親善の約束
すごく遅くなりました。
申し訳ありませんでしたぁぁぁ!
…週末には、執筆が進まなくて困っております…
「それで、ノルガ―のせっかくの休暇は台無しになってしまったわけ」
「え?いや、ボクはゆっくり休めたけど?」
ドワーベンとの接触を終えて、出発から五日目になった朝。
先日、ドワーベンとの協議を終え、フェリデリアに戻って来ていたセレステとノルガ―は、ラシオンと三人だけで調査旅行の結果を報告していた。
「四日も休憩できるなんて…
なんという羨ましい身分だよぉぉぉ…
弟よ、兄はお前のことが妬ましいぃぃぃ」
「あ、兄上?」
「こらこら、まじめな弟をからかうな。
お前が外遊する時も、ノルガ―はずっと王宮の留守を守っていたじゃないか」
「でも、外交航行の間だって、ずっと外国旅行…
いいな…うん…
王、やめようか。
ノルガ―よ、王位、もらう気ない?」
「兄上!」
どうやら、最近王宮に付きっ切りだったので、結構ストレスが溜まっていたようだった。
しかし、それはどうにもできないことではある。
王がそうやすやすと王宮を離れられるはずがないだろう。
ちょっと疲れ気味なのが不憫ではあるが、こればかりはセレステとしても、どうにもしてあげられない。
「陛下、ご冗談でもそんな話はおやめください。
このノルガ―、賊になりたくはありませんから」
「その通りだよ、ラシオン。
王位というのが大変なのは、まあ、察せるけどな。
軽々しく言ってはいけないことだということは、お前もよく知っているんだろう?」
二人の話を聞いたラシオンは、少しうなだれて溜息をつき、頭を上げて苦笑いした。
「冗談だよ、冗談。
…といっても怒られるな。
少し休みたいというのは事実だけど…まあ、仕方ないことだろう。
で、休暇の実りは?」
ラシオンとしても、度を過ぎた冗談だったことぐらい、自分でもわかっている。
だから、話を変えて本題に戻ろうとしているのが見えた。
二人も、不遜な話をいつまでも引っ張る気はない。
「ああ、その件なんだけどな…
まず、私たちが休暇以外に何をしに行ったかについて――
どの線まで、知られている?」
「いきなり二人が休暇、ということを疑っているでしょうけどね。
イーシャ以外に、誰にも言っていません。
アーシャにも秘密です」
「ああ、確かに、お伽話の存在だからな。
子供にはまだ秘密にしておいた方がいい」
多分、ナデントとダーハラトぐらいは薄々気づいているんだろうけど、こちらから先に言わない限り、彼らも黙っていてくれるはずだった。
「それで?結果は?」
「…大漁だ。
本当に、いたんだよ。
これ、見ろよ」
そう言いながらセレステが自分の前に差し出した板を見て、何なんだと思っていたラシオンだが、次の瞬間セレステの操作によってその板に浮き上がる画像を見て驚愕した。
「え、これ…
写真…じゃないよな?
天然色の写真なんか、まだ…」
「今更何を驚くんだよ。
スマホは見てたんだろう。
それはタブレットだ。スマホの大きいやつ」
「そんなのもあった?
確かに、盤面が広くて見やすいではあるが…
え、なんだこの裸身の連中は?」
今回の休暇で撮ってきた写真を見せていく中、ノルガーと一緒に写真に撮られたロボタ・ドワーベンに気づいたラシオンが、不思議そうにセレステに聞いた。
「それが、ドワーベンだよ。
何より、自分ではドワーベンと呼ばれていることに、全然気づいていなかったようだけど」
「そうか…?
いや、でもこれ、どう見ても裸の男性のシルエット…」
初めて対面した時のノルガーは、緊張しすぎていてその異様さに気づいていなかった。
しかし、こうして落ち着いてみると、その異様さが目立つことではある。
「まあな、彼らの社会には性別もなければ…
ある意味その体自体が衣装のようなもんだから、服を着る文化がないみたいだよ」
「…え?
それは、どういう…」
その説明だけでは、どうにも納得できなさそうな顔をしているラシオン。
当たり前だ。実際会ってきたセレステとノルガーだって、最初は混乱していたから。
「だから、どういうことかというとな――」
セレステが、最初の接触から説明を始めた。
向こうから偵察個体を送ってきた最初の接触や、ヤルデマラセナによってこちらの言語があちらに強制インストールされたこと、それからの色んな会話や、メインフレームとの会話で分かった色んなこと。
国家とか都市の概念がなく、個体再生産拠点としてのセクターという単位で暮らしていて、昔は100を超えていたそのセクターも今では53箇所のセクターが残っていること。
彼らをそんな羽目に追い詰めたのも、フーマニタだということ、そして…
「彼らとしては、できれば隠遁を続けていきたいと思っているようだが…
そう遠くない未来に、またフーマニタにバレて侵略されるかもしれない。
そんなところに、ウーバーガスト…
アリメカリセスの姉弟たちの出現に気づいたんだよ。
彼らは、種族の次なる段階への移行の可能性があることを、確かめたがっていたんだ。
だから、その次なる段階と見える彼女らに接触すべく、偵察隊を南下させていたとのことだよ」
「それが、ケイレスの国境近くで目撃された?」
「そういうことだ。
ケイレスがなんで北の国境を超えて乾燥地帯を目指していたか…
まあ、あちらはあちらで目的があっただろうけどね」
「ふむふむ」
多分、ケイレスとしては不毛の北部乾燥地帯への進出、開拓の可能性を探っていたんだろう。
南への進出は…まあ、セレステという抑止力の存在で、諦めなければならなくなったから。
「しかし、私たちの方から赴いたことでな。
図らずもウーバーガストの方から実体を表したことになったんだ。
それで、ケイレス近くまで接近していた偵察個体の任務を終了し、帰還させると聞いたのでね。
少しサービスしてやったよ」
「サービス?」
「ハーヤ・ナクマを呼び出して、偵察に出ていた個体を全部回収してやったよ」
「そこまでしてやる義理はなかったんじゃ…
というか、ケイレスの国境近くだったと言ってませんでしたか?
