フラグ、折るべし
遅くなりました!申し訳ございません!
「…船が空を飛んでいるなんて…
というか、あれで船ですか?」
とにかく、空に滞空しているハルヌビラナダを見上げるラシオンの感想があれだった。
空に浮いている彼(?)のフォルムを見れば、そう考えるのも無理ではない。
普通に「船」と納得できるような形状でなく、ブロードソードの刃を縦方向に二等分したような形をした船体で、その後部中央にブリッジ思しきパーツがちょこんと乗ってある、いわば船というより二つの刀身を持った剣のようなフォルムをしていたからだ。
「まあ、慣れていないヒトから見ると、そうも思えるな。
宙飛ぶ船といえば、むしろあのスタイルが多いんだよ。
しかし…」
どうしても気になることがあるが、そこからはラシオン、一緒に来ているノルガーには聞いてほしくなかったので、セレステは試しに、心の中でアリメカリセスに話しかけてみた。
『ラガネマパイサの時は出来ていたけど…
アリメカリセス?聞こえるか?』
『はい。よく聞こえております。
なんでしょう、マイロード』
やはり、ダルカルヌピカを経由した擬似テレパシは、他の兄弟ともできるみたいだった。
『…あんな船体だから、たぶん…だと思うけどね。
あの二つに分かれた船体の間、粒子ビームの加速ブレード…か?
いやいや、いくらなんでもそれはない…な?』
『はい。スダルサナ粒子ビームの発振機に違いありません。
その出力は洗濯物を干す気持ちいい暖かさから、
2ペタWの破壊ビームまで、自由に設定できます。
最大出力では、小惑星も一発で破壊できます』
『…うん、聞かなかったことにしようね』
『船が欲しい』と考えただけなのに、なんであんな物騒なものがついてきたんだろう。
確かに、空飛ぶ船となると、テンゲルがそうだったように、気象の影響からも安全で、海難事故の心配もない。
だが…何あれ、空飛ぶところか、宙飛ぶ気満々にしか見えない。
「父上?」
「む?あ、すまん。ちょっと考え事を。
で、今度はちゃんと報告したからな?」
「…何か腑に堕ちない気もしますけど…
まあ、そういうことにしましょう」
少しは納得がいかないと言いたそうな顔だったけど、とにかく、今度はやらかす前に報告したと認めてもらえるようだった。
そう思ったセレステは、ラシオンを王宮に戻そうと話しかけた。
「じゃな、報告は以上だ。
仕事中に急に連れて来たんだから、忙しいんだろう?
ゲート開いてやるから戻り…」
「なんの冗談です?
試乗ってのがあるんでしょうが」
「は?」
お前こそなんの冗談だ…と言いたいところだったが、ラシオンは至って真面目な顔だった。
「それはもちろん、父上の家臣とはいえどですね。
ビカリ・テンゲリデの兄弟たちは、我々のどうこう言える存在ではないということぐらい――
わかっています。
でもですね、父上に仕える以上、我が国の所属であることに、違いありません。
それが、あんな巨大な空飛ぶ船となると――
文字通り、戦略資産ですよ?
そんなものを自分で確認しない王って、暗君ですよね?」
それはもちろん、国王としては真っ当な、当たり前な論理…
とも言えるような話だった。
しかし、セレステにはその向こうが見えていた。
「…要は、私が新しいおもちゃを手に入れたようだから、見物させて欲しい。
ってことだろう?」
「そうとも言えますね」
否定すらしない。
「全く、誰に似てこんな図々しい子に育ったよ。
まさか、亡き先王ではあるまいな?」
「さて、誰でしょう?
先王は、質実剛健で、下手な冗談など通じない寡黙なお方でしたから」
「ああ言えばこう言う。
わかったよ、一緒に乗ってみよう。
…って、どうやって乗るんだ?私も初めてだから――
えっ」
乗る方法を思案していたセレステの前に、SFチックな船内ドアが現れた。
「ゲートか?」
「はい。
マイロードと陛下の御一行には、直接ブリッジへお越しいただくために。
もちろん、普通にシャトルも備えています」
「そうか…
はい、陛下。お先にどうぞ」
わざとらしく、半ば揶揄うように芝居がかった仕草で先に上がることを勧めるセレステに対し、ラシオンも負けずに、真に受ける『ふり』をした。
「うむ。
卿の忠義、大義である」
そう答えながら真っ先にゲートを潜るラシオンをジト目で見ながら、アリメカリセスのそばに立っていたノルガーが、ぼそりと言った。
「バカ二人で、何やってるんだか…」
「殿下も、お入り下さい」
「ああ、そうさせてもらおう…」
ゲートをくぐった先は、空の上だった。
いや、正しくはそうではない。
床面以外の全方向に、空が映っていた。
普通、ゲートを潜ってこんな光景を目の当たりにしたら驚くんだろう。
しかし、今ここにいる三人はナクマのコックピットでこんな光景には慣れている。
だから、全方位スクリーンだと理解していて、驚くことは――
「おおおお、これはすごい!
ナクマのコックピットは視野は良くてもな――
流石に、窮屈な感じが拭えないんだ。
でも、ここは違うな!」
『でしょでしょ!
やっぱり、陛下はわかるんだなー!』
解放感と見晴らしにラシオンが浮かれているところに、いきなり軽薄そうな若者の声が聞こえてきた。
「む?誰だ?」
「ああ、さっきのあの声…
そういえば、自己紹介も聞いていないな?
