない御仁だと。


「だからと言って、放置するわけにもいかないな」


「もちろんでございます。

 関係各位に取り締まりを頼みましょう」


「うん?いや、そんな話じゃなくてな。

 ルイナに伝えてくれ。

 その偽物のサンプルを入手するように、と」


「はい。

 ……はい?」


「おいおい、まさか、耳でも遠くなった?

 若いくせに、ダメだろう。

 それに、お館さまに2度聞きする執事だなんて〜君らしくないね?」


まさにその通り。

ラインバルトは激しく、恥ずかしい気持ちになった。

それはそれは、両耳が後ろに倒れてしまうぐらい。

しかし、それぐらいセレステの指示は唐突だったのだ。


「全く恥ずかしい限りでございますが…

 今のご指示を、理解できませんでした。

 サンプルとおっしゃいますと…

 処罰の証拠ですか?」


「ああ、まあ…

 場合によってはね。

 とにかく、話は現物を見てからにしよう。

 どんなものなのかもまだわからないのに、処罰から考えるのは穏便ではないよ」


「…と、おっしゃいますと?」


「何、コンプライアンスとか、ブランドイメージ管理もあるしね。

 何より、平民にもたまには美味しいものを食べる権利ぐらいはあるんだろ?」


ラインバルトとしては、一体何を言っているのか、全然わからない話だった。


「コンプ…?」


「あ、ごめん、こっちの話。

 簡単に言えばな。

 その偽物を食べて腹を壊したり、体に悪い材料を使って病気になったりしてみろ。

 とばっちりを食うのは、関係のないうちの正品だ。

 その場合には、流石に私も許すわけにはいかない」


それはおっしゃる通りだ、とラインバルトも考えた。

だからこそ偽物を取り締まるわけだが。


「それは承知いたしました。

 しかし、『場合によっては』とおっしゃったのは?」


「ああ、それね…

 ううむ…あ、指示を変えよう。

 サンプルと共に、できればルーツを辿って、造った者を探してみろ、とな。

 官憲に頼んだら、取り締まりとか言って実力行使に出てしまうからダメだ。

 商人のルイナなら、『そんな』伝手もあるんだろうな。

 探し出せたら、私が会いたがっているから丁寧に連れてくるように、と。

 詳しい話は、それからだ」


「…わかりました」


何か考えがあるようだが、これ以上聞き出そうとするのは執事としてはあるまじき行為だ。

ラインバルトはとりあえず、セレステの指示に従うことにした。


「あ、文字通り『丁寧』にだぞ?

 おかしい誤解しては困るからな!?」


              ***


「――ということがあったんだ。

 やっぱりこの世界のヒトたちって、新しい技術の吸収力がすごいな」


屋敷での用事を終えてまたテンゲルに上がってきたセレステは、偽物のことをアリメカリセスに話していた。


「運航技術の習得も、早いかな?」


「南方諸島の件でしょうか」


南方諸島に行くということは、アリメカリセスにはまだ言っていない。

でも、彼女たち5次元の存在にとっては、『すでに起きたこと』であり、『すぐ起きること』だから知っていてもおかしくはない。

もちろん『未来のこと』を漏洩しないようになっている彼女たちだが、これぐらいは問題ないようだった。


「そうだ。

 長距離移動に一々テンゲルを動かすのも、どうかと思うしな。

 海上移動になるから、船でも用意してみようかな、とも思ったけど。

 安全とか移動速度とか考えると、この世界の船はちょっと、不安だし。

 でも、地球の船を持ってくるとなると船員の訓練とかに時間がかかるしな」


「そういうことだと思って、呼んでおきました。

 そろそろ現る時刻ですが」


「――呼ぶって、誰を?」


セレステが、嫌な予感に駆られるその時だった。


『イエーイ、マイロード!

 お久しぶり!』


ブリッジの内部スピーカーから、いかにも軽薄そうな若者の声が聞こえ、それと同時にテンゲルの横の空に切れ目が開かれ、そこから何か、巨大な物がその先端を出そうとしていた。


「…ストーップ!何者なのか大体わかる気がするが!

 いきなり出てくるな!そこで止まれ!いや!一旦戻って!

 アリメカリセス?あれも君の兄弟?」


「はい。

 全時空全環境対応機動艦艇・ガルーダ級旗艦、

 マイロードの足になる、弟のハルヌビラナダです」


何か色々とものすごい言葉が飛び交っているけど、セレステは考えることをやめた。

いや、旗艦ってなんだ!?


「うん、君たちのその次元を超えた悪ノリにも適応したと思ったけど…

 とりあえず!一応陛下に報告してから出てきてくれる?

 このまま出られては、怒られるのは私のほうだよ」


「わかりました。

 ハルヌビラナダ?一旦戻っていなさい」


『えー!?

 せっかく来たのに、めんどい』


なんだか、ラガネマパイサとヤルデマラセナを足して半分こにすればこんな性格になり出そうだな、と思いながら、セレステはツッコミを入れた。


「あのさ…

 君たち、こうなるとわかっていたんだろう?

 だということは、わざとやっているとしか思えないよ?」


『やべっ、バレた!』


何か、『艦』だと聞いてみれば、SFの宇宙戦艦の二つに分かれた先端のようい見える部分が、現れた亀裂へとそのまま高速後進して消えてしまった。


「…どこからどう見ても君たちの兄弟に違いないね。うん」


「恐縮です」


別に褒めているわけではないけど、一々ツッコんではこちらの神経がもたない気がして、セレステもやめることにした。


「とにかく、陛下に報告しに行くからな…

 君も一体、同行してくれ。

 …ちなみにだけど、あの子は…

 艦艇と言ったから、こんな言い方しても構わないな。

 全長何メートルだ?」


「はい。通常航行モード時、全長1kmです」


「……マ○ロスかよ…

 って、通常航行モードってなんだ!?

 いや、この間テンゲルが宇宙戦艦にもなれるのではと聞いた時…

 反応が微妙だったのは、あの子のせい!?」


「…」


今度は、何も答えないのが余計に怖い。


              ***


「父上?」


「はい、陛下」


「……確かに、何かやらかす前に言ってください、とは言いましたけどね…

 それ言った矢先にこれは、流石にないと思いませんかぁぁぁぁ!?」


「いや、それが…ね?

 私としても、不可抗力というか、全く予想外だったというか…

 この時間帯に現れるようになっていたようだったよ」


「なっていたようだったって…

 船が欲しいと言ったのは父上でしょう?」


「そう…だったね?」


「……その要望に応えて現れたとしか思えませんけど」


『おお、さすがラシオン陛下、正解!』


太陽光発電プラントの位置している、王都から少し離れた平野。

上空に巨大な物体が現れるとなると大騒動になるからといって、人里から少し離れたここに来たわけだが…そもそも、全長1kmもあるものが現れると、大衆の目につかないわけがない。


…実のところ、王都の皆さんは『セレステ閣下がまた何かやったな』としか考えていなかったので、全くもっての無駄足になっていたけど。

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