ケイレスに見られたら困るのでは?」
ラシオンのその問いに、セレステは少し戸惑った。
作った自分も知らなかった光学迷彩のことを、ラシオンに知らせるべきか、どうか。
でも、どうせ同じナクマシリーズの乗り手として、隠し通すのもどうかな、という気がした。
「それがな…
…ハーヤ・ナクマに、光学迷彩…
いわば、『目に見えなくなる』機能があってね」
「…はい?」
ラシオンは今自分が何を聞いたか、理解できなかったみたいだった。
「だから、目に見えなくなるって」
「あの巨体がですか?
…いや、そんな機能があると一言も…」
「私も知らなかった」
それを聞いた途端、ラシオンがジト目になってセレステを見ていた。
まさに、寝言は寝ながら言え、とでも言いたそうな顔だった。
「いや、本当だよ!
ナクマシリーズの外形を作って実体化させたんだけど、まさかあんな機能があるとは…」
「なのに、どうして?」
「…ヤルデマラセナのやつが、勝手に機動させたんだから」
それを聞くと、ラシオンは納得した顔になった。
「なるほど、彼が…
じゃ、後で他になんの機能があるか聞くべきですね。
『作った本人もわからない』機能がどれだけあるか」
「いや、そんな…」
そこまで間抜けじゃないから――と言いたいけど、流石に、自信がない。
そう考えているセレステに、ラシオンが質問を続けた。
「それはそれで、どうしてそこまでサービスしたんですか?」
「まあ、しばらくは隠遁したいというのに、ケイレスに見つかったりしたら困るだろう。
帰還するのも大変そうだから、座標もらってズバッと、な。
もちろん、彼らが世に出てくる気になったら、ケイレスの双子の女王にも知らせる気ではある」
「まあ、彼らが隠遁したいというのは彼らの自由ですし。
父上が手伝うのも、私たちからあれこれ言うことではないんですから。
しかし、またフーマニタか…
全く、厄介な連中だ」
「同感だよ。
しかもあの勇者召喚など…
ピグレットの件と言い、奴ら一体、知的生命体の命を何だと思うんだ?」
「何だか、生命体としての根本が違うような、そんな気もしますけどね」
そう嘆く二人を側で見ていたノルガーが、セレステの脇腹を指で突っつきながら言った。
「なあ、親父。
『それ』のことは言わないか?」
「それ?」
また何のことか怪訝そうな顔になるラシオンの前に、セレステが何か思い出したと言いたそうな顔で、左手首を差し出した。
「これだよ」
「腕時計?それがどうした…」
懐中時計が一般的だったフェリデリアで、腕時計をつけたセレステの姿が話題になって、時計職人たちが時計の小型化と腕時計化に励んでいて、腕時計自体は別にふしぎなものではなくなっていたが…
「お初にお目にかかります、フェリデリアの国王陛下。
此度、アインガストのお側につく大任を拝命しました。
デバイス・ドワーベンの、UT10102と申します」
「…は?
ど…何?」
「言っただろう?
ドワーベンにとって、金属のボディなんか、依代か服にすぎないと。
このヒトはね、外の世界の偵察任務と…
何かあった時の非常連絡のために、このボディで私についてきたんだ。
あ、でも心配するな。内密な話をする時には外しておくと予め協議しているから」
「いや、それは当たり前なことですけど…
え?あ?じゃ、ここに最初からドワーベンの代表が一緒にいた、ってこと?」
「代表というか、全員だよ?
シュバデンケに繋がっているから」
それを聞いたラシオンの顔が、呆気に取られた顔から、当惑した顔、イラッとした顔になって――
ガックリとうなだれ、手のひらで顔を覆って、半分唸るような口調で一言一言噛み砕いて言い出した。
「父上ぇ…
そんなことは、あらかじめ言って欲しかったんですけどぉ?」
「いや、言ったら格好つけようとしていたんだろう?
ありのままのお前を、知って欲しくてな?
なあ、ノルガー?」
「…私は一応、引き留めようとはしました、兄上陛下?」
嘘だ。
ノルガーも、ニヤニヤ笑いそうになるのを必死に堪えているのが、その声だけで分かった。
この二人、いつからこんなにそりが合うようになった?
「はああ…
こうなった以上、仕方ないな。
ドワーベンの諸君、見ての通りだ。
余は、フェリデリアの国王。
ラシオン・ラゲンデリエ・ヴェーダ・フェリデリアだ。
こちらにいる王父卿、レギス・バシ・セレステ・オーテル・パールがそなたらに約束した、
『良き隣人になりたい』という意思は、余とて変わらない。
いつかそなたらが日の当たる場所へ出てきて、
地上の国家と友好関係を結ぶその日――
そなたらが先に地上を敵対せぬ限り、フェリデリアはそなたらを支援しようぞ。
これは、国王の約束だ」
そのラシオンに、差し出されたセレステの左手首につけてあるUT10102が答えた。
「ありがたき幸せにございます。
陛下の仰せを奉り、晴れて地上の方々と交流できる日が来ることを――
その日を、お待ちいたしましょう。
これは、我らドワーベン全ての統合意思にございます」
後世、フェリデリア・シュバデンケ親善条約として歴史に残る瞬間だった。
…その大袈裟な名称にしては、王の前にレギス・セレステが左手首を差し出しているだけの、結構シュールな光景だったけど。




