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充電開始

「で、肝心の動力なんだけど――」


とにかくドワーベンのことを知っている二人、ラシオンとノルガ―にだけメインフレーム奪還のことを報告したセレステは、イーシャ王妃や他の大臣には見つからないよう、そのままテンゲルのブリッジへ転移してきていた。

特に用務がない限り、セレステとアリメカリセスたち以外の人員は出入りしない所だから秘密を維持できると思ってこちらに来たわけだが、いざ一人になるとなにをどうすれば起動できるのか、全然思い浮かばないのが問題だった。


「しかし、見かけより軽いな?」


バスケットボールサイズの金属球体だから、結構重いはずだった

中に金属がみっしり詰まっていないとはいえ、これがコンピューターだったら色んな部品が詰まっているはず。

しかも、一応はこれも『金属生命体』の一つだ。中が空っぽなはずがない。

まさか『量子コンピューターだから中身空っぽでーす』とかいう、ふざけたことでは…とも思ってみたが、実際の所、セレステは 量子コンピューターがどんなものか、見たこともない。

というか、これがドワーベンの『肉体』とも呼べるものだ。

コンピューターという前提そのものが、間違っているかもしれない。


もしかしたら、『水槽の脳』というやつ…


「脳ですか?そんなもの、私たちにはありませんよ?」


「え」


しかし、UT10102に聞いた時、戻って来た返答はあまりにも意外なものだった。


「私がいま使っているこの腕時計型ボディの、どこに脳が入ります?」


「あ」


そういえば、とセレステは思った。

ガストとシュバデンケ、の関係から集合意識のことは理解していたが、その意識と集合意識を『保存する』装置が必要だと、当り前のように考えていたのだ。

そう、それを必要としない存在であるUT10102が傍にいるにも関わらず。


「じゃ、この中には何が?」


「主に管理する生産施設とののコミュニケーション機能ですね。

 デミガストが入っているだけの、単純作業を行う個体を制御するための」


「あ、私につけてもらったあの子らのような?」


「はい」


『あの子ら』とは、先日華麗なデビュー戦を披露した、セレステの護身装備のことだった。

最初は、護身用装備が必要かも、という単なる思い付きだった。

だからと言って、素人がライトセ〇バーや光線銃など扱えるはずもない。

それに、そんな超兵器がもし良からぬ輩の手に落ちたら洒落にならない。

ということからー


「ファ〇ネルだ!」


「…それ、色んな理由で無理です」


と、アリメカリセスに散々ダメ出しされた挙げ句。

その『色んな所』で妥協した結果―――


レーザー発振器はリュックに内蔵。

同じくリュックから射出される自律浮遊反射鏡で反射して敵に照射する。

セレステ本人は、攻撃目標を指定するだけ。


という、まさしく『あれ』に落ち着いたのだった。


でも、生まれてこの方アースノ〇ドのセレステが『あの能力』に開花したわけでもないから、何とかならないか思案していたら、ドワーベンから『デミガストを提供します』という申し出があったのだ。


最初は『アインガストの護衛が務めるならガストを何体か差し出します』とまで言ったけど、さすがにそこまでは困ると難色を示すセレステに、『自意識のない、命令された作業だけを行う』、人間で言えば、単純作業だけを覚えた作業動物、という感覚のデミガスト20体を付けてくれたのだった。

その20体のデミガストをセレステと同調させ、アリメカリセスたちが反重力や光学迷彩など、チート機能を惜しみなく付与した反射モジュールに搭載して、先日のあの『目に見えない攻撃』ができるようになっていたのだ。


「そうか…

 理屈は理解できた。

 そのデミガストって、ドワーベン製ではない機械にも入れるもんだったら…

 このメインフレームさえ目覚めさせれば、本当に、自動工場が運営できるようになるな?

 …もっとも、フェリデリアではまだそのレベルの工作機械はできていないけどね」


「その工作機械自体を、ドワーベンとして生産すれば済むまでの話ですが」


「え?」


ツッコミでも入れるかのように言ってくれるUT10102の発言に、セレステは一瞬ギョッとした。

そう言えば、地下でみた生産施設そのものも、ドワーベンの個体だそうだった。

工作機械その物を、ドワーベンとして産み落とすことは――できる。


「いや、でも、それでは便利過ぎるというか…

 有機生物の技術が発展しなくなるのではないか?

 君たちに背負わせる負担も…」


「便利過ぎたら、いけませんか?」


「…いや、そんなことは…」


特にない。


「先日、アインガストから頂いた新しい素体のサンプル…

 あれは、私たちにとっては、衝撃でした。

 シュバデンケの歴史の中で、あのような形態を思いついたことはありません」


ノルガ―との休暇で17セクターに寄っていた三日間。

セレステは、興味本位で地球から『男の子のロマン』であるロボットのオモチャを何個か持ってきて、それを等身大で実体化して、ドワーベンに提供していたのだ。

ドワーベンの素体のデザインがあまりにも『裸そのもの』だったから、将来のことを考えると衣服を着せるか、デザインを変えるかの、工夫が必要だと思ったあげく、もしかしたら、と思ってやったことだった。


