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長生の刑

アランタの王宮を地獄絵図寸前の光景にしておいてとんずらこいた日の深夜。

廃人になった貴族たちが運び出され、片付けもろくにできないまま外から鍵がかかれた謁見の間、玉座の後ろに、音もなくゲートが開かれた。

そこからまた、例のミラーヘルメットがひょこっと頭を出し、部屋の中に誰か残っていないか確かめた後、そっとゲートから出てきた。


「さっきから気になっていたんだよな〜

 UT10102、これ……」


「間違いありません」


今回はUT10102を帯同――というか腕につけてきたセレステが、玉座の後ろの壁面にあるニッチ、正確には、そこに飾られてある、あるものを見ながらUT10102と話し合っていた。


……まあ、傍から見れば、全身黒ずくめの怪しい男が、玉座の後ろに飾られた貴重そうに見えるもの、『黄金色の球体』を前に、自分の腕時計へ話しかけているだけである――

という、結構シュールな絵面になるけど。


「よし、回収だ。

 盗んだものを、誇らしげに玉座の後ろに飾るなんて。

 正気かこいつら。

 ……ああ、そういえば地球にもあったな。

 博物館と称した盗品展示館」


目的の球体をニッチから取り出し、脇に抱えたセレステは、ベルトに差していたナイフを取り出し、玉座の背もたれに力いっぱい差し込んだ。


「さて、名も知らぬフーマニタの王よ。

 これで、当分は夜にも安心して眠れなくなるぞ?

 私はもう来ないけど」


そう言い残したセレステは、何か悪戯することはないか周りを見回したが、それらしいものが見えなかったので、そのままゲートを潜って消えていった。


翌日、片付けに入ってきた者たちが消えた装飾品と、玉座に突き立てられたナイフを見つけ、また悪魔が悪戯をしたと悲鳴をあげて気絶したりしたけど、それはどうでもいい話であろう。


              ***


テンゲルのブリッジに戻ってきたセレステは、アランタの王宮から『回収』してきた球体を、テーブルにそっと置いた。


「お忙しいですね、マイロード」


どこからともなく現れたアリメカリセスが、セレステを迎えながら挨拶した。


「私が忙しいのはいつものことだろう?

 でも、今回の件でちゃんと実戦テストができたよ。

 リフレクタービ○ト」


「伏字するぐらいなら、早く他の名前を考えられたほうがいいでしょう」


「むむっ。

 リュックから射出するわけだし、ちょうどいい名前なのに。

 まあ、名前のことなど追々考えよう。

 さて、回収してきたはいいけど…」


セレステの視線の先にある黄金の球体を見たアリメカリセスが、セレステに言った。


「ドワーベンのメインフレームですか。

 何であんなものを、王宮に飾ってあったんでしょう」


「まあ、多分、『ダンジョン討伐』の戦利品なんだろうな。

 奴らはあれを『ダンジョンコア』と呼んでいるらしいからな。

 他人の住処から略奪したものを堂々と…

 本当、厚かましい連中だよ。

 で、UT10102?どうだ?

 あれ、再起動できそうか?」


「動力を入れてみない限り、正確にはいえません。

 しかし、外部の損傷は見当たりませんので、多分壊れてはいないでしょう」


外部損傷がないことぐらい、ドワーベンではないセレステが見てもわかる。

それを突っ込みかけたセレステだったが、動力が入っていない状態ではガストが入れないのか、と思ったらそれも理解できそうな気がした。


「それもそうか…

 じゃ、どうしようかな。

 第17セクターに持っていってやるか?」


「そうしていただけると幸いです。

 でも、17セクターにはメインフレームがいますから。

 多分、解体して予備部品にするか、他の部材として活用されますね」


その無心な答えを聞いたセレステは、少し呆れる気がした。


「えっ。

 それ、扱いが雑な気がするけど…

 …ああ、そうか。

 蜂の巣に女王蜂が共存できない、そんなことなのか」


「それは生態的な問題でしょう。

 私たちとしては、剰余資源を有効に活用したい。

 それだけです」


剰余資源。

せっかく奪還してきたのに、元の持ち主であるドワーベンがそのような扱いでは、セレステとしてもがっかりするしかない。

しかし、剰余資源だったら、有用そうなところで有効活用してやるのも、立派な再利用ではないか、と思ったセレステがUT10102に聞いた。


「だったらな、これ。

 私がもらっても問題ないのか?

 こちらで適当な鉱山を見つけ出して新しいセクターを作るとか。

 でなければ、うちの工場の生産工程の管理役を任せたりできるかもしれないから」


「そうしていただけると、その個体としてはその上ない栄光でしょう。

 起動さえ確認できれば、その個体に誰が入るかで激論になるでしょうけど」


「大袈裟じゃない?」


「アインガストの側役です。

 …私だって、激しい選抜戦を戦い抜いて…」


はい、さいですか。

正直、セレステとしてはどうでもいい話だから、別に気にせず話を進めた。


「じゃ、君一人ではなく、ドワーベン全体に聞くよ。

 このメインフレームがどうしても欲しいセクターは、ないのか?

 あるなら、何とかしてでも持っていってあげるけど」


UT10102が少し黙り込んだと思ったら、答えが戻ってきた。


「大丈夫です。

 今メインフレームユニットが不具合を起こしたセクターはありません。

 予備部品も、全セクターで足りています。

 お好きにどうぞ、というのがシュバデンケの結論です」


「清々しいな。

 まあ、そんなことならありがたく活用させてもらおう。

 …と言っても、動力が問題だよなぁ…」


              ***


「ということで、ただいま戻りました」


「何が『ただいま戻りました』ですかぁぁぁぁぁ!!」


勇者召喚に巻き込まれたことを報告しに行ったセレステは、思いっきり怒られていた。


「父上、危なかったじゃないですか!