君たちにとっては、旧知の知り合いだろうけどな。
少なくとも、私たちにとっては、初対面だ。
名前ぐらい、ちゃんと言ってくれないか?」
セレステのその指摘に、アリメカリセスも同意した。
「マイロードのおっしゃる通りです、ハルヌビラナダ。
時間軸の認識ぐらいは、ちゃんとしなさい」
『あ、そうだった。
この時間軸では、これが初対面だった。
わりぃ、マイロード!
じゃ、自己紹介、いきまーす!』
本当、ノリの軽いやつだとセレステが思っていた瞬間だった。
周りの光景がいきなり宇宙空間に変わると思ったら、なんかSF映画のOSTらしき音楽を轟かせながら、遥か向こうから光の尾と残像を曳きずりながらこちらに飛んでくる光が…
「待て待て待て待て待て待て!!!
PV流すのやめ!」
『え』
何か理解できないと言いたそうな反応ではあったけど、素直に動画は止まった。
「父上?いきなりどうしました?
それに、急に夜になったようですけど?」
ラシオンは、こちらに転生してから、こうした動画映像を見たことがない。
だから、外の光景を映していたスクリーンが、いきなり宇宙の暗い映像に切り替わると、夜になったかと勘違いするのも無理ではなかった。
…休暇の時、映画やゲームなどを結構見ていたノルガーは、それが何なのか大体察したようだけど、彼だって、宇宙の映像はまだ見たことがない。
つまり、どう説明すればいいのか困る映像が流れていたのだ。
「…ねえ、ハルヌビラナダくん?
自己紹介しなさいっていったのに、自分のPVを流すやつがどこにいる?
いやそこまではいいとして…
いきなり宇宙か!君、空中戦艦じゃなかった!?」
『えっ、「全時空全環境対応機動艦艇」っていったじゃん。
宇宙どころか、時間の彼方までひとっ飛び…』
「はいいいいい!そこまで!」
ラシオン兄弟には聞かせたくない、そんな内容だったので、セレステは慌てて遮った。
『時空航行とか、小惑星を撃破できるビーム砲とか!
もうなんなんだこいつぁ』
過剰戦力にも程がある、と自分に言い聞かせながら、セレステは仕方なく、自分で紹介することにした。
「ま、まあ…
この子って、自分の世界である5次元とこの3次元の区別が、うまくいかないようだからな。
私から紹介させてもらおう。
ガルーダ級全環境対応機動艦艇・ハルヌビラナダだ。
艦艇の姿をしているけど、アリメカリセスの弟だそうだよ。
そうだな?アリメカリセス?」
「はい。
マイロードの足となるべく、呼んで来た次第でございます。
この姿も真の姿ではありませんので、必要に応じて他の姿にもなれます」
「だそうで…え?
何もこの大仰な姿で現れる必要はなかったってこと?」
「はい」
『だって、かっこいいから』
「はああ…」
このお茶目を、どうすればいい。
額に手を当てて頭痛を堪えるセレステを見て、ラシオンとノルガーは奇妙な既視感を覚えていた。
…大体、セレステのお茶目で頭痛くなる経験をしていた二人だから。
『いい気味だ、と言いたいところだけどな』
『兄上も、他人のことは言えませんよ?』
「…とにかく、だそうです…
色々とありそうですが、確かに移動手段としては有用そうですから…
……いや、だから!そういうことだよ!以上!」
「いや、どういうことなのかわかりませんけど」
「兄上、そこまでにしましょう」
珍しいことに、ニヤニヤ笑いながらセレステのことを揶揄おうとするラシオンを、ノルガーが止めていた。
「要は、テンゲルを動員しなくても長距離移動ができて…
物凄い量の荷物を運ぶこともできる、ということだよ。
だな?ハルヌビラナダ?」
『もちろん!
いざとなると、人口2万の街一つぐらいは運べるって』
『いや、本当にマ○ロスかい!』
そう突っ込みたいのをかろうじて我慢して、セレステはできる限り他の話題へと持っていこうとしていた。
「だから、まず今回の南方行に投入して成果を上げて見せるのが先だよな。
色々とおかしいところを見せたり、おかしい話を聞かせたりしたけど…
多分な?この世界では使い道のない、過剰な機能だよ。
私だって知っていて困るぐらいだから、お前たちも聞かなかったことにしてくれよ。
あんな機能、使うべき日が来ない方が、この世のためだよ」
最後のくだりは、本気でそう思っていた。
あんな機能を使わなければならない相手って、宇宙からの侵略者か、隠れていた古代文明が戦争を仕掛けてくるような、SF界隈の話だ。
いや、すでにファンタジーかSFかの区別すらできない世界に来ておいて、そのうえあんなことが起きないようにと願うのもどうだろう、とは思うが、流石にあんなことは起きない方がいい。
フラグかもしれないが、あらかじめそのフラグごと折っておきたい。
万が一、小惑星が落ちてくることぐらいはあるかもしれないけど。
「この間までなら、大袈裟だと思っていたけどな。
最近、父上の周りに起きる一連のことを考えると…
わかりました。注意しましょう。
ノルガー、お前もわかったな?」
大切な家族である上に、このフェリデリアにとって、今では国家最重要人物と言っても過言ではない位置に立ってしまったセレステ。
そんな彼に新しい力が加わるたび、どこか自分たちの理解の及ばない世界へ行ってしまうのではないか。
ふとそんな不安が脳裏を過ったラシオンは、先ほどまでの軽口も忘れ、自分に言い聞かせるようにノルガーへそう告げた。