「そのように、有機生物との共存で…

 私たちにも新たな可能性が開かれるかも、という結論を出しました。

 私たちによって便利な技術を手に入れた有機生物が――

 更なる改善を思いついてくれるかもしれません」


「なるほど…」


それは、盲点だった。

セレステは、あまり便利過ぎたら、自堕落して怠けてしまうとしか考えていなかったのだ。

しかし、実際はどうだ。

仕事に追われて疲れ切った頭では、きらめくアイデアは出せない。

仕事に余裕があってこそ、さらに便利な、さらに効率的な発想ができる。


『…なんてブラック企業みたいな発想をしたのだ、私。

 これでは…老害だよ!』


老いた猫たちのケアのため。

それと、あんな老害たちに幻滅して会社を辞めた自分だったのに。

いつの間にか、自分もあんな老害じみた発想をしていたのか――

と、セレステ――いや、天城大輝は震えあがった。


「そうか。

 異なる種族同士が助け合い、更なる高みを目指す…

 実にいい話だ。

 ――とそれっぽいことはいってみたけどね。

 どうすれば起動させるの、これ?

 動力の供給…どこからする?

 動力ケーブルのコネクターらしいものもないし」


「エネルギは、遠隔供給となっています。

 私たちのエネルギー源さえ近くにいれば、自動反応しますが」


「あのバッテリーみたいなもののことか…

 まさかこれで充電できたりは、出来っこないだろう?」


そう言いながら、セレステはポケットに持っていたスマホの充電バッテリーを取り出して、冗談のつもりでスイッチをいれて、無線充電面をメインフレームに向けた。


 − ドゥーン


「…あ?」


              ***


「というわけで、拾いました」


「「「「「「「「いやいやいやいや」」」」」」」」


次の日の、大臣会議。

すました顔で黄金の球体を公開するセレステに、宰相を始めとする大臣一同は激烈に否定した。


「お主、嘘も大概に…

 いや、軍務の、お主からきちんと言ってやれ。

 場は気にしなくてもよい」


「…はい。

 オーテル、殴るぞ?」


「なんでだ!

 陛下もなにか――

 陛下?」


『拾った』と口を合わせる約束だったラシオンは、そっぽを向いて知らんぶりをしていた。


「おのれ不孝行息子めー!」


そのセレステの肩を、大きい手が掴んだ。


「…曝け出せ、オーテル。

 陛下も、後できちんと聞かせていただきますから?」


「え、余も?」


「お前一人で逃がすか!!!!」


それから、セレステはこれまでのでき事を洗いざらい、ただし少し改竄して述べることになった。

ドワーベン目撃情報に興味を持ったこと。

ハーヤ・ナクマで一人で先行して偵察したこと。


「ほう?気づかれずケイレスの北方に行けるゲートですか?

 それは興味深い」


「外務大臣…」


王弟ノルガ―の休暇を称して、ドワーベンとの接触を試みたこと。

それが見事に成功して、彼らの地下都市――セクター17に招待されたこと。


「ずるい!私も行ってみたいです!」


「お、落ち着いて、魔術師長!」


そこで知ったドワーベンの過去と、フーマニタに受けた逼迫。

そこでカクカクシカジカでわかるようになった、フーマニタの勇者召喚の真実。

二人が休暇から復帰した後、王とシュバデンケが接触して親善の約束を交わしたこと。


「「「「「「「「陛下~?」」」」」」」」


「父上!!!」


そして。


「フーマニタの国の…

 ア…なんとか?だったか?

 とにかく、その連中に召喚されかけてね。

 間一髪で避けて、逆に乗り込んでやりました。

 どんな連中なのか様子見をして、ゲートで逃げました。

 後で再び、深夜の時間にこっそり行って…

 そこの王宮で見かけたこのメインフレームを、奪還してきたわけです。

 ついでに、召喚陣と道具も破壊して、しばらくは召喚もできなさそうですし」


奪還といっても、それ、あなたの物でもないでしょうが…

と呑気に考えていた大臣たちは次の瞬間、おかしなことを聞いたことに、遅れて気づいた。


「…おい、待てよ…」


「いま、何と?」


「…何を…破壊?」


余計な事をいったかな、とセレステは思った。

これでも大きく縮小して話したわけだけど、確かにやりすぎた気がしないわけではない。


「ええまあ、さっきも言いました通り、その召喚ってものが気持ち悪い上に、残酷なものでして。

 仮にも同郷と言える地球の人間を、人間とも思わない連中のことだから――

 つい、火をつけてしまいました、はい」


ラガネマパイサのことを抜きにして説明するとなると、こういうのがやっとだった。

そのうち風の噂ででも実際の情報が流れてくるだろうけど、その時は『物凄く盛られた』とか、『噂ってそんなものだ』と言い訳することができる。

なにより、フーマニタの国にはアンテロの細作を送ることもできなければ、その逆もできないから互いの情報は不正確になるしかない。


「…そのことは、後で二人で詳しく聞かせてもらおう」


どうやら軍務大臣のダーハラトとしては、セレステの話を真に受けるつもりもなければ、本当のことを聞きたいみたいだった。


「えっ、なにそれ、デートの誘い?

 やだな――ダーちゃん、大胆だね~」


「うるさい!本当に殴るぞ!?」


冗談でにげようとするセレステと、それに対して怒っているダーハラト。

そんな凸凹コンビーを、大臣たちは呆気にとられた目で見ていた。

…そして、すこし趣向の違う視線を送って、息を荒げているヒトが、一人…


「商工大臣?大丈夫ですか?」

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