 どこか、お傷は?」


「いや、全然大丈夫だよ?

 運よくあそこで盗まれたメインフレームも奪還できたし。

 ついでに連中の王宮も半壊してやったよ。

 勇者召喚も、多分しばらくはできないだろう」


この父親の常識はずれぶりにも、幾分だれていたと思っていたラシオンだった。

しかし、昨日しでかしたことだけは…


「一人で王宮を半壊…

 どこの化け物ですかって」


「父に向かって酷いこと言うな」


「…あんなことやっておいて、のうのうとそんなこと言える…

 そんなヒト、世界広しといえど、多分父上だけですよ」


「まあ、そう言うことにしような。

 とにかく、別に私がやったと公にしたくはない。

 でも、お前だけには報告しておくべきだろうと思って」


それを聞いたラシオンも、セレステにしては珍しく、常識的な判断をしたと思った。


「それが妥当ですね。

 いくら敵対勢力とはいえ、宣戦布告もなく…

 しかも…アクマ?とかに誤解されたら、なおのことです」


「…ラガネマパイサのことも、できれば秘匿しておきたいしね。

 あれの力は確かに恐ろしいけど、あれに頼りすぎてはいけない。

 わかるだろう?あの姉弟は、私に従っているようには見えるが…

 私がいなくなったら、どうなる?」


かつてセレステが言っていた、『残った寿命は三十年以下』と言う問題。

三百年余りの寿命を持っているアンテロに比べ、百年も生きられない地球人の自分だから、残った三十年でフェリデリアとアンテロの世界を、できる限り加速しておきたいというセレステの告白から考えると、そんな自分がいなくなった後、どう動くかわからないあの5次元存在たちに頼るのは、危険すぎることだった。


「できれば、父上にはあと二百年は生きられて欲しいと思いますけどね」


苦笑いしながらそういうラシオンに、セレステも笑いながら答えた。


「こいつ、可愛いこと言ってくれる。

 まあ、せっかく巡り会えたお前たちだからな。

 私も…できれば、もっと、もっと長く生きて、お前たちに尽くしたいんだ。

 でも、種の限界ってのがなーー」


一度死によって分たれ、奇跡のような再会を成し遂げた親子は、また訪れる別れを考えるとしんみりとした雰囲気になりかけていた。


「あーやめやめ!

 こんな湿っぽい雰囲気、私たちには似合わない!

 だろう?筋肉バカ息子よ!」


「何いいい!?

 王に向かってバカとは、不届き千万!

 許さぬ!長生の刑に処するなり!」


「ははーあ!

 ありがたき幸せにございます!」


冗談で応酬しながらも、セレステは涙が出るような気がしていた。

あんな辛い思いをして別れた長男猫と、こう言う形でまた出逢えて、こんな会話までできるなんて。

それだけか、今生きているけど、いつかは生を終える他の猫たちも、みんなここで、再び家族になっていることがわかるなんて。

本当、幸せなんだな。


そう思いながら、嬉し涙が出かけていたところ、部屋の外から侍従の声が聞こえてきた。


「陛下、親衛隊長が上がりましてございます」


「ああ、通せ」


扉が開かれ、親衛隊長――ノルガーが入ってきた。


「親父が来たと聞きましたけ――うわっ、いきなり抱くな!」


「ああ、可愛い次男坊よ!」


「成人男性に可愛いいうな!

 それより、抱くなってあれほど…

 …って、え?親父?目元、腫れてない?」


いつものようにいきなりハグってくるセレステにうんざりしていたノルガーは、普段とは少し、様子が違うのを感じ取った。


「まあな。

 私って、全次元一の幸せ者だと、思っただけ」


「なんだ、それは……

 ………って、親父ぃぃぃ!?

 ここにあってはいけない、不穏なものが見える気がするけど!?」


その視線の先、テーブルの上には、バスケットボールぐらいの黄金の球体…


「あれ、ドワーベンのあれじゃないかぁぁぁ!」


「王宮にくる途中に拾った」


「そんなわけあるかぁぁぁ!」



結局、昨日何があったのかを聞いたノルガーは完全に呆れてしまい、ぼうっと上の空になっていた。


「…常識はずれなのも大概にしてくれよもう…」


「とにかく、これは他言無用でな?

 ラシオンともそう話していたから」


「いや、それは当たり前だけど…

 このメインフレームはどう説明する気だよ」


何があったかを秘匿すること自体はノルガーも同意したが、まだ現実的な問題が残っていたのだ。

ドワーベンのことも、しばらくは秘密にしておくことにした。

なのに、一般個体でもないメインフレームを手に入れたとなると、情報の公開はどうする?


その時、二人のバカが完全にハモった。


「「拾った?」」


「…あんたらな…」


「いや、『拾った』以上の説明はないと思うぞ、弟よ。

 偶然に発見したものなんだけど、それがなんと!

 伝説のドワーベンに関わる遺物でした!

 もしかすると、これでドワーベンと出会えるかも!

 …と言うことにするとな?」


「おお、それはいい考えだ。

 さすが私の賢い長男坊。

 で、国内の鉱山で新しいセクターを作るにしろ。生産施設の管理を任せるにしろ…

 自然と、ドワーベンの存在を紹介するにはいい方法だ。

 他のセクターのことは秘匿しておいて、示範区域のようにな」


なんでこの二人は、実の親子でもないのにこんなところでは阿吽の呼吸がぴったりなのかな。

ウキウキしている兄と父の二人を見ている、ノルガーの素直な気持ちだった。

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